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9・11平和を書こう 「あさひ」 2



第一印象では大人嫌いに見えた旭も、私のマンションに向かう車で二人きりになると多少子供らしい顔もして見せた。

「ね、ね、おじさんはお父さんの何?従兄弟とか?」
「あ、ああ。彼の叔父さんの従兄弟の子供」

大人は嘘つきだな。旭。
しかも不思議と罪悪感も薄い。

「ややこしいな。でも、僕のお父さんのこと知ってるんだろ?」
嬉しそうに笑うから、私もくすぐったい気分になる。

「お父さん、ニューヨークで死んだんだ。でも、ニュースでやってたんだ。彼らの尊い犠牲をこれからの平和につなげることが残された私たちの果たすべきことだって」

丸暗記しているんだろう。何度も何度も口にした言葉だと、その口調から感じ取れた。
「……カッコイイ、言い回しだね」
「うん!オレ、それを聞いたとき、まだ小さかったけど、すごく感動したんだ。ぼくの、あ、オレのお父さんは世界の平和のために死んだんだって」

世界平和のため、か。だから、ヒーローなのか。
死んでないといったら、やっぱり、がっかりするんだろう。
それもまた、淋しい気もする。

「おじさんは」
「おじさんは止めよう、……じゃあ、聡さん、でどうかな」
「あ、うん。聡さんは何のお仕事してるの?ぼく、あ、オレ」

「オレより、僕のほうが使い慣れてるんだろう?無理しなくていいよ」
「え、ええと」
「ぼく、という響きの方が私は好きだな」
そこで照れたようにシートベルトを伸ばしたり縮めたりする仕草が、やけに可愛い。

「ええと。僕、お父さんを知らないから、あの、どうしていいかよく分からないけど」
「いいんだよ。私も、子供がいないから君とどう接していいか迷ってる。お互い様だね」
「迷惑かな?僕がいるの。聡さん一人暮らしなの?」
私が頷くと旭はほっとしたような顔をした。
「最近ね、ニューヨークから戻ってきたんだ。借りたマンションが少し広すぎるし、丁度よかったんだ。一人は飽きたから、君が来てくれるのは嬉しいよ」

「ニューヨーク!?」
「ああ。遠慮しなくてもいいから。欲しい物があったら言ってね」
「うん、ニューヨークの話、聞かせて!」

お父さん、ニューヨーク。そして、テロリストと世界平和。
彼の喜ぶキーワードだ。




旭が施設に入ったのは夏休みの始め。八月も終わろうとしている今、旭は私のマンションに来た。
小学校は少し遠いが、今までと同じ所に通わせることができる距離だ。
一時保護所から運んできた彼の荷物があまりにも少ないので、私たちは翌日の日曜には買い物に出た。

何を買っていいのかもよく分からないが、デパートの中を二人で歩くのは楽しかった。
人の服を見立てることがこれほど面白いことだとは知らなかった。
一人では決して入らないコーヒーショップで、旭が甘いものをほお張るのを眺める。
悪くない。
由香里もこんな気分でいたのだろうか。

ふと、彼女のことを思い出す。

コーヒーをテーブルに置いた私の気持ちを見透かしたように、旭はフルーツパフェに乗っている赤いサクランボを手に取った。

「お母さん、これ好きなんだ。いつも僕のを取るんだ」
「へえ、知らなかった」
「でもね。僕知ってるんだ。お母さん、本当はサクランボじゃなくて、こっちを食べたいんだ。でも、二つ買うお金がないから。もっと安いアイスクリームにすれば二つ買えるのに」

そう言って旭はパフェに浮かぶアイスクリームに深くスプーンを突き立てる。
丸いそれがゆったりとグラスの中のチョコレート色を揺らした。

「それでも、彼女は君に食べてほしかったんだろう?」

旭は黙って頷いた。
そうして、旭は黙って由香里の愛情を受け取っていたのだろう。


苦労させてしまったのだ。
別れた時、由香里は旭の養育を条件に、一切の金銭を要求しなかった。
当時二十七歳だった私も初めての海外赴任と、予想もしなかった離婚という事態に混乱していた。家族を失い、海外で一人生きていく不安が私を頑なにさせた。
二度と会わないと決めたのだ。

そのくせ、この六年間、再婚などしなかった。結局一人で淋しい思いをするなら離婚する羽目になるほど頑なに主張することもなかった。本末転倒だった。
ただ、あの義母と一緒に旭や由香里が暮らすこと自体に、私は嫌悪感を抱いていた。それも一因だった。実際、こうなってしまっている。
児童相談センターから連絡を受けたとき、私は心のどこかで義母に悪態をついていた。

いや、すべて結果論に過ぎない。
もう終わったことだ。
結局、罪のない旭がつらい思いをした。


「すまなかったね」

ポツリと出た言葉に、旭は笑った。
「なにが?」

ああ、そうだ。
私は彼にとって父親ではない。
彼の父親は、世界平和のために命を落とした英雄。子供の前で自らを明かすこともできない、小心者の父親ではないのだ。

「聡さん、元気ないな」
心配そうに私を覗き込む。

「いや、私みたいなおじさんは、こういうところは普段来ないからね、少し緊張しているんだよ」
店内には若いカップルや家族連れが大半だった。

「ふうん。僕も初めてだよ。いつもはファミレスだから」
「そうか、そっちにすればよかったね。私も仕事中はファミレスでランチすることがあるよ」
「なんだ、同じだ」
それから旭は、誕生日に行ったファミレスの話をしてくれた。

旭が気に入っていたハンバーグがメニューからなくなっていて、店員に交渉したが作ってもらえずに由香里が怒り出したこと。困って、旭がハンバーグは最近嫌いになったんだと説得しようとしたら今度は自分が由香里に怒られた。泣きながら食べた代わりのグラタンが美味しかったのにそれも素直に言えずにいた。
散々な誕生日じゃないか、というと旭は笑った。

それでもデザートのアイスクリームをあげると提案したら、由香里の機嫌も直ったから。グラタンは美味しかったし、お店の人がサービスでジュースもくれたから、と。
どちらが親なのか分からないなと私が笑うと、旭もまた笑った。
「お母さんも最後に同じこと言ったよ、聡さんと同じこと」

そうやって、旭は、私が何か聞こうとしなくても、積極的にいろいろなことを話してくれた。それに相槌を打ったり、笑ったりする私に満足しているようだった。


相変わらず、私の仕事は忙しかったが、帰りの遅い私に、旭は文句一つ言わず、時に夕食を準備してくれていることもあった。
九月は決算月。私の仕事は忙しくなる一方だった。

朝だけは彼と話をし、持たせた携帯からのメールで夕食の相談をする。オヤスミの挨拶をメールで受けることもしばしばだ。
申し訳ない気分と、忙しさと疲労。
感じれば感じるほど、由香里の苦労を思った。



⇒3へ続く
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