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「想うものの欠片」第四話⑤



深く帽子をかぶり、スレイドは静かに廊下に出た。

扉の外の兵士と、目が合った。こちらを見ている。
スレイドはにかっと笑ってみせる。

「お疲れさんですねぇ!どうです?これ、神のご加護のあるお札。大公閣下御用達ってやつですよ」
赤い文字が書かれた細長い紙切れを、兵士の前でひらりとさせる。

スレイドより五歳は若いだろう兵士は視線をそらして、咳払いをした。

「おや、いらない?」

大げさに肩をすくめて見せると、ふふんと笑った。

「そりゃ、残念です」
ふわりときびすを返す。

顔の前に透かした赤い文字。それを眺めながら、スレイドはまた目を細めた。
回廊の天窓から指す日差し。

遠く、教会の鐘が三時を知らせる。

「さあて。次はウルルカ、か。まったく、人使いが荒いことで」

赤い文字を眺めてから、細長い紙をくるりと丸める。小さな筒にしたそれを、胸のポケットに差し込んだ。



公国議会の開かれた翌日。

タースたちはナトレオスの街から南下し、半日かけてウルルカの街に到着した。ライト公領の西隣となるこの街は、赤銅色の煉瓦で出来た古い聖堂を中心に広がった街だ。

過去には、現在のライトール公国の各都市がそれぞれ独立した一つの国家だった。公国の首都であるライト公領は当時から大陸最大の都市国家であった。その名残で、ライト公領には領地を囲むようにめぐらされた城壁が今も遺跡として残っている。

このウルルカはその城壁の直ぐ外側に位置した。

かつて城門では入国を許されるのは日に二百人までと制限されていたという。
旅人は早朝の長い列に並ぶために、手前の街このウルルカで必ず宿を取った。
それが、この街の始まりだった。都市国家が戦争をしていた時代には、前線基地として使われたため、この街の聖堂、ドシャル・ド・カレスの赤銅色の壁には銃弾の跡が今も残る。


「どれも、遠い昔のことだよ。ライトール公国になる前、何百年も前の話だから」
そういってタースは、首をかしげるミキーに笑いかけた。

今では聖堂周辺ではなく、トラム・ミスの駅、ウルルカ駅の周辺が一番にぎわっている。彼らが今、馬車を走らせている大通りも、いずれウルルカ駅に突き当たる。

車のために、路上の石畳には隙間を埋める砂がまかれている。食料を売る商店は、店の前の砂埃を防ぐためだろう、盛んに水をまく。
土と水の匂いがかすかに鼻をくすぐる。

昼下がりの強い日差しが、石畳を白く照らす。通りには陽炎とも砂埃とも取れる濁った空気が自動車の通るたびにちらちらと揺れた。自動車がけたたましく警笛を鳴らすと、その音に驚いた馬車馬がいななく。カツと前足が宙をかき、御者が慌てて手綱を引き締めた。

「危ないだろう!」
御者の声も、走り去る自動車には届かない。
黒い車体に幌をつけた自動車の赤い大きな車輪がからからと回り、肉屋の前で店先をのぞいていた子供数人が指をさす。

車の脇まで駆けつけるとニコニコと笑って運転手に手を振った。
まだ自動車は珍しかった。

蒸気機関を使った自動車は実用化されず、今は新しく発明された電池を積んだ自動車が主流らしい。
蒸気自動車は重量が重くなり、必然的に大きくなる鉄製の車輪が石畳を砕くのだ。
そのため、製作が禁止され、今では軍が使う重装備の車のみ導入を許されていた。
排気のない電気自動車は子供たちに人気だ。

きゃあきゃあとはしゃぐ子供たちの顔が、いっせいに通りの向こうを見た。
走り抜ける馬車と馬、人の群れの喧騒の中、軽快なラッパが吹き鳴らされる。
ドンドン、と太鼓の音に、子供たちは手を叩いた。

「シーガ様!見てください!サーカスですの!移動遊園地が来てますの!ほらほら、ラッパが鳴っていますの!」

通りの向こうを赤と白の衣装を着た青い鼻のピエロが大きな白い手をふっていた。片手でもったラッパを吹き鳴らす。

「サーカスかぁ」

タースもビラを配りながら歩くピエロたちを眺めた。すでにピエロたちの後ろには子供たちの行列が張り付いていた。

タースも聞いたことはあった。
年に数回、大きな街では移動遊園地が来る。

広い公園や広場でテントを張り、サーカスやメリーゴーランドがある。露店や大道芸、花火、人形劇。それこそ子供たちの喜びそうなものがすべて詰まっているのだ。

「うわー!ピエロだ!」
数人の子供たちが歓声をあげ、無理やり馬車の前を横切ったので、タースは思わず声を上げた。
「危ない」
御者のユルギアは慣れたもので、見えない手綱を引き寄せて、リロイは鼻息を吐き出しつつ停まった。
「危なかった、偉いなリロイ」
タースが馬に声をかけると白い馬はふりんとタテガミを揺らしてこちらを見たようだ。
嬉しそうに大きな目が瞬いた。
御者のユルギアもにっこり笑った。
彼の視線の先、右側をタースも見つめた。

うきうきさせるリズムを刻んで、太鼓とラッパの音が通り過ぎていく。みれば、他にも興味を引かれた馬車や馬が停まっていた。皆、ビラ配りのピエロたちが向かう先を見つめていた。タースたちのいる通りを少し戻った十字路を右に進むと広場がある。この位置からでも大きなテントの赤い旗が見えた。

時折、花火が上がる。白い煙が小さな雲となって、青い空に残った。
それは風に流れ、また新しく出来た煙の雲に場所を譲る。
コンコン、と背後の硝子がなって、タースはつい見とれていたことに気付く。

「タース、お前はここでミキーと降りなさい。私はこの先の郵便局に用事があります。宿は直ぐそこに見える夕暮れ亭です。日が落ちる前に戻ってきなさい」
「え?」
ミキーがシーガの顔に頬を貼り付けるように顔をのぞかせ、笑った。

「タース、一緒にサーカスを観に行きますの!ね!きっとメリーゴーランドもありますの!」
目をまん丸に開いて、ミキーがこれほど嬉しそうに笑うのは初めてだった。白い頬も興奮のためか薄桃に染まっている。

タースはサーカスなど行った事はなかった。

「よし!行こう!」

ぴょんと御者台から飛び降りると、馬車の扉を開いた。
同時にミキーに飛びつかれて、思わずよろけて数歩下がる。柔らかな髪が頬をくすぐった。
「遊園地ですの、カーニバルですの!ミキー、大好きですの」
少年にしがみ付いたまま、ミキーはぱたぱたと足を泳がせた。

「ミキー、耳をしまいなさい!」
シーガの鋭い声に、きゃんと肩をすくめて頭を押さえた。

「あはは、ミキー、ほら、降りて。行こう。僕初めてなんだ」
「はい、嬉しいですの!」
二人は手をつないで、通りを横切り、公園に向かって駆けて行った。

柔らかなピンク色のレースを重ねたワンピースの少女はミルクティー色の髪を二つに縛り、白いレースの帽子を被る。タースも絹の白いシャツに黒いレースを効かせたグレーのベスト、襟元には例の黒い蝶ネクタイ。黒のハーフパンツに黒のブーツ。
通りを歩く労働者階級の子供たちとはまったく違う。

目立つ二人がどう見えるのか、小さな子供たちが楽しげに後を追いかける。

シーガは馬車の中からそれを眺め、ふと息を吐いた。

「行きましょう、リロイ。四番街北です」

御者のユルギアが帽子のつばをちょんと持ち上げて挨拶し、リロイは走り出す。


「嫌な、空気ですね」
シーガのつぶやきに、御者は小さく首をかしげた。


次へ(9/21公開予定♪)
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ぬこさん♪

お忙しい中ありがとう♪
年賀状…もらうと嬉しいけど書くのはどうも、手間ですよね…。
改めて自分と相手との関係を洗いなおす(笑)きっかけでもありますが。

こちらこそ、お世話になりました♪
楽しいお話と、楽しいコメント♪
らんららも、このマイペース更新ですけど、がんばります~。
来年もよろしくお願いいたします~♪

流れ去る
悔恨の空に
朝日差す…

って、短歌?(笑)

「年賀状代わり」

 どうも、こないだ今年最後かなとコメントに書きましたが、リアルで年賀ハガキまったく書いていないことに今更動揺し、せめてブログでは挨拶に回ろうと思い立ちました(笑)
 読むのがとろいやつですが、来年もお世話になります。

 今更なんですけど、ここのブログは全快見開きにして読むのが正解なのですな(笑)
 
 青空見つめ
過ぎ去る雲よと
 悔恨さらば
 

楓さん♪

夕暮れ亭…意外?
らんらら、横文字苦手だから。
地名とか、本当は漢字にしたい…(宙の発明家ではそうしてたから、こっちは泣く泣く?横文字地名…)

いぃ

夕暮れ亭…このネーミングに、らんららさんの意外性を見ました。
ツボです。←そこ?笑
あ、次へ走ります!!

史間さん♪

はい!野放し!!!
王子は謎だらけですね~♪この第四話では明かされませんが、第五話くらいで、ああ、そんなこと考えているのかと分かりますよ~♪
てか、なぜ、タース姫?(笑)そう言う関係かしら…ぷふっ♪

シーガ様、謎、深まる…

ああ、王子様がお姫様(注意:タース)を野放しに(笑)
王子の謎が深まり、そしてスレイドさんのカッコイイも深まる!
うーん、不穏な空気ですね。
ミキーちゃんを怖がらせて~もう!
遊びに出かけたのは何かの意思伏線なのですね!
どきどきします!

chachaさん♪

長い前振りで…
ついつい新しい街に来ると説明したくなるタースくんです(笑)
ふふ~スレイドさん、合流するかなぁ?
シーガくんが二人で遊びに行かせる理由は遠い先に(笑)分かる仕組み♪
楽しいデート、タース君は上手くできるのかなぁ~♪

いやいや。

本当、脱帽です。
この風景!なんて素敵なんでしょ!><
車と馬車の行き通う街並み。ちゃんと、車の為に砂をまいたり水をまいたり。
でも、空気を汚さないよう、電池自動車とはまた!ちゃんと考えてますね~^^
この時代を壊さず、世界を壊さず一つ一つのものに十分注意しながら考えているからこそ、こういったモノが出てくるんでしょうね☆
いやぁ。やっぱり凄いなぁと^^

スレイドさん・・・お?もしや三人と合流するのかな?^^
意外とスレイドさんとタースの掛け合いも好きなので(笑)楽しみです♪

シーガくん、また何やら感じ取っているようですが・・・
タースとミキーちゃんを遊びに行かせる辺り、ちょっとはタースに優しくなったのかな?なんて(笑)
さてさて、何が起こるんでしょう?ドキドキ><

うん?

とっても楽しそうな雰囲気なのに、シーガ様には嫌な空気が…?
うーん、やっぱり凡人が一番だなぁ^^;

タースくんとミキーちゃんの姿はとっても微笑ましいですね~。
特に、歴史的な背景を教えている姿が!!
ミキーちゃん、分かっていないかもだけど、自分の知っていることを話して
くれるのって嬉しいものですよね!!
タースくんの気持ちが伝わってきますー。


takagaっち♪

うふふ~♪
スレイドさん、いいですよ♪
書いていて楽しい♪
電池自動車、印象的に最近の電気自動車と混同されちゃうかなと心配しつつ、でも、蒸気自動車は問題ありなので、使っちゃいました。
じわじわと、大きな流れと、タース君たち三人の関係とを動かしていく予定です♪
今回も少々長めだけど♪
よろしくお付き合いください~!!

不穏な空気ですね

やっぱりスレイドは曲者。
飄々としていても眼は笑ってない感じ。キラッと光ってそうですね。目が。

電池自動車時代ですね。活気がある時代って感じで。
民衆も現在を生きてるってわけですけど、また何か起こりそうな前振りっぽい雰囲気の今回(笑)

きゃー
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