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「想うものの欠片」第四話⑥



パン!

「うわ!」

花火の音に首をすくめるタースに、ミキーは面白そうに笑った。

二人手をつないで公園に向かう通りを歩く。
公園は煉瓦の門を持ち、今は開かれているその鋳物の扉に、たくさんの風船がくくられている。風船を配るピエロが色とりどりの丸の中で、不思議なイキモノのようにこっけいな動きを見せる。

「うわ、なんか、別世界だ」
門を通り過ぎる二人に、ぬいぐるみの大きな白い耳をつけた小さな男の子が、ピンク色のビラを手渡す。

「珍しいレスカリアの白い虎だよ!見たことない大きな猛獣だ!」
子供の声にタースはビラを眺める。

珍獣!と、大きな文字が躍る。
「すごいですの!見てみたいです」
「ほんと、面白そうだね」

また、パンと花火が鳴る。
思わずタースの手に力が入る。気付いてミキーが両手でタースの手を握り締めた。

「怖いですの?」
「あ、ううん、そうじゃなくて。ちょっとびっくりするんだ」
心配そうに見上げる少女に、タースは微笑み返す。
思い出す音がある。


猟銃の音。
幼い頃は、その音が父親の存在の証のようで、心躍らせたことすらあった。
今は、その音の結末を、身をもって知っている。
だから、どうしても身がすくんでしまう。

ふと、レンドルさんを思い出した。老兵の彼はきっと同じ気持ちを、感じたのかもしれない。平和だからこそ、火薬の音も楽しく感じられるんだ。

公園は、入って正面に大きなテントが見えた。馬車からも見えた赤い旗を風にはためかせている。
そこまでの通り沿いに、小さな見世物小屋や、食べ物の露店。道化師が三つも四つもボールを投げ上げている。
子供たちが楽しげに脇を走り抜ける。

「タース!向こうにメリーゴーランドがあるですの!」
そう叫んで、ミキーはぱっと手を離すと、走り出した。身軽に人ごみをすり抜けていく。

「ミキー!」
少女の薄桃の服を目印に、タースも走り出す。
と、誰かにぶつかる。

「いて」
地面に投げ出されたタースの手元に、ごろんとりんごが転がる。
赤いそれは、一つだけではない。二つ、三つ。
足元にも、三つ。
「いったいなぁ!」
年上の女性だ。
派手な赤毛をポニーテールにきゅっと縛って、大きな青い瞳、きっちり化粧をした顔。

睨まれてタースはちょっと肩をすくめた。
「ごめんなさい」
「危ないでしょ!もう。ああ、大変、キドラのごはんが」
二十歳くらいの女性が、地面に膝をついて、持っていた籠にりんごを戻す。
タースも手伝った。

「キドラってなに?」
タースが尋ねると、女性は顔をしかめた。
「え、なんか悪いこと聞いた?」
「関係ないでしょ!気をつけて歩きなさいよ!ボーっと子供みたいに浮かれられてちゃメイワクなんだから」

ぽんぽんと早い口調でそれだけ話すと、ポニーテールの女性は籠を抱えて走っていく。慌てているようで、また、帽子を被った紳士とぶつかりそうになっていた。

「なんだ、自分が走ってるからぶつかるんじゃないか」
キドラってなんだろ。
「あ!」
気付いて、見回す。
ミキーの姿は、どこにも見えない。

パン!

また、嫌な音が響いた。
一瞬目をつぶって、それから一つ息を吐いた。
タースはミキーが叫んでいたメリーゴーランドのほうへと歩き出す。
メリーゴーランド。

丸いテントの下、梁につながれた馬の形の乗り物が、円を描いてくるくる回る。子供たちが楽しそうに乗っている。
中心の支柱には新しいベアリングの技術が使われているんだ。支柱の下では電気を使ったモーターが動いている。

少し離れた場所で一台の蒸気自動車がエンジンを回していた。大人一人くらいの大きさの黒塗りの煙突からシュシュッと白い蒸気を吐き出す。運転席の脇に積まれている大きな輪と小さな輪が太いベルトでつながれ、それが回転することで発電しているのだ。その電力でメリーゴーランドは回る。

蒸気機関車に似た姿。違うのはアーチを描く可愛らしい屋根が前後の支柱に支えられてついている。綺麗にペイントされた車軸と動力部。機関車に比べれば小型だから、間近で機関車を見てきたタースにとってはおもちゃのように可愛らしく感じた。

視線をそちらに奪われながらも、タースは回ってくる馬一つ一つに目を凝らす。
どれかにミキーが乗っているかもしれない。

先ほど見た白い馬に乗った、赤いスカートの女の子が回ってきた。
一周回った。
ミキーの姿はなかった。

「はぐれた、ってこと?」
天を仰ぎながらタースはため息をついた。


公園の敷地は広い。
ボールで的を当てて商品をもらうゲームやカップルの群がる占いのテント、男の子たちは空気銃で風船割りを楽しんでいる。

人ごみをすり抜けながら、ほとんどすべての店の前を探してみたが見当たらない。露店でないとすれば、サーカスの会場の大きなテント。後は、その周辺の仮の小さなテントとサーカス団が使うための四角いコンテナ。それらはサーカス会場の大テントの奥に、連なるように続いている。しかし、関係者以外を入れないように鉄の柵が並べられていて入れない。

タースはサーカスの大テントに入ってみることにした。
さっきの白い虎のショーがもう直ぐ始まる。

呼び込みの男が、髭を揺らしながら大きな声を出していた。
脇ではピエロが鍵盤のついた楽器で楽しげな音楽を奏でる。

人の列につながって仮設の階段を昇り、タースもテントの入口の黄色い幕をめくって入った。
外の日差しに慣れた目には中は真っ暗に見える。
一瞬立ち止まるが、後ろから人の気配を感じて進む。
前を行く親子連れが黒い幕を開いた。
歓声が聞こえてきた。

潜り抜けるとそこはステージを下に見た、中段くらいの観覧席の脇だった。
それでも広いテントの中心からはかなりの高さで、一瞬目がくらむ。
半円形の観客席はタースより下の段はほとんど一杯のようだ。通路を歩いて、適当に階段を昇り、空いた席を見つけると一旦そこに座った。客席を見回していたけれど、ミキーの姿はなかった。

高い天井。がっちり組まれた鉄骨の大きなテントに圧倒された。
梁と梁の配置の妙、幾何学模様を放射状に並べるそれをタースは感心してみていた。
梁と梁の間につながれたテントの布。天井部分は明るい色で、外の明かりが透けている。だからなのか、場内は想像したよりずっと明るい。舞台の脇には松明が焚かれていて、それはそれで明るいのだが、天井のほうが今は明るく感じた。

太陽がいかに明るいものであるか、その光を生かした建築が多いのも頷ける。タースは寺院建築のステンドグラスを思い出していた。

「みて、本当に白いよ!」
隣に座る子供が傍らの父親に叫んで、タースははっと我に帰る。
舞台では、ドラムが鳴り響き、正面のピンクのカーテンの奥から白い獣が出てきたところだった。

離れた場所からだがタースにはそれが、レスカリアの白い虎であることが分かった。
同時に、それが。

少し普通の虎でないことも。


虎は、尖った耳をぴんと張って、場内の音すべてをもらさず聞いている様子だ。白い尻尾の先はオレンジに近いふさふさした毛がついている。体はうわさどおり真っ白。
特有の縞模様は茶褐色で、背に近づくにつれオレンジの色が強くなる。瞳は黄色。

鋭く場内を見据えている。首に巻かれた重そうな黒い鎖も、虎がぐんと首をふれば、鈴のようにチャリチャリと音の立てて揺れた。

虎は、調教師の女性のムチに、大人しく従うように、まずは舞台を一周した。
調教師の女性は、赤毛を一つに縛って、目だけに小さな仮面をつけている。白い羽の形を模したそれの下には、見覚えのある顔が浮かんだ。
さっきの、りんごの女性だ。

キドラは、あの虎のことか。
女性の隣で猫のように座って客に向かって頭を下げる白い虎を見る。
虎は、タースを見つけた。
鼻をピクリとさせた。
その様子に、女性は気付き、にこやかな表情のままちらりと観客席を見上げた。かすかな仕草。客は誰も気づいていないだろう。
タースだけが、それに気付いていた。

しゃん、鳴らされる女性の手元の鈴。
虎はそれを合図に、用意された台の上に飛び乗った。
拍手が起こる。
次の合図で、二メートル先のもう一つの台に飛び移った。
どよめきのような声とともにうるさいほど拍手が響く。
と、そのときだった。

テントの入口、先ほどタースが入ってきた黒い幕の向こうから、ピンクの何かが出てきた。

それが姿を現すかどうかというときに、虎はすでに舞台の端を蹴っていた。
腰くらいの高さのフェンスを軽く跳び越す。

悲鳴。

大人二人分はあろうかという大きな虎は音もさせずに観客席の通路を駆け上った。
目指す先には。
なぜか、大量の風船を持った少女。ミキーだ。

タースはすでにミキーに向かって走っていた。

ミキーは大きな目をぱちくりとさせ、首をかしげた。
視界に虎は映っているはず。
それでも首を一つかしげて、にっこり笑った。

「ミキー!」
タースが叫ぶのと同時に、白い虎がミキーに飛び掛った。
キャー!

逃げようとする人の波が、通路を中心に広がって、水滴を落とした池のように人の波紋が場内を揺らした。

「ミキー!」

タースは席を立った婦人とぶつかりそうになって、何とかよける。
その向こう。入口の幕の前で、ミキーは立っていた。

虎は、ミキーの周りをぐるぐると回っていた。


次へ(9/23公開予定♪)
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コメントレス…遅くてごめんね~!!

かいりさん♪

ありがとー!!
そうなんです♪ミキーちゃん、愛されキャラ!!
今回登場のお姉さん♪どんな人なのか♪うふふ~♪
楽しみにしてください♪

takagaっち!!
ああ、涙の受賞!!(笑)
タース、実は人ごみに慣れてない?割とトロトロしてます…(^^;)
らんららもすぐに同居人とはぐれるので…リアルでしょ?


楓さん♪
ベアリング…偉大ですよね、ベアリング発明した人…。
は!!もしや、これがヲタなネタだとしたら…。ベアリング知らない人、…いる?のかな?(やばい、意識してなかった!!)
タウくんはきっと、新しいモーターと、発電のための蒸気自動車に興味ありですよ♪二人で蒸気自動車の最も効率の良い燃料について語っちゃうわけです!!う~ン♪楽しそう!!(←お前もか?)

新しいベアリングの技術…
そういうところに目が行くタースはさすが機械ヲタ。
タウが横で「きっとあそこに軸には…」て言いかけていたので、
おそらく同レベルのヲタかと(笑
新キャラ登場ですね。
もしや、レギュラークラス???
キドラも?汗
ミキーとキドラ、なにかあるね。知り合い?

君……

初対面の相手に質問をするでない。タースよ(笑)
でも、これは後半に登場する虎への前フリだからタースはグッジョブ。
ミキーとはぐれる場面がリアルでした。第2回ビョシャデミー賞を受賞です。おめでとうございます!!

び、びっくりした!!

3話一気読み失礼します><;
虎がいきなりミキーちゃんに!!?
一瞬ミキーちゃんをウサギと間違えて襲っちゃうのかと思ってかなりドキドキしました!!
でも、そうか、ここでもミキーちゃんは愛されちゃってるんですね*^^*!!
ミキーちゃんがたくさんの風船を持っていたわけもなんとなく分かる気がします~♪

赤毛ポニーテールのお姉さん!すっごく好きです私!!
これからの活躍が楽しみです♪
そしてシーガ様は一体今何をしているのでしょうか…ちょっと嫌な予感。
続きも楽しみにしていますね^^

ユミさん♪

虎くん、なにやら変な奴です。
うふふ、ミキーちゃん、心配させますね♪
タース君には後でちょっと、サービスしておきますので(?)今はがんばってもらいます!うん♪
音や音楽って、記憶と一緒にしまいこまれるものですよね~。
映像をきっかけにするよりずっと鮮明に当時を思い出したりします。
失恋したときに聴き倒していた曲とかね(笑)
立ち直ると同時に、聞きたくなくなったりして。
そうしてその曲は「失恋の曲」と自分の中でレッテル貼って、しまいこむんですよね~。

史間さん♪

うふふ、赤毛のお姉さん、この第四話のちょっと大切な人♪このお話にはもう一人出てきます。
レスカリアの白い虎♪ミキーちゃん、どうしちゃったんでしょう(笑)
タース君の頑張りが必要です!うふふ~(←最近やっぱり、タース君いじめに走っている黒いらんらら…^^)

きゃ~!!

ミキーちゃん!!
虎はどうしてミキーちゃんに向かって突進していったの~?
動物の勘?!そして、必死にミキーちゃんを助けようとするタースくん、
カッコイイですねー。相変わらず、わたしのツボ、刺激されまくってます^^

誰かにとっては楽しい音でも、それを悲しい音と捉える人もいる。
人生で経験してきたことがそれぞれ違うから仕方ないですよね…。
まだまだいろんな苦難が続きそうですが(指名手配中だし!?)タースくんに
幸せな音がありますように…☆

うわ!

賑やかな街の描写がとっても楽しい!
わくわくしました!このシーン好きです♪
でもタース君、そうか。音で思い出しちゃうんだな。
それでもミキーに気を遣わせないとする姿、いいです、優しいよ~。

レスカリアの白い虎、出ましたね!
そして赤毛のお姉さん、史間的に好きそうなキャラなんですが(笑)

んで、ミキーが舞台に!
でも楽しそう?楽しそうだ…
この虎、ユルギアと関係あるのでしょうか?
続きが気になります!
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