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「想うものの欠片」第四話⑦



「ミキー!」

タースの姿を見てミキーはにっこり笑う。

その愛らしい表情に思わずタースは足を止めた。
あどけない、といってもいい笑顔には虎に対する恐怖などない。

「タース!見てみて、可愛いですの!」

その言葉に合わせるかのように、虎は大きな頭をミキーの腹に擦り付けた。甘える猫のような仕草だ。

虎の頭は少女のふわふわした髪を含めた頭部すべてよりずっと大きい。華奢な腹部はひと噛みでぽきりと折れてしまいそうに見える。

息を整えなおしてタースが近づこうとするのを、脇から眼鏡をかけた男性客が引きとめた。
何故か小声でささやく。ささやきだろうと、虎には聞こえる。

「危ないよ!君!」
「でも!」

今や遠巻きに眺める観衆の輪の中、ミキーと白い虎だけが楽しそうに戯れていた。

人懐こい虎なのか、それとも今はただ餌を目の前にじゃれているだけなのか。誰もが測りかねていた。下手な悲鳴など上げれば、虎がどんな行動に出るか分からない。

空気が張り詰める。
タースにもそれは伝わる。下手に虎を刺激して他の客に飛び掛ってはいけない。
入口のカーテンを背景にまるでそこがステージになってしまったかのように注目を集める少女に、そっと声をかける。

「ミキー!」
「タース、キドラが遊んでくれますの」
気持ちが伝わらない。

「キドラ!」
タースの脇に、先ほどの女性調教師が立った。
赤毛のポニーテールがゆらりと揺れる。
虎がミキーから視線を女性に移した。

女性は手にムチを持つ。ひゅん、と唸るそれが、小さな乾いた音を立てて女性の足元を打った。

「キドラ、いらっしゃい!」
虎はうぐと低くうめいた。歪んだ口元にあわせて長い髭がゆらりと揺れる。
その声に、観客はまた一歩遠ざかる。やはり、危険な虎なのか。

「あ?」
タースの見ている前で、ミキーは楽しそうにキドラの首に抱きついた。
それから、その背に手をかけて。

乗った。

スカートなのに、と一瞬タースの思考におかしなものも混じる。
ちらりと見えたような見えないような一瞬をもう一度脳裏に描いている自分に気付いて、タースはそれを打ち消す。

「あんた!何するの!危ないわよ」
叫ぶ調教師に、ミキーは笑顔を返す。

「お散歩するですの!」
ミキーの声に、キドラが白い前足を持ち上げたときだった。

一度奥歯をギュとかみ締めて、タースは飛び出した。

「君!」
先ほどの男性客が止めるのも振り切って駆け寄ると、タースはミキーを抱きしめた。
「きゃ?」
ミキーは手に持っていた色とりどりの風船を放してしまった。
風船がゆらりと昇る。

ぐう、唸り声がタースの耳元に聞こえた。

夢中でタースはミキーを抱きかかえると、虎から引き摺り下ろす。虎は不機嫌に振り返り、前足で少年を追った。

それはかすかにタースの腕を薙いで、その勢いにタースは抱きかかえたミキーごと座り込んだ。

観客の押し殺したような悲鳴があちこちから聞こえる。

「タース!」

再び近づいて前足を振り上げる虎に、観客は身動きできずにいる。獣を刺激すれば、目の前の少年に今にも飛び掛りそうだからだ。

虎に背を向けて、ミキーを庇うようにタースは膝をついていた。立ち上がって離れようとするが、虎がミキーの服の裾を爪に絡める。
支えのないタースは、また、引きずられるように膝をつく。

「タース、キドラは怖くないですの!」
分からない様子のミキーをさらにぎゅっと抱きしめて、タースはつぶやいた。

「怖いとかそう言う問題じゃないよ!?」
ミキーは少し不機嫌に眉を寄せた。
「キドラはお外で遊びたがっていますの!きっと楽しいですの。メリーゴーランドより速いですの!」

パン!
と、花火の音が響いた。

右から、左から、行ったり来たりしながらタースを睨みつけて威嚇していた虎が動きを止めた。


見上げたタースの目と目があう。
虎は、また、ピクリと鼻を動かした。

タースはそのまま、背後に距離を保つ調教師に口を開いた。
「早く、鎖を取れよ。大丈夫だから。そうだろ」

睨んだタースに、キドラは一瞬耳を立てたが、次に小さくうなだれた。

調教師が鎖の先を取ると大人しくその後について降りていった。
人々の視線の中、白い虎が、駆けつけていたサーカス団の男性たちに取り押さえられると、
「おおー」と安堵のため息と、歓声が沸いた。

そして、次にはタースに声がかかる。
「君!大丈夫かい!」
先ほどの男性客が笑ってタースの肩を叩いた。
歓声は今度はタースに向けられていた。何故か口笛まで吹かれタースはそっと立ち上がった。

「いや、びっくりしたよ、勇気があるね!よく、あの虎が噛み付かなかったもんだ」
「よかったわね」
口々に褒めはやされながら、タースは慌ててミキーをつれてテントを出た。

ミキーは抱きしめられたまま、口を尖らせていた。


テントの外の日差しに目を細めた。手をかざそうと片手を額に持っていった瞬間、ミキーが腕の中からすり抜けて、入口の階段を駆け下りて行く。

「ミキー!」
「メリーゴーランドに一緒に行くですの!」

不機嫌かと思えばそうでもなく、にこやかな少女は踊り場で振り向くと、おいでおいでと手をふる。

タースは虎にかかれた腕を押さえ、そちらに向かって歩き出した。
見ると服は破れていた。
腕には三本のキズ。
深くはないが、引っかかれたそれは赤く血がにじむ。

どん、と正面からミキーが抱きついてきた。
胸の前で見上げる。
柔らかな髪が腕に当った。
「ね!タースはお馬さん、どれがいいですの?ミキーはピンクのが好き!」


ミキーに引かれるままに、メリーゴーランドの前に立つ。
無邪気な少女は、お気に入りなのだろうピンクの馬にちょこんと横を向いて座る。
タースはその脇に立って、馬にあわせて歩いた。
「タースは乗らないですの?」
「うん、ここでいいよ」
目を離したらどこに行ってしまうか分からない。

馬を釣る棒に手を置く。その手にミキーの手が重なった。
やわらかく、温かくも冷たくもない感触。
ユルギアなんだ、と感じないではいられない。
腕の痛みもあって、タースはぎゅっと目をつぶった。

ミキーはユルギアに好かれると、シーガは言っていた。だから、今も、ミキーが座れといったブルーの馬には少年のユルギアが楽しそうにすわり、こちらに手をふっているのだ。

あの白い虎。

あれもユルギアが入っていた。
あれ自体は山猫だ。なぜ、そうなったかは知らないがユルギアの気配を感じた。
だからこそミキーに擦り寄った。

けれど、ミキーがあんなふうに、遊びたがるのは初めてだった。シーガがいたのなら、きっと一言でミキーは従ったのだろう。

僕では、手に負えない?

ミキーについては知らないことが多すぎる。


次へ(9/25公開予定♪)
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ぬこ&えふぃさん♪

そう、ミキーちゃんはね。平気です。
はい。
強いです(笑)

タース君はがんばるしかないです♪

ミキーあぶないよー

いや、まあ、ユルギアだから怖くもないのか…
危ない目にあってるのタースだしね。

chachaさん

うきゅ~
コメントお返事遅れちゃった~(>_<)
ボケボケしててごめんなさい!Takagaっちが教えてくれたの♪
ごめんなさい!
ミキーちゃん、虎さんにも好かれてます♪タースくんの手に負えるのか…恋愛模様に異変ありですよ~o(^-^)o

史間さん♪

つい、ね。シリアス場面が続くので耐えられなくなって…(笑)
タース君、余計な気を回してます♪
さわやか?…ま、まだ15歳だし…経験少なそうだし(笑)

まあ!

どこを見て何を思い描いたタース(笑)
なんだろう、ミキーの過去も気になるけど、心配しつつも下心が見え隠れするタース君が、爽やかです(男の子だった)
誰にでも懐き、ユルギアに好かれるミキーちゃん。
白い虎との関わりが気になります♪

コメントありがとうです!

楓さん♪
はい!!油断してると更新されちゃう!(←?)
ミキー、今回は暴れます(笑)魔性、ほら、わがままな可愛い子、好きでしょ?男の方々…違う?違う?
負けた気持ちです。ええ、負けてます。このキモチがどうなっていくのか…うふふ。
お楽しみに♪

takagaっち♪
ほんと、油断してるとつい更新♪
インデックスや表紙の更新が間に合わなくなるという、自業自得に陥ってます(笑)
スタンド!!スタンド編は複雑で!!能力色々ありすぎ!(笑)でも、絵が上手いから好き♪(?)名もなき男性客!!!えらい~!!
はい!
らんらら、無駄な台詞をはかせません!!出てきます。
かな~り。
レギュラ~な雰囲気。(←そこは人気次第という、実力社会ですが^^)
takagaっちの鋭さにどきどきしちゃったですよ♪伏線も何もあったもんじゃない(笑)


オラオラオラオラぁ~♪
楓さん、これから楓っちと呼ばせていただきます!!

ユミさん♪
うふぅ~タース君のキモチ…いろいろと複雑になっていきます♪
「あせらないで~」っとおもうけど…。
そうそう。帰ったらシーガさまがいるから、二人っきりのこの時間が取っても大切なんですよね~(^v^)

安心?!

キドラ、ミキーちゃんに悪さしなそうだよ~!!と思いつつ、タースくんが助けたい
気持ち、めっちゃ分かりますよ~。そして…自分の言うことには耳を傾けなかった
彼女への気持ちが痛いほど分かります!!
もっとたくさん知っていく前に、恋愛感情は薄らいでいくほうがいいのかなぁ。
ちょっぴり痛い初恋に、わたしまで胸がチクチクします。

で、タースくん。シーガ様と合流したとき、その傷、どう説明をするのだろう?
隠しちゃう??シーガ様怖いからなぁ(笑)

↑すごい

なんか盛り上がってるなぁお二人さん(笑)

コメント遅くなっちゃいました><;
前回の読んでいたのに~~もう最新話がUPされていたのでこちらに(汗

本当、ミキーは放っておいたらドコに行っちゃうのかヒヤヒヤしちゃう@@;
タースが振り返った時、ミキーの姿が見えないと気づいて焦ったあの瞬間。
それから必死に捜す様。
リアルでした。こっちもドキドキハラハラでした><
見つかって良かったけど~~~一難去ってまた一難。
ユルギアが入った白い虎。キドラ。
ミキーになついちゃってまぁ^^
やっぱり、ミキーはユルギアを引き寄せちゃうみたいですね。人間にも、ユルギアにも。
本当、不思議な子だぁ。
でも、シーガくんの言うことはしっかり聞く。
どういう関係なのかな??てか、ミキーは一体何者なんだろう?ちょっと変わったユルギアだけど・・・??

この第四話。そんなミキーの過去が見えそうで楽しみです^^ふふふ♪

オラオラオラオラオラオラオラァァァ!!!!!←スタンド(笑

油断してると更新しちゃう

ミキーは魔女。魔性。タースには手に余るなあ。それなりに女性経験を経てから……(笑)なんか初な想像を……タース(遠い目)

うん。ユルギアには色々とバリエーションが多そうな気がする。あの、スタンドみたいに(スタンド~!!)

今回はですね。名も無き男性客が気になりました。なんか良い味を。

おっとぉ!

前の記事に書き込んでいたら12時を回り更新されてました。
おおー!!
タイマー更新おそるべし!!
で、さっそく。
あ。
やっぱ別に知り合いじゃなかったですね。←目測外れ。
そっか、キドラにもユルギアが入っていてミキーになついたのか。

んー

タース、少しミキーについて悩みだすの巻ですね。
それにしてもほんと、ミキーはあまのじゃくというか、これぞユルギアというか、
本能のままにというか…笑
シーガなら制御できる、
でもそれが自分にはできない。
この負けた的な気持ちがリアルですね。
自分よりはるかにシーガの方が彼女について知っている。
それがまた歯がゆかったりするんだろうなと。
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