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「想うものの欠片」第四話⑧



「ね、ミキーさっきの虎。ユルギアだって分かった?」

ミキーは先ほどから、座ったままタースの髪に手を触れようとうんうんと伸びをしていた。

ミキーのほうを覗き込んだ加減で前髪に手が触れる。

「うふ」
「ミキー?」

おいでおいでをする。
手を口の前にかざして、耳を貸せというようだ。ユルギアのことを話すのだろうか。

「何?」
タースが腰をかがめて耳を近づけると。
ふわ、と。柔らかい感触が耳元をくすぐった。

思わずぞくっとして肩をすくめた。振り向くと。
今度は頬に。

ミキーが、キスしていた。

「み、……な、何するんだ!」
「いたずらですの」
「な……」
真っ赤になっているタースに、今度は首をかしげて笑った。
「お熱ですの?」

白い手を伸ばして熱を測ろうとする。
「大丈夫だよ!」
体をそらして交わすと、タースは胸を押さえながら歩いた。

だれがユルギアにこんなこと教えたんだ!

シーガではないだろう。
だとすれば。

一人、頭に浮かんだ。
黒い帽子、黒い髭。皮肉に笑うお調子者。
スレイドだ。

こんど会ったら絶対に蹴ってやる!
本当に、熱が出そうだ。

「タースは怒らないから楽しいですの」
ああ、シーガなら黙って殴るか、突き飛ばすか。
顔色も変わらないだろう。




「ヒ、ヒックシュン!」

ちょうどその頃。

黒い帽子を取り落としそうになりながら、男は鼻をすすった。
「なんだ?風邪か?」

独り言を言って、肘をついていたカウンターから体を起こすと、隣に座っていた青年が避けるようにすっと一つ向こうの席に動いた。

「なんだそりゃ!」
「近寄らないでください」
ひらひらと手をふるシーガに、スレイドは顔をしかめた。

「大体、人使いが荒いんですよ、まったく。徹夜で馬を走らせたってのに、それですかい」
「トラム・ミスを使えばすぐではないですか」
「いやですね、あんな、騒々しい鉄の塊。真っ黒い煙に顔まで真っ黒になる」

「はい、どうぞ」
バーテンダーが二人を見比べながら、スレイドの前に白い色の飲み物を置いた。赤いチェリーが氷と一緒に白々しく揺れる。

ふん、と息を吐いて、スレイドは再び帽子を整えた。
L字になったカウンターの角を挟んだ向こうに座る、若い女性と目が合った。
正確には女性はスレイドを通り越したシーガを見つめていたが、スレイドは勝手に視線を感じていた。
わざとらしく足を組み替えて、格好をつけて飲み物を口に運ぶ。


場末の古びたバーに、今二人はいた。
昼下がり、まだ早い時間だ。店内には、窓からの明るい日差しが差し込み、カウンターには座る彼らの影がかかる。かろうじて手元に置かれた小さなランプで、バーらしい雰囲気だけは保っている。
煙草の煙が日差しに白く揺れていた。
店内には女とバーテンダー、そして黒尽くめの二人。

バーテンダーが奥に引くと、シーガは前を向いたまま話し出した。

「で、スレイド。お前はファドナ様から離れてここに来たというのですか」

「ふん、ご命令なのでね。ご心配なさらずに。ライト公領へ到着してからファドナ様はずっと大公の別邸におられます」

シーガはしなやかな指で、こんこんとカウンターを軽く叩いた。
その指の下には、新聞が置かれていた。
それを手に取るように伸ばしたスレイドの指先、中指と薬指には細く丸めた小さな筒が挟まれている。さりげなくそれを受け取るシーガ。

小さなそれをするりと手のひらに隠し持つ。

そ知らぬ顔で新聞を広げるスレイドに、青年はつまらなそうにつぶやく。
「お前よりはまともな護衛がつくでしょうが」
「おっしゃる通り……あ?」
じろりと新聞から顔を上げ、スレイドは隣でしれっとしているシーガを睨む。

「シモエ教区、近寄れなくなりましたね」
表の記事には、こう書かれている。
『ティエンザ王国、協力を快諾』

ミーア派がシモエ教区から手を引いたことで、国内のロロテス派がその任を受けた。その後、両国のロロテス派が協議し二つの国の大公と国王に働きかけ、シモエ教区の運営を共同で行うことになったという、ほほえましい記事である。

事実、まだ少しインキの匂いをさせる写真では、大公がにこやかに微笑み、ティエンザ王、ノトンドールニ世と握手している。

実際は、シモエ教区はロロテス派の司祭たちとティエンザの王国軍が支配していた。

ミーア派の『平等な救いとすべてに平和を』という教えとは正反対に、ロロテス派は『神代復興』を掲げている。ミーア派が、ロロテス派によって追いやられるという形になったのである。ロロテス派に流れる資金が隣国からのものであることを考えれば、ライトール公国の主要宗派が隣国の圧力によって貶められたといえる。

国力の差を露呈する事件である。

それが、ほほえましい記事のように取り上げられている時点で、すでに公国の将来が危ぶまれた。
つまり、ライトール公国内の報道機関もロロテス派に操られているということだからだ。

ミーア派は、拠点としていたラミアキン・カレスを事実上追われ、現在は公領内の大公の所有する別邸にひっそりと匿われていた。

「ファドナ様はボウヤの存在を危惧されていますよ」
からんとスレイドの飲み物が鳴った。

「そうでしょうね。禁忌とされる混血が存在することはミーア派にとって責任問題です。それがシモエ教区保護施設内で生まれたのならなおさら。この時期に移動させたのは正解でしたね。今、存在を知られれば、ミーア派は異端の宗派として槍玉に挙げられるでしょう」

「そうじゃないんですがね、シーガさま。ファドナ様が気にされているのは」
スレイドはちらりとシーガが指先で弄ぶ、小さな紙の筒を見つめた。

そこにはスレイドが調べた住所と店の名がある。
シーガは知らん顔で飲み物を口に運ぶ。この場で紅茶というのも不思議なことだが、優雅な青年の仕草は絵になる。

熱い茶の湯気に湿り気を帯びる長いまつげに、スレイドはつい視線を奪われている。

「ごほん、あの。調べはしましたが、本当に実行するおつもりですか?」
「お前が気にする必要はない」
スレイドは肩をすくめた。

シーガは、タースのために身分証を偽造しようとしていた。
その店がこの街、ウルルカにある。
その情報をスレイドに調べさせていた。
裏通りの闇取引の行われる店。安全なはずはない。
そこに目立つシーガが向かうことはファドナでなくとも心配になる。

同時にそこまでして、国境を越えさせようとするシーガの考えもスレイドには理解できなかった。
シーガが次に依頼されている調査はティエンザ王国の首都だ。

そこにタースを連れて行ってどうしようというのか。存在を望まれないもの同士、同情はあるだろうが。
スレイドにも、少なからずその感情はある。

「店には私が行きましょうか?」
シーガは黙って黒尽くめの男を眺めた。

無言の拒絶にスレイドはつまらなそうにまた、飲み物を口に運ぶ。

分かっていた。スレイドの任務は一足先にティエンザに入らなければならない。この情勢を不安に思った聖女ファドナは、先回りしてシーガの安全を確保するようにと命じていた。時間はあまりない。

スレイドの逡巡を見透かしたようにシーガは話題を変えた。
「それより、図書館での調べ物は終ったのですか」

「はいはい。今のところ。ボウヤがあの地で生まれたという史料は見当たりませんでしたよ。ボウヤが嘘をついているか、史料を故意に残さなかったのか、ま、どちらかでしょうねぇ」
「今となっては、シモエ教区は調べようもありませんね」

「十年前の事件ですべての史料が図書館に移されていたはずです。ボウヤがバカなことを言いふらしたりしなければ、問題はないでしょう。そこはほら、シーガ様、あなたがついていますからねぇ」
「子守を続けるしかないようですね」

「いっそのこと……」
スレイドが赤いチェリーをぱくりと口に含む。

シーガはうんざりした表情で、口から赤い茎をのぞかせている男から視線を外した。
「お前には出来そうもありませんが」
「ふん、シーガ様こそ。お気に召している理由を、聞かせていただけますかな?」

シーガが立ち上がった。

「かっわいい、シーガ様」
ひどく小さく、つぶやくように言ったスレイドの背中に、青年の肘が入った。口にくわえていたチェリーが飛び出しかける。

むせるスレイドに、シーガは冷たい視線を送った。
「理由などありません」
新聞を掴んで、青年は振り向きもせずに店を出る。
日差しに銀の髪がきらめいた。
見送るスレイドはふん、と口の端をゆがめ、あごの髭を撫でた。

「気に入っているってのは、否定しないんですねぇ。ま、見てりゃ分かりますが」
細めた漆黒の瞳。一瞬だけ、冷酷な光を宿す。
やたら素直な混血の少年を、スレイドは思い出しているのかもしれない。

グラスの氷がまた、涼しげな音を立てて崩れた。
「さて」

瞳は再び面白そうに笑って、男は帽子を取ると、カウンターの女性に向かってウインクを放つ。
が。

すでに女性は席を立って、扉を開けたところだった。

次へ(9/27公開予定♪)
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松果さん♪

コメントありがとう!!
スレイドさん、癖ありです(^^)
うふふ。楽しんでいただけて嬉しい♪

おやおや~

「かっわいい」て、おいスレイドさん…
でもいいですね、このカウンターでのやりとり。
クセのある二人が穏やかな顔して丁々発止ですか~!

史間さん♪

スレイドさん、うふふ~らんららの中でやっとイラストイメージが固まったので今書いています♪
では、「史間さんの視線を感じて振り向くシーン」(笑)でも、公開?
そうそう、間一髪だったわけです。あのタイミング。
タースくん的には自分から、と思っていますが♪大人たちには大人たちの理由があるわけで…。
まだまだ。うふふ。
シーガさま、だんだんと行動を開始しますよ♪彼なりの愛情(?)すっかり姫と王子か!?(…もしかして、タース君、女の子キャラにすればよかったかも、何て、最近考えていたり(笑))そしたら、恋愛対象!?

かっわいい、シーガ様

なスレイドがかっわいい♪
どうもスレイドにかなり傾いている者です!
勝手に視線を感じているのか。
私の視線も感じてくれ(←
タース君、間一髪だったのですね。シーガ様にしがみついてよかったねぇ。
まだ気をぬけません!
シーガ様に気に入られちゃったらね~ふふふふふ(変)

ユミさん♪

おお!ユミさんも?
スレイド氏…どうする、もててるよ?ミキーちゃんに教えてる姿想像するとかなり…人によっては萌え…な感じ?
タース君、きっと、妄想している…。
はい。
誰にでもします!!
ええ。
老若男女。
問いません~♪ただし熱病発生しちゃうけど(笑)

takagaっち~!!

性悪…好きでしょ?v-391
うふふ。タース君、がんばるから!!いろいろと♪あはん♪

教えて欲しい~

シーガ様がタースくんを気に入っている…つれて歩く理由!!
スレイドさーん、茶化さないで、もうちょっとちゃんと聞いてみて^^
シーガ様教えてくれないでしょうか??

皆さんよりちょっと遅れて、スレイドさん好き♪になりました~。
ミキーちゃんに、なんてことを教えてるんですか~~。
誰にでも、チュッ☆ってしそうですよぉ。
可愛いからいっか?!

スレイドにはチェリーがよく似合う

タースは騙されてはいけないよ。そいつは性悪オ……ぐへぇあぁ!!

スレイドは普通にシーガと合流なんですね。なんかもう、場末(笑)やさぐれた感じがハマりますけど。

かっわいい、スレイド
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