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「想うものの欠片」第四話⑨


クシュン!
タースは飲みかけたオレンジのジュースをこぼしかけた。ミキーがきゃ、と驚いた。

「あ、ごめん、大丈夫だった?服にかからなかった?」
タースはまだ不快なのか、鼻をこする。

「はい。汚れたらお着替えしますの」
服と着替えが大好きなミキーはニコニコ笑う。
タースはそっと、先ほど虎に裂かれた袖を隠す。
クシュン!
二回目を手で塞いで、タースは二人の座るベンチに近づいてくる影をじっと見つめた。
赤い髪を一つにまとめた女性。キドラにりんごを運んでいた、あの調教師の女性だ。

タースたちが座っている広場の隅のベンチに、さりげない風を装いながら、それでもこちらに気を配りながら歩いてくる。
「ね、君」
声をかけてきた女性にタースはにっこりと笑いかけた。

「キドラは落ち着いた?」
「ええ。ありがとうね、さっきは」
そういいながら、女性はタースが左手で押さえていた腕をぐいと引いた。

「いて!」
「あ、ほら、やっぱり」
女性は、呆れたように少年を見つめ、それから早口で言った。

「私はニスカーニャ、ニーって呼ばれてる。いらっしゃい、手当てしてあげる。お腹すいてない?お詫びに何かご馳走するわ」
顔を見合わせる二人におかまいなしで、タースの腕を掴んで立たせる。

「さ、いらっしゃい。サーカスの舞台裏。見たくない?」
「見たいですのー!!」
女性に飛びつきそうになるミキーを、何とかタースがとどめた。
このサーカスで流感よろしく熱病を発生させるわけには行かない。


エスカーニャは、大きなテントの裏側、コンテナや小さな真っ白いテントが並ぶところに二人を案内した。
手前の小さなテントから、動物の鳴き声。
「きゃ、おサルさんですの?」
「ええそうよ」
笑いながらニーは長い前髪をかき上げた。そのたびに後ろで揺れる赤いポニーテールがなぜかタースの視線を奪う。

「さ、入って」
並ぶテントの一番端に、何の模様もない白いコンテナが置かれている。入口の足元には簡単なブロックが一つ階段代わりに置かれている。
扉の金属のバーをスライドさせて、音をさせながら開くと、中は想像もつかないくらいきちんとしていた。

床には毛足の長い絨毯、一応窓もあって、カーテンが風に薄紅の草を模した模様を膨らませている。その下に化粧品を並べたちいさなチェスト。その向こうにちいさな椅子と、立てかけた姿見。反対の脇には衣装らしい服が、ずらりと並んでかけられている。

「ごめんね、狭いけど」
「そんなことないよ、すごいな。ちゃんと、寝室も兼ねてるんだね」
きょろきょろと見回す少年の興味は、派手な衣装でも可愛らしいぬいぐるみでもない。鉄道で輸送用に使うこのコンテナという箱だった。街から街へ、鉄道で移動するためにこの形をとっているのだ。

改造されている天井や、照明の配線、換気の設備。そんなものに目が行く。

「かっわいいですの!」
ミキーはすでに床に座り込んで、クッションを抱きしめながら衣装の数々を点検している。
「ミキー、勝手に触っちゃダメだよ」
「あはは!いいのよ、気に入ったのがあったら一枚くらいあげるわよ。中には私にはもう着れない物もあるからね。さ、傷を見せて」
ニーはそう笑うと、タースを座らせた。

袖をまくろうとするタースに、ニーはにやっと笑った。
「二の腕だから、脱いだほうが早いわよ」
「え、嫌だ」
きっぱり断るタース。

青い瞳を見開いて、ニーは笑った。
「なあに?恥ずかしがることないでしょ?男の子が」
シャツのボタンに手をかけようとする。
「だから、いやだって!」

タースの声と鋭い視線に、ニーは手を止めた。蒼い双眸が何度も瞬く。

「あ、ごめん、でも、僕、あの」
見せたくないものが、背中にある。
幼い頃の傷跡。見れば動物による怪我だと分かってしまうだろう。理由を聞かれるのは面倒くさい。
視線をそらしたタースには見えなかったが、ニーは逆に興味深げに目を細めた。

「往生際が悪い!ね、ちょっと手伝って!」
「お着替えですの!」
「え!!」
ニーに両手をつかまれて、ミキーは嬉しそうにタースの服を脱がし始める。
「わ、ちょっと、ミキー!いいよ、自分で脱ぐから!くすぐったいよ!放せって」


背中には、経験した様々なちいさな傷跡を目立たせないくらい、赤紫に変色した爪あとがあった。左肩甲骨から右脇にかけて、それは鋭い爪で押さえつけられ、引きずられた痕だ。
ミキーは気にせず、ニーの衣装箱から楽しげに何か引っ張り出している。

「あ、そうか……ごめんね。これのことね」
「ちょっと、目立つから、嫌だったんだ」

あまりにも落ち込んだ様子のニーを、タースは逆に慰める。
「気にしなくていいよ、女の子じゃないんだから。昔ちょっと、悪さしたときに、野犬に噛み付かれたんだ」

エスカーニャは少し笑って、薬箱から傷薬を取り出していた。
茶色い消毒液のビンを振って、白いガーゼを取り出す。
なれた手さばきに、タースは黙ってじっとしていた。

「よほど大きな犬だったのね。私にもあるのよ、似たようなのが」
ニーが口を開いたのは、タースの腕に包帯を巻き終える直前だった。

「……仕事、で?」
「ええ。昔はね、これでも空中ブランコに乗っていたのよ。このサーカスでは花形よ。衣装も一番手が込んでいて、自分で言うのもなんだけど、一番上手くて可愛い子だけがなれたの」

「へえ!すごいな!」
「でもね、サーカスで飼っている虎に傷を負わされたの。仲良しだったんだけど。虎は目の前で撃ち殺された。ショックだった。そのうえ痕が残ったから、背中を見せる衣装が着られなくなってしまって。調教師にね、転向したの。皮肉よね。自分を傷つけた動物たちの世話をしなきゃならないんだから」

「ふうん」
「可愛いとは思うのだけど。でも、あの時の恐怖が残っているのね、今日みたいに一度鎖から離れてしまうと怖くて。ごめんなさいね、私の責任だわ」

ミキーが差し出した服を身に付けながらタースはニーの顔をじっと見つめた。

同じ気持ちを味わった人なんだ。

二十歳くらいのニーは痩せていて、青い双眸は堀の深い顔立ちにうずもれるように輝いている。
サーカスに幼い頃からいたのだろう。
空中ブランコなどの技を習得するために年数を要しているだろうし、苦労もあったのだと想像できた。
華奢な指先に動物たちの世話は荷が重いように思えた。


あれが、普通のイキモノじゃないことを、この人は知っているのだろうか。

次へ(9/29公開予定♪)
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史間さん♪

やぁ!

じゃない(笑)
はい!ステキな女性♪女性率低い作品だから、貴重ですね♪
利用させて(おい)もらいます!
では、コメント返しもつづきへ!

ニーさん

素敵な女性ですね。サーカスでたくましく生きる。
でも器用な人なんだろうなぁ、うらやましい。
タース君にどうからんでくるのか、気になる~><
続き読みに飛びます、とう!

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

かいりさん♪

はい♪タース君、大人しい割りにモテきゃらにするつもり(笑)
愛情たっぷりですから♪

なんだか、気付けば女性きゃらが少ない…。
反省してちょっと考えようかなぁ~♪

いずれ、シーガさまのお母さんとか出すし、うむ…。
うふ、ニーがどう絡んでくるのか♪楽しみにして下さいね!

ニーさんvV

ニーさんやっぱ良い人だ^^♪
そしてミキーちゃんとはまた違った可愛さがありますね!
女の子二人に服を脱がされるタース君に思わずぷぷぷっと(笑)
タースくん本当にいじられキャラになりつつありますね♪
らんららさんの愛が感じられます^^
二ーさんにもそんな哀しい過去があったのですね。
同じような過去を持つ二人。これからが気になりますドキドキ☆

Takagaっち

ありがとう!
助かりました~(=^▽^=)
ニーは若いです(^O^)でもスレイドさんは年のさは気にしません!なにせミキーちゃんでもOK♪
絡ませるかどうかは。タースくんの猛反対が予想されます(^O^)

ニー

赤いポニーテールがタースの視線を奪ってタースは脱がされちゃいましたけど(笑)タースの純潔が奪われてしまう。
明らかに彼は作者に弄ばれています。危険です。危険ですの、タース……クシュン!

ニーさん、まだ若い人なんですね。何故かもうちょい年輩なイメージがありました。なんとなくスレイドと絡んでほしい気がします(要望書を出しておこう)

あ、そういえば、クシュン!らんららさん……クシュン!
第7話のクシュン!クシュン!chachaさんのコメント……クシュン!返事が、クシュン!クシュン!

↑馬鹿です。これ書いてる人は。ヘックショイ!!
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