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「想うものの欠片」第四話⑪

11

「ミキー!」

返事はない。
慌てて、走り出した。

どこにいるのか分からないけれど、とにかくテントとテントの間を抜ける。
途中、サーカスの人にドンと突き当たった。

「あ、すみません!ピンクのワンピースの女の子、見ませんでした?」
「ああ、可愛い子だよね、あっちに走って行ったよ」
「ありがとう!」
「あ、君!そっちは気をつけて、猛獣の檻があるから!」

親切な黒い服のピエロ顔の男性に手をふって、タースは指された方角に走る。
テントを二つ、コンテナを回りこんで。

途中、テントの前にいたサーカス団の男が声をかけたようだったけれど、それは無視した。


ガシャン!


派手な音だった。
金属の何かが倒れるような音。

うぐう。

唸り声。
タースは立ち止まった。

灰色の屋根の、四角い形の大き目のテント。そこから、それは聞こえた。


ランプの光が内側からテントを光らせている。揺れる影がテントの壁に影絵のように映し出された。
うねる二つに縛った髪、見覚えのあるちょこちょこした動き。

「ミキー!」
テントに入ろうと正面に回り込んだとき、ちょうど目の前にニーが立っていた。
「うわ、っと。ニー、ごめん、あの…」
ニーは返事をしない。

黙って、いや、口元を両手で覆い目を丸くして、前方を凝視していた。

「な…」

白い、大きな背に。ミキーはまたがった。

虎の背にしっかりしがみ付いている。

キドラは丸太のような前足を踏み出しながら、こちらを威嚇する。
そして、その後ろには、黄色い虎、大きな黒い犬。チンパンジー。

子供の象が鳴き声を上げた。


キドラを先頭に、灰色のテントから檻という檻が開かれ、今また灰色狼が鎖をさらさら引きずりながら地面の匂いをかいでいる。

「ミキー!」

タースの声に、狼は顔をしゃんと上げて耳を立てた。

キドラがぐうと唸る。

「見てみて、タース!楽しいですの、みんなで遊ぶですの!」
「何してるんだよ!ダメだろ!」

少女は怒鳴るタースに眉をひそめ、口を尖らせるとぷいとそっぽを向いた。
そんな表情の少女は初めて見た。

「帰らないですの!ミキーはサーカスもお祭りも、カーニバルも大好きですの!みんな大好きですの」

「危ない、さがって!」

男性の声。
振り向くと、集まってきたサーカスの団員たちが、手に手に、猟銃を持っていた。

「ま、待って!」
「タース君、危ないわ!」

ニーがタースの肩を掴んで、男たちの後ろにと引っ張る。

「待って!大切な動物たちでしょ!?殺すのは待って!」

「仕方ないのよ。一頭でも柵から出すわけには行かないでしょ!柵の外では小さな子供たちが遊んでいるんだから!」

エスカーニャは後ろからタースを抱きとめるように首に手を回した。
タースはそれを振りほどこうとした。

「ミキー!降りるんだよ!」
「帰りませんの!」

「分かったから、ね、そこから降りるんだよ。動物たちを檻に返すんだよ」

「帰りませんの!」

ああ、意味が通じていない!

ミキーはかたくなに帰らないと言い張る。何か、彼女のなりたちに関係があるのかもしれない。本来のユルギアとなった思念。

狼が一頭、タースとニーに向かってジャンプした。

パン!
キャウン!


どさりとその大きな獣が、目の前に横たわったとき、背後の動物たちが騒ぎ出した。

象はパオウと鼻を天に振り上げ、チンパンジーは右に左に走り回る。
犬たちは尻尾を巻いて柵に逃れようと体当たりするもの、興奮したように吠え出すもの。


がう。

低いキドラの声で、動物たちはいっせいに止まった。
銃を構えていた男たちも動きを止めた。

キドラに乗る少女を前に動物たちが。

少しはなれた場所から、向かい合うようにしてタースたち。

三メートルほどの距離を置いてにらみ合う。

緊張に縛られたように動くものはない。

ただ、タースの目の前で、灰色狼が赤い血の泡を吹く。


タースは拳を握り締めた。
「ミキー」

踏み出そうとする少年を止めようとしてエスカーニャは手を伸ばす。確かに少年の肩に手を置いたと思ったのに、するりとかわされ、タースはキドラの前に立った。

「きゃあ!」
「危ないぞ!」
「はなれるんだ!ぼうず」

人々の声も聞こえないかのように、タースはキドラの前に立って、まっすぐ見据えた。
ミキーは尖らせていた口を元に戻し、にっこりと笑った。

「タースも遊ぶですの!」
不意にミキーが転がり落ちた。

タースの平手は音もなく、思わぬ出来事に少女はバランスを崩したのだ。

背後でニーのちいさな悲鳴が聞こえる。

キドラが目の前で口を開いて牙をむき出しにした。その真下、今は座り込んでいるミキーをタースは引っ張り起こすと、抱き上げた。

柔らかな腕がぐと曲がる。軽い体を抱き上げると、腰に手を回したまま赤ちゃんを抱き上げるように持ち上げた。
「いやです、の」

ミキーは暴れようとするが、タースは抱きしめる。

キドラの顔がちょうどタースの胸の高さにある。

口元の牙がランプのうす明かりに光り、それはよだれとなって落ちる。
金色の目。今は夜。黒い瞳が大きく広がって、見下ろすタースを映す。

少年の目が、キドラを睨む。

山猫、そう分かっているからか、タースに恐れはない。


と、キドラはぐわと口をあけて目の前のタースのわき腹に噛み付こうとする。
パン!


音と同時に、タースはミキーを庇って抱きしめた。
キドラの足元で弾がはじけた。

ぎゃ、と首を大きくのけぞらせ、キドラが一歩下がる。そのまま、たてがみを振りかざしながら、白い虎はぐんと姿勢を低くしたと思うと、ひとっ飛びで柵を乗り越えた。

猟銃を構えていた大柄な団員が顔を上げた。


「逃げたぞ!」
「興奮させるな!」

「公園の門を閉めるんだ!」

男たちが公園に向かって走り出した。
タースはミキーをつれたまま、彼らの後を追う。


「ひどいですの…」
「だまれよ」
「タース怖いですの」
「……」

「タース君!」
叫ぶニーに、タースは振り向いて怒鳴った。

「絶対に、キドラは助けるから!」


園内はすでに人影もまばらで、ところどころにガス灯が青い光を落としていた。少しぬるい風が吹き始め、園内の木々をざわざわと揺らす。

高い塀に囲まれた公園内から、キドラが逃げ出すことはない。

手に手に松明を持って、男たちが走り回る。
まだ残っている人を見つけては男たちは門のほうへと誘導する。

若い恋人たち、タースと同じくらいの年の男の子たち。

彼らに混じってタースもミキーを抱えたまま、公園の出口に向かっていた。
「タース、嫌ですの!放して」
「……」


ガラガラと重量のある鋳物の門が、スライドしていく。
しまりかけた門の外にミキーを残すと、タースは黙って、きびすを返す。

「タース!」
「お前はシーガのところに帰れ」

「タース?怒ったですの?ねえ、ミキーも一緒に」

「生き物の命を大切に出来ないなら、帰れよ!キドラが好きなら、大切にしろよ!そうだろ?そばに居たり遊んだり、自由にすることだけが大切にすることじゃないんだ!」

そう怒鳴って、タースは男たちの松明が見えるほうに走り出した。

少女は、鋳物の柵を両手で握り締めて、タースの後姿を見送っていた。


分かってる、ミキーはユルギアだ。何を言っても、理解なんか出来ない。

愛情の塊のような彼女は、とにかく何でも大好きなんだ。それがどうなるかなんて考えることは出来ないんだ。

分かってる。

でも、そのために生き物の命を脅かすのは、やっぱり間違っている。


次へ(10/3公開予定♪)
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史間さん♪

うふふ、さすが。
そうそう。単純だったはずなのに、ミキーちゃんは複雑?
この謎はそうとう引っ張るので、あんまり気にしないでね(なんだそれ…^^;)
いずれ。
いや~ねって(笑)お互いに…黒くて(爆)

平手打った……!

男タース。
そうだ、甘やかすだけが想いじゃないぞ~
ミキーがワガママですね。
でも、たんに甘えただった少女の、違う表情が見えてきました。
「喜」以外の感情も豊かに。
これは…これは、これは……?
いや、黒いらんららさんがいはるので、気をつけよう。
黒い人って、いや~ね~(←

chachaさん♪

はい。このシーン。タース君、優しいけれどそれなりに苦労して生きてきてます。
大切なことをきちんと叱れるのは、男性として必要なことだと。
彼にとってミキーちゃんは一人の女の子。
だから、対等に、そして嘘はつかないのです♪

通じないのか。
通じるのか。
ミキーちゃんの正体。
ふふ~(黒い…黒いらんらら)
ヒミツ。
ここで少し明かすけど、でも。
ヒミツ。

すごいすごい!

タースがタースじゃないっ!!(笑)
いやぁお姉さんビックリしちゃったよ@@;え?え?君がタース??(笑)
いえいえ。
大事な人、愛する人にほど、本気で泣いたり怒ったりするもんですもの。
想っている気持ちが強ければ強いほど、ですね^^

でも、なんだか切ないなぁと思ったり><
ミキーはユルギアだから、どんなにタースが気持ちを込めて言葉を投げかけても、態度で示しても、やっぱり通じないのかなぁとか・・・
ミキーは一体何のユルギアなのか、本当、そこが一番気になるところですが。

いやいや、今はとにかくタース!
大丈夫かなぁ~どきどき><

かいりさん♪

ありがとうございます~♪
タース君とミキーちゃん…どうなるのか。
ミキーちゃん、普通の女の子にしたらほんとに面白いのに…なんで、ユルギアっていう設定にしたのかと、今更後悔してます(笑)

だって、普通に恋愛にならない!

だからこそ、タース君は切ないですが…
一人青春の只中に、ぽつんと、です…ひゅ~(←秋風)

うわーん!!

タース君が怒っちゃったよー><;!!
折角前回かなりいい感じな雰囲気な2人にきゃーとなったばかりだったのに!!
でもタース君のセリフにはジーンと来るものがありました。
ミキーちゃんにはやっぱりこの想いは伝わらないのかな?
そう思ったらなんだか切ないなぁと…。
ミキーちゃんには一体どんな過去があったのでしょうか?改めて気になります。
そしてこの後ミキーちゃんはどうするのでしょうか…><;?
続きも頑張ってください!!

楓さん♪

ありがとです~♪
ええ、タース君、ちょっとホンキ♪
ホンキの恋だから叱るのもホンキ。
…ばかですが(笑)
ミキーちゃんに響くといいのだけれど…

えへへ、近況は日記でも書こうかなと。ご心配をかけてますので~♪

うお!

黙れよ

お前

タースがミキーに言った言葉です。
さて、まじでしょうか? ええ、まじです、大マジです。
びっくりですねー☆

…何キャラ?という声が聞こえてきそうですが、それくらい驚いたです。笑

何を言っても理解できないと分かっていても声を荒げてしまう。
まるで夜泣きする赤ちゃんをあやす母親の心境…いや違うか。

そこにはまだ、ミキーなら言葉の意味を理解してくれるのでは? と心のどこかで思うタースの願いなんてものもかすかにあったりするのだろうか? などとあれこれ考えてました。

どもども。
その後経過はどうですか?
まずはごゆるりとご自愛なさいませ、ですよ♪
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