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「想うものの欠片」第四話⑫

12

街中の公園は煉瓦の塀で囲まれている。広い敷地内には遊歩道を配した林がある。
開けたベンチや池の方向にはサーカス団や露店があるために、逃げ出した白い虎はおのずと暗がりの林へと逃げ込んだ。

キドラは追い詰められていた。
白い姿は夜目にも目立つ。

サーカス団員が手に手に松明を持ち、林を囲み輪を狭めていく。
大きな肢体を軽やかに動かすたびに、足元の低木ががさりと鳴る。

タースは松明を持った男たちの脇をすり抜け、林へと駆け込んでいく。

「おい、君、危ない!近寄るんじゃない!」
止めようとした男の手をすり抜ける。

虎の位置が分かるのか少年は低木や木の枝を避けながら林の一角に近づいていく。
その様子に、その場の数人は目配せし、少年の後を追う。

猟銃を構えるもの、松明を持つもの。二人一組で少年の消えた低木を掻き分けていく。

タースにはキドラの位置が分かっていた。
理由は分からない。けれど、白いその姿が遠くからでも林の木々を透かして見えた。

頭を低くしてこちらを伺う白い虎に、タースは正面から歩いていく。
「おい、君!」
声とともに、銃を構える音が響く。

後ろから付いてきた二人に気付く。
「待って!大切な珍獣なんだろ!」
虎のほうを見つめたまま、タースは背後の男たちに手を上げた。

うぐぅ。
唸り声とともに右に左に体を揺らすキドラ。

タースはじっとその瞳を見つめた。
金色に縁取られた黒い瞳に、少年の碧い瞳が写る。

何の、思念を抱えているんだろう。どうして、キドラは白い虎になっているんだろう。
牙をむき出し威嚇する。鼻の上にしわがより、尻尾は不機嫌に揺れる。

虎の背後の木々に、強くなった風が抜ける。毛足の長い毛皮が絶えず後ろに流される。
不意に低く雷の音がとどろいた。
びくりと、キドラは震えた。

空気は湿り気を帯びて、タースの髪も頬に絡む。
「おいで」
伸ばした両手。

タースは、思い出していた。
キツネさん。

あの恐ろしく可哀相だった、獣。
銃で、撃たれてしまった。
シデイラの民の怒りと憎しみが乗り移って、怪物になっていた。
お前は、そんなユルギアじゃないはずだ。

タースは心の中で語りかけていた。

聞こえるのか分からない。けれど、あの時、キツネさんの声が聞こえたように、こいつの声も聞こえるかもしれない。

耳元を風の音が塞ぐ。
それでも、キドラの低い唸り声は届いた。
一歩、踏み出す。

背後で、男たちが銃を構えなおす気配。
「撃たないで、まだ、大丈夫だから、撃っちゃダメだ」
タースの声は聞こえただろうか。

林を囲う男たちの声があちこちに飛び交う。風が揺らす葉はタースの思いを隠そうとするかのようにざわざわと音を立てる。

タースは目の前の虎に集中した。
「ね、お前はなんなの」
タースの手が、獣の額に触れた。
ビクリと耳が震え、口元がさらに引き連れて牙がむき出しになる。

威嚇の表情。

タースはそっと、そのままキドラの額を撫でた。

想いは聞こえない。
それでも、白い虎はじっとしていた。
タースが少しかがんで、虎の耳と耳の間をそっと撫でる。気持ちいいのか、額の筋肉がぴくぴくと動くのが手のひらに感じられた。

もう片方の手で、キドラの首にかかる太い鎖の首輪を掴んだ。
その瞬間、獣は身をよじるようにして離れようとするが、タースはぐっと力を込めて、首輪を押さえ首に抱きついた。
ぐるぐる、と喉の奥が鳴っていた。

タースがホッとした瞬間だった。
キドラは大きな頭でタースの腹の下に鼻面を突っ込んで、強引に浮き上がらせると、頭を一振り。
首輪を放すまいとしたタースはそのままバランスを崩してキドラの背にしがみ付く格好になった。

「!?」
獣はタースを背中に乗せたまま、走り出した。
手のひらの下で獣の背の筋肉が力強く躍動するのを感じた。
低木を越えるたび、タースは落とされまいと虎にまたがる格好になる。

どうしたいんだ、お前は。タースの心の問いかけに返事はない。


パン!
タースの目の前に、掴んでいる鬣に、黒いしぶきが飛んだ。
「あ」
ぐらりと、獣が傾く。

勢いのまま投げ出されるように白い獣は低木をつぶして転がった。
タースも反動で吹き飛ばされた。

「大丈夫か!」
向こうから男たちの声。松明の届かない暗がりの中、少年は地を這うようにして獣に近寄った。
動かない生き物を見つめた。

それは白い毛皮をふわりと風に吹き消されて。
ちいさな山猫に戻っていた。

山猫の首輪には、青い石がつけられていた。


駆け寄った男たちは、低木を掻き分け駆け寄った。
想像していなかった獲物の姿に慌てた。

「君!白い虎はどうした!逃げたのかい?」
肩をゆすられ、タースは黙って頷く。
「お前、下手糞だな!」
「おい、向こうを探すぞ!」
足音と松明のちらちらする明かりが消えてしまうまで、タースはずっと座り込んでいた。

暗がりの中、動かない獣が、硬くなっていくのをタースはじっと見送っていた。

そっと、首輪を外す。まだ少し、獣の首元には温かさが残っている。


自由か。

キツネさんもあの時、死を迎えて初めて自由になったのかもしれない。
小さいキツネのユルギア、今ならわかる。
あれは仔ギツネ自身の無垢な想い。
ユルギアに支配されてしまった母親を解放したかったんだ。

シーガはユルギアの消える瞬間が好きだといった。
本来の姿にと以前言っていたか。
その瞬間だけ心から、微笑む。

首輪の石は青く透明だ。
今もそこに、白い虎を作り出したユルギアが入り込んでいるのかもしれない。
タースは首輪ごとズボンのポケットにしまった。ポケットの底でもう一つ自分の涙から出来たルリアイが首輪に当ってカツと音を立てた。
代わりに取り出した赤いリンゴ。ニーがくれたものだ。

山猫のそばに置いてやった。


次へ(10/5公開予定♪)
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かいりさん♪

かいりさん、優しいです~!
山猫さん。
ものも言わず死んでしまった…。
ニーさん、どうするのか。
いなくなったキドラ。

うふふ。
タースくんの活躍はこれからですよ~♪

うっうっ…

もう少しだったのに。もう少しで想いが聞けたかもしれなかったのに…。
でも大惨事になる前にと銃を放ってしまった人の気持ちもわかるのですが、
それでもやはり悲しいです。涙が…ぐすぐす。
そして一番可愛そうなのが、キドラがこの山猫だってことに誰も気付かないこと…。
そしてニーさん、キドラがいなくなってしまったことを知ったらきっとものすごく悲しがりますよね…。
ニーさんなら、もしかして分かってくれるかな…?
ミキーちゃんも今どうしているのか気になります!
続きも楽しみにしていますね!!

こめんとありがとうです!(TT)嬉しい~

chachaさん♪
うふぅ~泣かせちゃいましたか(><)
このシーン、らんららも描きながら泣きました。基本的にタース君に感情移入してかいてますので…
生き物とユルギアの関係。
少し複雑だけれど、だんだんとタース君も理解していきます~♪タース君がユルギアに何かしてあげられるのだろうか…。
今回はトントみたいに遊んであげなかったし、話を聞いてあげてないです。
それには、理由が。
今回のユルギアがなんだったのか、それはこれから、分かりますよ~♪


史間さん♪
そうですね~猫さんにとって。死は望んだことだったろうか?
違うだろうと思うからこそ、タース君、悲しいんですよね。
ユルギアはなんだったのか。
そう。
ここが今回のポイント♪
実は一話ごとに最終的に表現したいユルギアを理解してもらうために、いろいろな形のユルギアを描いています。
今回の子は…?
お互い、仕事も恋愛も、もちろん小説も、やるときはやる!!ですよ(笑)
両目2.5も同じですし♪


takagaっち!!
太助!!可愛い~!!そうそう、彼にはユルギアがどうしても絡んできます♪ダークサイド…ふふ。
もちろん、一人っきりで生きてきたわけですよ。スリだってできるし、悪いことだってしてますよ~♪ほら、人間誰でもヤンチャな時代が…って、違う?(笑)

禁断の果実!かっこいい~♪(?)

ユミさん♪
はい、タースくんはあの経験があるからこそかもしれません。ユルギアを怖いとは思わないですね。シデイラのシーガさまみたいなことはできないけれど、人間と同様に接しようとする。彼の存在の意味。
納得してもらえるかなぁ~?どきどき…
まだまだ、これからですよ~♪

タースくん、強いですね!過去の辛かった体験を思い出しつつも、キドラに
近付いていったこと。
あぁ、ユルギアとの交流?って切ないですねぇ。
こっちの言っていることを理解してもらえない。でも、何とかして伝えたい。
そして話を聞いてあげたい。
だったらいっそ、普通の人みたいに、ユルギアが見えないほうがいいんでしょうね。
タースくん、どんな使命を持って生まれてきたんだろう。とっても気になります。

おお

ユルギアにまつわる悲話の数々がタース(日本名:太助)の人生に大きな影を……。彼はこの先、真っ直ぐ成長するんでしょうか。なんか多少のダークサイドも顔を覗かせているような気も。

まあ、ミキーに腹立たしくなる気持ちも理解できるんですけど、都合良くキスもする、みたいな(男って勝手な生き物さ。男なんてシャボン玉。やん)

禁断の果実リンゴ。
人間の罪深きことかな。

ああ!

助けられなかった…
うう、確かに死は自由をもたらしたのかもしれない。
でも、猫さんにとって、本当にそれは望んだことだったのかな。
やっぱり、そう思うのは、残された者のエゴなんですよ。
そう思いたいだけなんだもん。
もう少しで、タースが聞き出せたかもしれないのに、想いを。
悲しいです。
私に斬るときは斬る人と言ったらんらら様に言います。
撃つときは撃つ人だ(←

それでも史間はがっつり画面を見ます(両目2.5)

涙、涙です・・・

今日はどこへ読みに行っても泣かされてばっかり;;
タース。君は本当に優しい子だよぉ。
最後まで助けようとしてたんだよね。周りの大人たちにもそう伝えたのに。ちゃんと止めたのに。
それでも、撃ってきた。あの日のように銃を手に持って。

タース、あの時と重なって余計辛い想いをしているんじゃ・・・と心配しています;;
山猫に憑いたユルギア。
自由になって、幸せを感じられたかな・・・
そうだったらいいのだけれど><

傍にリンゴをそっと置いて。
chachaは涙で画面が見えません(涙)
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