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「想うものの欠片」第五話 ②



タースはティエンザであった大きな地震のときに、トラムがどうなったかを親方から聞いていた。

それと、音と想像がぴたりとはまる。

「脱線するよ!みんなどこかに掴まって!!」


少年が叫んだときには既に、地震であることは皆が理解していた。

足元がおぼつかない人々が必死でつり革を両手で掴む。

悲鳴。

ブレーキの音。


地震で線路が歪む。
車輪が外れて、脱線する。

タースは音のした方角、機関車の揺れ、客車の傾きから判断した。

「左に倒れるよ!みんなこっちに!!」

進行方向に向かって右側の座席にいたタースは、先ほどの親子を助けようと、手を伸ばした。

女の子が泣くのもかまわず抱き上げて、窓側に背を向けてつり革の支柱を握り締めた。

ダルクは母親の手を引いて、同じようにしがみ付いている。


ブレーキのために幾人かが転び、そのまま前方に流されるかのように投げ出される。

悲鳴。

ゆっくりと、しかし抗うまもなく天地が変わり、タースは引きちぎられそうな腕をさらに深く支柱に絡め力を込める。

重力があらぬ方向からかかる。

ガン、という衝撃と同時に、客車が横倒しになった。



圧倒的な力に揺さぶられるように人々はその一瞬を迎えた。








シュー。

蒸気が、漏れる音。

何の煙だろうか、白く濁った視界にタースは瞬きした。
腕の中で、何かが動いた。


「あ、いて……」
割れたガラスが腕や背にかかっている。差し込む日の光が反射した。
「う、うう」
小さく女の子がうめいた。

「ま、待って、今起こしてあげるから、動いちゃダメだ。ほら、ガラスが落ちていて危ないから」

そう語りかけ、タースはそっと体を起こした。ガラスの破片が少女にかからないように、注意深く。

あちこちが痛んだが、擦り傷と切り傷。軽症で済んだようだ。

「おか、お母さん」
女の子がタースの座り込む左側に手を伸ばす。

見ると、ちょうど彼女の母親が頭を振ったところだった。
「大丈夫ですか」
タースの問いに、頷いた。

「ダルクさん?」
間に転がっているひしゃげた窓枠とちぎれたつり革、そこにしがみ付いていた男性は伏せたまま動かない。よく見ればダルクではない。

「うー」
その向こうに、今は壁となった天井にもたれてダルクが座り込んでいた。
「う、はあ。何とか、生きてる」
「出よう!」

タースはホッとして見上げた。

客車の側面は今や床と化し、人や荷物、つぶれた座席で埋まっていた。

両側は天井だった場所と床だった場所。出るなら上に見える窓枠からだ。
日が差し込んで、幸いすぐに外に出られそうだった。


「しかし、なんとも…こんなことになるとは」
ダルクが立ち上がった。
見回して自分の荷物を引っ張り出す。
一緒に転がっていたタースのバッグも拾ってくれた。


タースが先によじ登ってガラスの破片を蹴り落として通路を確保する。

次に下からダルクが支えて母親が登る。タースが手を伸ばして母親を登らせた。
その後にダルクの抱き上げた少女を母親が抱き上げる。
そして最後にダルクが自力でよじ登る。

「おれも」
客車内で立ち上がった男が眩しそうに見上げて手を伸ばした。

「ダルクさん、二人を離れたところに。炉がいつ爆発するかわからないから。早く」
「タース、お前は」

「一人助けるよ、そしたらその人が次の人を助ける。僕一人で全員は無理だから」
笑った少年の肩をぽんと叩いて、ダルクはウインクする。
「気をつけろよ」
「大丈夫」


タースは、先ほどの男性に声をかけた。
「けが人で動けない人を先に助けてもらえますか」

上から見ると無残な車内が見渡せた。

立ち上がった男の隣に、座り込んで腕を押さえている女性がいた。引き上げてあげれば自力で歩けそうに見える。きっと、恐怖で動けなくなっているんだ。

足元の窓枠がぎしぎしと軋むが、二人分くらいは支えられると踏みしめて確かめる。

「オレを先に助けてくれ!」
ひげ面の男は伸ばしたタースの手を無理やり掴んだ。

「うわ、ちょっと、そのそこの女の人から、ああ、危ない!」

強引にまるでロープにしがみつくように登ろうとする男を、仕方なく引き上げた。
体を支える腕が、先日の怪我で痛んだ。

男は自らの足が窓枠にかかると、今度はタースを押しのけるようにしてよじ登り、さっさと飛び降りて逃げ出した。

「おい、タース!早くしろ!なんか、すごい燃えてるぞ!」
むき出しになった車輪の脇に立ったダルクが、タースを押しのけた男を睨みつけながら怒鳴った。


風が前髪をなでた。


見ると機関車は炉から出たのだろう、炎に包まれて真っ黒な煙を吐いていた。機関士は絶望的だろう。


ふわと巻いた風に黒い煙が帯のようにはためく。
一瞬、苦い煙を吸い込みかけてむせた。

助けて。
なにか、そう、女性の声だ。
振り返って再び車内を見下ろす。

客車の中、女性が手を伸ばした。その後ろ、夫婦なのだろう男性が女性を支える。
「大丈夫、つかまって」
男性もよじ登ってきた。

「急いでください!」
「ありがとう」
女性はタースをぎゅと抱きしめると、香水のにおいを残して先に下りた夫の伸ばす手の方に向かう。

「タース!何やってんだ、もう十分だ!早くしろよ!もう、街の警備隊が来たぜ、すぐに軍も来る!後はあいつらに任せろよ!」

ダルクの声にタースは遠く、炎の上がる街並みを見つめた。

列車が脱線したのは幸い畑の広がる丘陵地。
周囲に建物もなく、列車がなぎ払った麦の穂があちこちに散乱していた。遠く見える白い家々も地震のために崩れていたり、煙を上げている。

警備隊が来ているようには見えなかったが、さすがに、タース一人で何とかなるものでもなかった。頭を振って起き上がった数人に、ここから外に出られるよ、と声をかけると横になった車軸を伝って下に降りる。


淡い昼下がりの空にはあちこちから昇る煙が黒い幕を引き始めていた。


次へ(11/1公開予定♪)
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楓さん!

こわ~!!!
らんららも書きながら思い出していました(><)
すみません~。
怖いこと思い出させてしまいましたね!
でも、本当に、楓さんがここにいてくれてよかった!偶然に感謝です。
タース君、こういう子ですから♪
ええ、お人よしパワーです!
リンクの件了解しました!
お帰りなさい~♪

ううう

あの尼崎脱線事故を思い起こしました。
なんせ僕はあのすぐ後ろの電車に乗っていて、駅間で閉じ込められた人間ですから。
いつも先頭車両にのるので、1本早いのに乗ってたら確実に生きていませんでした。
電車を下され、尼崎駅まで歩いたんですが、その時事故直後の車両をまじかに見ました。
あの映像が頭にこびりついて離れません。

タースもダルクも、そしてあの母子も、よく無事でいられたものです。
良かった。本当に良かった!!
必死になって助け出そうとするタース。
そうそう、君はやっぱりそうじゃなくては!!!

あ。
ところでブログ再開に向けて少しずつ改良中です。
短い間でしたが、拠点もらんどからブログに戻します。
らんども残しますが、ケータイ小説は基本、野いちご1本で行きます。
ただし英国見聞録はらんどで継続させますけどね。

てなことで、たびたび申し訳ないのですが、またリンク戻しておいてくださいませんでしょうか?
まったくもってご迷惑をおかけします。汗
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