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「想うものの欠片」第五話 ③




列車から街へと向かう客たちの列がとぼとぼと畑をぬって進む。
タースたちもその中にいた。

「しかし、お前が掴まれって言わなかったら俺は生きてなかったぜ」

ダルクはまだ、軽い興奮状態から抜け出せずにいる。

いつの間にか自分のことを俺と言っているのにも気付かない。荷物から取り出したカメラがダメだったために、手にしたノートに盛んに絵を描いていた。記事にするつもりなのだろう。

「何で分かったんだ?」
「ん、僕、少し前まで機関車の整備士をしてたんだ。だから、機関車の異常音はよく分かるから」

「へぇ、なるほどなぁ。その歳だ、いい親方にでも付いたか」
感心するダルクは鉛筆を持つ手で誇りまみれの頭をかいた。

「うん、セルパさんって言って、ライト公領で一番大きな工場で親方をしてるんだよ。いい人なんだ。女将さんの料理も美味しかった」
いくつかの思い出がよみがえる。

「お前なら気に入られていただろ、辞めた時には淋しがられなかったかい?」
「え…」
悪気無く話す男に、タースは言葉を詰まらせた。

「なんだ、あの女の子といい、親方といい、お前楽しい別れじゃないんだなぁ」
楽しい別れ、そんな言葉聞いたこともなかった。
タースが黙っていると男は続けた。

「ものは考えようだぜ?人間生きてりゃ、またどっかで会えるさ。この世の中案外狭いもんなのさ。ほら、オレだってお前と再会しただろう?喧嘩したって、時間がたてば気も変わるさ」
「……迷惑だから」

「ん?なんだ、慰めはお節介か?」
「違うよ。僕がそばにいると迷惑だから」

「お前大人を信用しろよ。子供の一人二人面倒見られるんだぜ。それにお前はいい奴じゃないか」
「違う!僕は許されちゃいけない存在なんだ、だから」
そこまで言ってタースは気付いた。

先ほどからダルクはタースの肩に手を回している。すぐ横からじっと、表情を見られていた。逆にタースからは背後の高い位置にある男の表情は分からない。
「……お前は何者なんだ?」
耳元でささやかれたからではない、低く静かな声に背筋が震えた。
離れようとした時には既に、がっしりと捕まえられていた。


「手配されてるだろ?何でだ?知ってるのか、お前の捕獲に一万の賞金が付く」
「い、一万?」
歩みを止めかかるタースをダルクは引きずるように歩かせた。
「教えてくれ。理由を。そうすれば手助けしてやる」

一万…、銀貨一万なんて想像できない。
タースは混乱した。

指名手配とは聞いていたが、賞金のことは知らない。シーガは知っていたのだろうか。

「どんな手配書か見たくないか?なぜ追われるのか教えてくれれば見せてやる」
ダルクの腕に力がこもる。
タースは息を吐いた。

「…僕」


「人を殺したんだ」


ダルクが強張ったのが分かる。
「…だから」
「嘘つくな」
「……」

うつむいて黙り込んだタースを見て、ダルクは眉をしかめた。

「言うつもりがないってことか…?まだ、人殺しだと思われたほうがいいってことか?」
少年は視線を地面に落としたまま、口をつぐんだ。
ダルクには少年が人殺しには見えなかった。それどころか、指名手配される必要がある自体理解できない。

銀聖シーガは政情に影響すると言っていた。だがタースはごく普通の、いや、それ以上にまともな少年に見える。理由を知りたかった。

これ以上問い詰めても応える気はないのだろう。タースは全身を強張らせたまま、うつむいて歩く。



「お、見ろよ、乗合馬車だ。俺たちも便乗しよう。ここからカヌイエまで歩くんじゃ、たまったもんじゃない」
不意にダルクが話を変えるのでタースは引かれるまま、前方に見える広場を見つめた。

周囲の家は崩れたレンガ塀や落ちた屋根瓦を小道に散乱させていた。
それをよけながら、トラムの客たちは列になって歩いていた。小さな村の教会の前は、広場になっていて、非難してきた人でごった返していた。

その中、二頭立て四輪の乗合馬車が人に囲まれている。人々の興奮を感じ取ったのか馬は苛立って何度も鼻を鳴らす。車掌は次の到着もあるから安心してくれと声を張り上げる。

車掌のまん前に先ほどの髭の男が立っていて、今にも車掌の胸倉を掴みそうな勢いだ。乗せろ、乗せないの押し問答のようだ。人々は距離を開けて、遠巻きに二人を眺めている。治安を護る軍兵も今はいない。

「おいおい、悪いな、通してくれ」
ダルクは愛想の良い笑顔を浮かべながらタースを引いたまま、人ごみを掻き分けた。
さっきはありがとうと、幾人かがタースに笑いかける。
あの女の子がタースの袖を引いた。
「お兄ちゃん、英雄だって」
「え?」
「ママが言ったの!助けてくれたの、ママも、おじさんもたくさん」
女の子の丸い瞳から視線を上げると、母親が恥ずかしそうに笑っていた。
「本当にありがとうございました。あなたが知らせてくれなかったら、私たち生き残ることが出来なかったわ」
「そうだ、ありがとうな、ボウズ」

女性と一緒に避難した男性が車掌ともめる男の後ろで、列に並んでいた。女性も腕に布を巻きつけているものの、それほどひどい怪我でもなかったようだ。顔色もいい。
「良かったね、たいしたことなくて」
照れくさそうにタースは笑う。その淡い海の色の瞳は不思議と人懐こい印象を与えた。


「すまん、急いでるんだが、空きはあるかい」
ダルクの問いに男性は困ったように肩をすくめて見せた。
「あと、二人なんだ。この男性が乗ると私たちは乗れないからあきらめるつもりなんだが、どうも、もめていて」

「そうか、困ったなぁ、急いでるんだ、譲ってもらえないかい」
ダルクが穏やかな笑みを浮かべて男に頼み込む。
言っていることは随分図々しいのだが、ダルクは平気な顔で続けた。
「ボウヤのお母さんが病気なんだ。カヌイエに入院していてね」
「え」
反論しかけたタースの背中をダルクはドンと叩く。
舌をかみそうになって、タースは黙った。
「そうかい、そりゃ心配だ。いいよ、譲るよ。けど、その男が乗るとなると……」


「だから、金は後で払うって言ってるだろ!」
髭の男は強引に乗り込もうとしている。
「だめですよ!こっちだって商売だ、おい、あんたいい加減にしないか!」
車掌はでっぷり太った腹を突き出して、男と向きあう。
「車掌さん、これ、そっちのボウヤと二人だ」
髭の男の背後から手を伸ばして、ダルクは銀貨を一枚車掌に渡すと、タースの背を押して先に馬車に乗せようとする。

「!お前、お前らが邪魔したから俺は荷物を取ってこれなかったんだ」
髭の男がタースの腕を掴んだ。

と、鈍い音がして髭の男は地面に転がっていた。
ダルクが殴り飛ばしたのだ。

「てめえ、いい加減にしろ!助けてもらったくせになんだそりゃ!」
タースは鼻を押さえて呻く男を見下ろしながら、馬車に乗り込んだ。

広場で見ていた人々が口笛を吹いてひやかした。

ダルクは窓から体を半分出すと喝采に応えるように帽子を持った手を振った。
「ほれ、お前も」
背を叩かれて、タースは窓の外を見た。

あの少女と母親がニコニコしながら手をふっていた。
小さく手を振って応える。

車掌はカヌイエから電報で依頼するから、明日の朝には全員を運べるだけの乗合馬車を用意すると約束した。

広場に残った人々は村の教会で一晩休むことになりそうだった。


「よかったのかな、もっと急ぎの人とか」
「お人よしだなぁ、お前」
ダルクが首を回して肩を上下させる。ポキと軽い音がして、男は気持ちよさそうに息を吐いた。

四十代とはいえ記者としてあちこち走り回る生活をしているためなのか、腕っ節には覚えがあるようだった。上着を脱いだむき出しの腕や肩は、タースではまだかなわないくらいの力強さを感じさせた。

ぽんぽんと帽子をはたくと、タースの頭に載せた。
気付けばタースは帽子をなくしていた。

「ま、どこまでいくつもりか知らんが、ついて行くぜ。こう、うずくわけだ。記者としての勘がな」

大き目の茶色の帽子のつばの向こうに、ダルクの鋭い視線が見えた。

次へ(11/03公開予定♪)
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松果さん

うふふ~。ダルクさん。
来ますよ~この人♪
スレイドさんも人気ですが。
ダルクさんも。最後までしっかり物語りに影響する人なんです♪
お楽しみに♪

ダルクさん…

おお~やってくれるじゃないですかおじさん♪
でもまだ安心しちゃいけないのかな…
何考えてるかわかんないところ、スレイドさんに次いで気になる人だ~
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