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「想うものの欠片」第五話 ⑧


カヌイエ。
ライトール公国二十四都市の一つ。
公国の西端でもあり、国境をなす大河アバズカレズにその領土の西を舐められている。源流からほぼ一直線を描く流れは激しく、川岸の岸壁は硬い岩肌を残してすべて削り取られている。唯一この国境の川を越える橋が、キョウ・カレズ。

岸壁からなる城壁をそのまま利用した城塞都市。街中が城壁にぐるりと囲まれている。
街の北西部には領主の城がある。それは南を走る鉄道トラム・ミスも、発展著しい駅周辺も見渡すことのできる高さだ。城の隣には聖堂がある。高い鐘楼から鐘の音が夕闇の中に響いた。
重苦しい金属音は聞く人々の心を映すかのように今日は哀しみを思わせる。
地震による被災者への鎮魂歌が聖堂の中心に位置する礼拝堂からかすかに流れてくる。
厳かなその歌声とオルガンの音に災害に困憊した人々は手を休め、祈りをささげることでひと時の安らぎを得た。

風が冷たくなる。夜になると海と川からの冷気が昇り、街は急速に霧に包まれ始めた。これほど冷えるのは珍しい。地震といい、この気象といい、どこかがおかしくなっているようだ。しかし、人々は崩れた家や壊れた井戸、ひび割れて水の流れない水路の復旧に忙しく、誰もそこまで思うものはない。
傾いたガス灯は明かりがともることもなく、市街の中心はまだ早い時刻だというのに闇の中で静まり返っている。
霧が立ち込め始めると、鐘の音まで湿り気を帯びる。

ゆらりと濃い白を蹴って、霧の中一頭の白馬が走る。
御者台の傍らにかけられたランプがさながら落ちた星のように、静まった街の中心街を流れて行く。住民の住む郊外には、それでもまだ、いくつかの灯りが見て取れた。かろうじて無事だったガス灯だ。
軽やかに車輪の音をさせながら小さな馬車は青白いそこへと向かっているようだ。
城門を抜けてから馬車の後ろには一頭の馬がついてきていた。
それは闇に紛れるかのような黒。
馬の上には一人の男が乗っている。男もまた黒尽くめだ。つばの広い帽子を目深に被り、あごには髭。
静かに馬車の後に従うように走っていた。


馬車はランプの明かりでかろうじて通りを進んでいく。市街の中心から東にある昔からの商店街へと進んで行った。

「静かですの」
馬車の中で少女は雰囲気に飲まれたように声を潜ませた。
同乗する青年は返事をする気配はない。先ほどから腕を組んだままだ。
いつもどおり不機嫌。
城門で一度止められ、氏名と宿泊場所を確認された。それが、気に入らないのだ。これまでこの街に入るのに、いちいちそんなことをされた記憶はなかった。
応えなくてはならないのですか、と詰め寄った青年に、係りの男はこんなご時世ですんで、と苦笑いしただけだった。


宿のカウンターで受付をしている青年の背後でそのサインする手元を何度も覗き見しながらミキーはピクリと何かを聞き取る。ちょうど、宿の扉が開き、黒尽くめの男が入ってきた。
「スレイドさんも一緒ですの?」
肩をすくめて男はにやりと笑う。
「ご冗談をっと」
すがり付こうとする少女に、スレイドは数歩後ろに下がる。
「ちょっと待った。お相手はこいつで」
そう言って、男は何処に持っていたのか、鋼が格子状に組まれた機械を取り出した。長いそれの片側で操作すると、その機械は伸びたり縮んだりする。それにあわせて先端のアルファベットのシーの形の部分が開く。まるで、手を伸ばしたかのように見える。
不気味なそれに、思わずミキーは飛び下がった。

「なんですの?それ!」
「ティエンザで流行っているらしいんですよ、マジックハンド!こう、手で触れなくても物をつかめる、とかで…」
にゅ、と伸びてきたそれを、ミキーがじっと見ている。
少女の胸元のリボンの手前、あと少し届かないようだ。ギクシャクとした動きにスレイドも苦戦する。

「くだらないですね」
「いえいえ、シーガ様侮れないんですよコレ。腐った野菜も触らずに捨てられますしね、鍛冶屋の道具に似てますが、もっとこう、いろいろと利用できるわけで、大学の研究なんかでも重宝してるって話ですよ」
睨みつけるシーガに照準を合わせて、再びスレイドはマジックハンドを伸ばす。何か引っかかったようだ、マジックハンドは動かなくなった。

「ああ!?高かったのに!!」
「ミキー、お前は先に部屋に行っていなさい」
鍵を渡され、ミキーは首をかしげた。
「あの、シーガ様?お荷物は?私が運ぶですの?」
少女の問いに答えはない。
未だにマジックハンドを手にとって故障箇所を調べようとしているスレイドの腕をシーガが引っ張る。
「呆れますよ、スレイド。あなたには」
二人は玄関を出て行く。


「……私一人ですの?」
少女の言葉はチリンという扉の閉まる音で消される。
「ひどいですの~!!」
「お嬢さん、お荷物は私が運びますよ」
宿の主人がにこにことたるんだ頬をさらにたるませてカウンターから出てきた。
ミキーは柔らかな弧を描く髪を揺らしてにっこりと微笑んだ。
美しい少女に主人は年甲斐もなく鼓動を早めつつ、先日まで痛んだ腰のことなど忘れて大きなトランクを二つ持ち上げた。

宿の外、小さな石段の前に二人、シーガとスレイドが並んでいた。
深くなる霧に二人の姿は淡く看板の上のランプで照らされる。
「あの門番、私には何も聞きませんでしたよ」
ギシギシとマジックハンドを軋ませるスレイドの言葉に、シーガは小さく息を吐いた。
「誰かが私を探していたと言うことですか」
「ふ、大方門番に金でも握らせて、シーガ様、あなたの到着を知りたかったというところでしょう、直った!」
シーガの首もとに金属の手がのびる。顎をくすぐろうとするそれが、美しい青年によって再起不能になったのは言うまでもない。


宿の前にはまばらに立つ木立に囲まれた小さな公園がある。
この異様な寒さのせいか、散った葉が柔らかな土の上に模様を作る。闇と霧の中公園の全貌は見えない。一本だけ立つガス灯でベンチとその背後の数本の木が見て取れた。
シーガは夜の闇の中一人ベンチに座っていた。
霧が深まり、ガス灯の青白い灯りに青年の銀の髪は氷のように冷たく光る。
さら、と髪が流れ、黒い上着の襟がぱたと頬に触れた。
風が出てきたのだ。
霧がゆらりと流れ出す。
「…遅かったですね」
シーガは闇に向かって語りかけた。
「なんだ、分かってたのか」

木立の影から、ゆっくりと近づいてきたダルクは、深くかぶった帽子を直す。
「わざわざ門兵に金まで握らせて、私を待つのです、それなりに急いでいるのかと思いましたが」
「あんたがいつ来るのか確実じゃなかったんでね。で、なんでオレだと分かった?」
「……足音が先日と同じでした。過去に足を折ったことがあるでしょう。響きが違いますよ」
「おお、怖いな。さすが銀聖シーガさまだ。じゃ、オレがあんたを探していた理由は分かるかな」

そこで、目の前にたった男にシーガは初めて視線を移した。
翡翠色の瞳が男を射る。
「いいえ。タースを追っているのですか?」
「……これだ」
一枚の写真が、青年の膝の上に落とされた。
薄暗い中、それはタースが縛られている姿だ。
一瞬、青年の整った眉がピクリと動いた。


次へ(11/13公開予定♪)
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コメントありがとうございます!!

花さん~♪
うふ、それいいわね♪タース君受難続き♪(←S?)っておい。うふふ。
どうでしょう~。シーガ様、写真見てピクリと(笑)
どうなるでしょ!テスト、終わったのかな?ああ、らんららもすっかりお絵かきに夢中でした~。読みに行こうと思いつつ遅くなってる!続きが気になってますので、また近いうちに行きますよ~!!


白書さん♪
ありがとうございます!!ダルク氏、なんだか逞しい発想(?)です。
これからますます頼りがいのある奴に成長してもらおうかと画策中です♪
アルティメイタム、観てきましたよ~!!よかった!
すっきり三作を取りまとめて。エンディング、という感じでした!


楓さん♪
うふふ~。予想通りですよ、シーガ様じゃ語りません。
ということは?ふふふ~。
新作、楽しみにしてますよぉ♪プロット…う、きゅんと鳴るヒビキですね~。
「想うもの…」のプロットを今見るとこの段階で起承転結の承…遅い~。まずいですね、今も書き終えたこの第五話と第六話をどれだけ削ろうか考えているところです…。
大体、いつも宿屋と馬車移動…飽きるよ、みたいな~(つぶやき…)


史間さん♪
うふふ!男三人、微妙につまんない絵ですが、シーガ君いるから許してもらおうという。
はい、横槍のためにスレイドさんはいます!彼がいないとシーガ様なにも話しませんからね!おもちゃ…彼にはまだ、生きたおもちゃが~。

ユミさん♪
うふ、ダルクさん、以外でした?考えたんですけどね、シーがさまに救出に向かわせようかとか、スレイドさんがスパイヨロシク助け出すのかとか。
うん。
マジックハンド。これ、一応ね。ないと困るんですよ~物語上ね♪後でちらりと出てきますが。ティエンザで流行、というスレイドさんの言葉が鍵です♪(といってもそんな対したいものでもないですが^^;)うふふ、懐かしいですか?今ね、子供用のおもちゃとかもあって、かなり優秀でした、それ♪

混乱!!

どうなってるの?ダルクさんがここで登場するとは思いませんでした~!
ヤラレタ感でいっぱいです(笑)
タースくんのグルグル巻きの写真を見せて、どうするんだろ。
シーガ様お迎えに行くのですか~??

ところで、スレイドさんのマジックハンドには驚きです!
懐かしいし~。さすが、同世代^^

曲者の三つ巴

シーガ(装備:無敵の美貌)にスレイド(装備:マジックハンド)、んでダルク(装備:タースの写真)。
これは…これは続きが楽しみです!
どんな駆け引きと横やり(←主にスレイドさんに期待)が展開されるのでしょう!
それにしても潔癖スレイドさん…次はどんなおもちゃを持参?わくわく♪

相変わらず町の描写が素敵です!

さて

シーガとダルク、どっちが役者だ?
非常に興味深い再開ですね。
タースの素性を聞き出したいダルクにシーガは何と答える?
おおかた「お好きにどうぞ」くらい言いかねない雰囲気ではありますが、
シーガはシーガでタースのことが気に入らない…いやいや、気になってる事でしょうし、
その辺の利害関係がはたして一致するのか?
癖者同士、
次回更新を楽しみに待ってます☆

そして僕は、
今週から本腰入れてランプのプロット考えます。
はたして第1話はいつになるか、まだまだ未定ですが(汗

ひどいですの~!

の一言にほんわかされますね。
そしてお茶目っぷり前回なスレイド氏。哀れな扱いされてますが・・・
そんな貴方が大好きです。
というかダルク氏タース君に何をやっとるんだーΣ(´Д`lll)
そもそもただの記者のはずなのに身分偽造未遂といい、ちょっと裏がありそうな人物ですね・・・。

どうなるどうするタース君!?

あわわ…ダルクさん、悪い人ではないようなんだけど、一体どうするつもりなんだろう?
ていうか、シーガさん相手に脅しって…度胸あるなぁ=3
次回が恐いですねw(嬉 ←!?
そして、囚われのタース君。
まさか、まさかだけど、ダルクさんの外出中に攫われたりしないよね!?
らんららさん、そういうトコでイヂワルだから、心配になる花なのでした><
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