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「想うものの欠片」第五話⑭

シーガの想い。やっと、描けます~。ちょっと長いけれど…

14

ダルクの言葉にシーガのグラスを運ぶ手が一瞬止まった。

この場にスレイドがいれば、ふふんと面白そうに笑ったのかもしれない。
いや、彼がいればシーガがそんな態度を見せることもなかっただろうが。

「混血ってだけで国政だの戦争だのに巻き込まれるのは、あんまりだろ」
氷のなくなったグラスをぐるぐると揺らす。
くせなのだろう。盛んにダルクはグラスを揺らし、中身を回すようにして眺める。

「あんたたちさえ見なかったことにすれば、俺はアイツを助けてやる。本物じゃなくても身分証を用意してやる方法も知ってる。手配書やら国の指名手配やら、そんなもんはなんとでもなる。逃げ切って見せるさ。なあ銀聖さんよ。あんたも、本当はそれを望んでいるんじゃないのか?」


シーガは長い睫を伏せた。
「そのために俺をこの部屋に呼んだんだろ。あのスレイドって奴には話せないこともあるんだろう?」

ダルクはシーガがスレイドに感づかれないために感情を殺しているように思っていた。
確かにシデイラは無表情で陰気臭いという噂は知っている。それにしてもシーガのそれは何か意図が隠されているように感じていた。
「俺はタースを護ってやるぜ」

シーガは小さくため息をついた。
「いいでしょう。あなたの言葉に嘘がないことは分かります。私はタースを護って欲しいわけではありません。ただ自由でいて欲しいと、そう思ったのです」

「……けど、あんたの立場上はまずいんだろう?」
スレイドはそう言っていた。

「教会のミーア派としての立場です」
「あんたは気が変わったわけだ。あいつが気に入ったんだろ?」

「さあ。……私は、自由ではありません」
シーガの言葉は質問の答えにはなっていないが、ダルクはその言葉の真意を確かめたくなっていた。
銀聖と呼ばれ、世界中の教会で認知されている特別なシデイラ。確かに自由ではないだろう。ミーア派を背負っているからには、その教えに反することはできない。

「私には確かに何がしかの力はあります。それは生まれ持ったもので、なぜあるのかすら私自身分かりません。そしてなぜライトール公国、いえ教会全体で私を特別に扱おうとするのか。それすら理由を教えてはもらえません」

青年の視線は手元の琥珀色の飲み物を見つめていた。そこには自分自身、あるいは何か別のものが映っているのかもしれない。

「教えてもらえない、とは、つまり知っているものが身近にいて、しかし教えてもらえない、そう言うことかい?」
沈黙を肯定と受け止めてダルクは続けた。
「あんたは純粋なシデイラなんだろ?」
青年のまつげがちらりと伏せられた。
「さあ」

「あんたを育ててくれた親がいるだろ?そいつは教えてくれないのか?孤児だとしても、せめて拾われたときの逸話くらいあるだろ」
シーガは目の前のお人よしの男を見つめた。


静まり返った深夜。
ランプを囲む二人はそこだけ違う世界にいるかのようだ。
ダルクはふと寒気を感じる。

いや、そういえば今夜は異常に冷えたんだったと思い出し、異様な恐怖感を追い払う。
ただ寒いだけ。
そう考えてダルクは何かを振り払うように大きく伸びをした。

「……私に興味があるのですか」
ぶ、とダルクは息を吐き出した。
「なんだ、そりゃ。俺はそんな趣味はねえよ」
「いいえ、タースだけではないのですね」
「は?」
「タースは私が何を考えているのか常に知りたがっていました」

「あ、ああ、そう言う興味ね、ま、俺は記者だからな。少しでも気になったらとことん聞きたくなる性分だからな」

ダルクはふと、不思議な感覚を覚えた。

そういえば奇遇だった。タースに興味を持った。そこからシーガに出会い、以前ならけっして近づこうとしなかった教会の人間とこうして腹を割って話そうとしている。

タースはキドラのことを、いや、親友の想いを理解し同情してくれた。悪い印象じゃなかった。そのために、手配書を見たとき、気になってシーガを訪ねた。そして今がある。

タースに出会ったシーガも、まさかこうしてダルクと酒を交わし、慣れない身の上話をするとは想像もしていなかっただろう。

シーガの口調は、語ることに対する逡巡が見て取れる。

誰かに自分の気持ちを語ることなどした事がなかったのだろう。取材でいろいろな人間を見てきたダルクには、シーガのそれがひどく不器用に感じられた。
心を開く勇気が持てない。反抗期の子供のようだ。

しばらく無言で考え込んだ後、シーガは口を開いた。

「そうですね。あなたはタースとは違う。あれは、見ていてひどく苛立ちます」
「よくわかんねえな、あんたはタースのことを気に入ってるんじゃないのか?」
「素直すぎるのです」
「ん?ああ、アイツは素直だな」

「心が自由なんですよ。見ていて苛立ちます」
「…小難しいこと言うなぁ。じゃあ、あんたは自由じゃないのかい?人間考えることくらい好きにさせてもらわなきゃな。どんな状況におかれたって思想だけは自由だぜ」

「世の中に必要ない存在として忌み嫌われる。シデイラの民族が一様に無口で無表情なのはそのためです。アレは雑種だからか、平然としている。生きていくことに何の疑問も持っていないように見えます」

ダルクは目の前の青年の言わんとすることがおぼろげながら分かったように感じた。

存在を否定され忌み嫌われて生きることの空しさを、タースはまるで感じていないかのようにたくましい。容姿が一見シデイラとは違うからというのも一つの要因だ。
雑種と呼び捨てるのも、青年の妬みに近い感情が伺える。

シーガがタースを見てイライラするのは、羨ましいから。ただそれだけなのだ。
案外、可愛い性格なのかもしれない。

「あんたも恵まれているようでそうでもないんだな。そんなつまんねえ顔して。生きるのは誰でも大変だが、タースはそいつを嘆いてはいないな。…逆にあんたは死にたいとでも思っているかのようだ」

ダルクの興味はシーガに移っていた。タースの生まれや境遇は理解した。それを羨ましいと感じる青年の境遇が、どんなものであったのか。
謎の人物と目される。
銀聖シーガ。
どんな人間なのか。

シーガは足を組みなおした。

「死ねるのなら、ですね。私は多分死ねないのです。理由は分かりません。これまで、当然死ぬだろうという目に遭ってきました。何度もです」
「…そりゃ、運が良かったんだろ?」
「ええ、運がいいんですよ。常に。ありえないほどに」
そう言ってシーガは自分の胸を指差して見せた。

「今、私がここに剣を突き立てたとしましょう。偶然ですがその剣は折れるのですよ。私が炎に身を投じたとしましょう。偶然ですが豪雨が炎を消すのです」

シーガの口調に熱が帯びてきた。タースに対する想いを口にするよりずっとすらすらと話す。

それはシーガが自分自身にコレまでも何度も問いかけてきた疑問だからだ。
繰り返し考えて悩んできたことだからだ。
本人も気付かず、胸に抑えてきた感情が見えてくる。

ダルクは緩む口元をごまかそうとグラスを運ぶ。

これまでシーガは誰にも話せなかったのだろう。こうして興味を持って、耳を傾けるオトナに出会えなかった。

「…なんだそりゃ。できの悪いおとぎ話みたいだな」
「ええ、不自然ですよ。ですが。常にそうなるのです。ですから、私は忌まれても殺されない」
「…殺されそうに、なったのか?」
ダルクの鋭い言葉に青年は黙った。

は、と息を吐き出してダルクは大きく腕を突き上げて伸びをした。
「まあ、聞く必要もないがね。だいたいあんた、何で俺に話す?どうせならタースに話してやったらどうだ。あの子なら気にしてただろう?何であんたがいつも不機嫌なのか」
椅子をがたりと鳴らす男に、シーガは顔をあげた。

何故か自分でも分からないのだろうが、シーガはダルクに話したくなっていた。
ダルクは見越したように座りなおしただけで、もう一度テーブルに肘を着いた。より青年の顔に近づいて、にんまりと笑った。


「あんたは、タースを信じているんだ。で、同じようにあいつのことを信じている俺を信用したいと思ってる。だから、タースの身柄を俺に託したいと思っている。だろ?」
「…タースに私自身の話はしません。あれの背負う生き方のほうが余程、つらい」
「それでもきっとあいつはお前に同情するぜ。そういう性格だ」
「子供に同情されても情けないだけです」

「…で、俺に話してるわけだろ。人間、自分がつらかったことなんか人に話したくないもんさ。本当につらい奴ほどそうだ。たいしたことない奴ほど自慢するかのように自分を憐れむ。あんたは、タースのつらさが分かってるから言えないんだろ。俺なら聞いてやれるぜ」

シーガの頬が紅潮した。それは一瞬のことだったが、ダルクの言葉が的を得ていると感じたのだろう。
打ち明けたいと想っていることを自覚したのだ。

「…私は、自分の両親が何者なのかを探しているのです」
「ふん」
「私の記憶の中で母親らしき人物は、私に剣を向けました。多分、私が三歳くらいの頃です。それが目の前で折れたのを見て彼女は泣き崩れました。お前など、生まれなければ良かった、と」
「殺せなくて、捨てられたのか」

「そう推測しています。しかし母親が誰なのか、父親がどこにいるのか、微かな記憶では分かりません。私を育てた聖女ファドナも決して語ろうとしません。何がしかの理由があって私をシモエ教区へは送らず、手元で育てたのだと思うのです。しかしその理由を教えてもらったことはありません。何ゆえ、私にはこれほどの音や思念が聞こえるのか、不自然なほどの運が付いて回るのか」
「…ま、贅沢な悩みって思うやつも、いるかもな」

「ええ、そうですね。その力や境遇によって私はシデイラの民よりは、自由でいられるのだと、そう、最近まで思っていました」
「けど、タースに会った」
「はい。孤独で、家族もなく、これからの希望すらないはずなのに、タースは思うように泣き、笑うのです。悔しければ怒り、好きであれば好きだと伝える。自分が生きていることに何の疑問もない」

「普通はそんな疑問は持たないさ。あんたも、可哀相な人だな」
「……」
「助けたいと、思ってんだろ?指名手配なんかされちまって。あんたにしろ、俺にしろ、国を動かすことなんかできやしない。だから、あんたはあきらめて、とにかく逃げてくれることを願ったんだろ?」
「…あなたが捕まえてしまった」

「ああ、そりゃ悪かったさ。けどな、あいつ自身どうして追われるのか分かってないんじゃ、あまりにもかわいそうだろ?理不尽だろ。あんたたちに理由を聞いてな、俺は考えたんだ。……タースを、レスカリア帝国へ逃がすのはどうだ」
シーガがグラスに揺れる液体から男に移す。

「…同じことを、考えていました」


相変わらず無表情な青年に、ダルクはどうにも不器用な子供らしさを感じて笑みをこぼした。まだ二十代。ダルクから見れば子供だ。

海を隔てた遠い国、レスカリア帝国。まだあまり知られていない国だが、この国を統べる宗教の源、言葉も同じなら文化も同じだろうとダルクは推測する。
言葉が通じればタースが生きていくことはできるだろう。そしてそこならライトール公国もティエンザ王国も手が出せない。

「ティエンザからなら、飛行船がある。船もある」
「ええ、ですから、国境を越えさせようと考えていました」
シーガは荷物のトランクから、そっと丸めた書類を出した。
受け取ってダルクは目を丸くした。
「これは…」
「作らせました」
「プロだな、高かったろ?」
偽のタースの身分証を見て、ダルクは唸った。

「結局。似たようなことを考えていたんだな」
くく、とダルクが肩を震わせた。室内にかけてあった上着のポケットから、小さくたたんだ記者証を取り出して見せた。
身分証を返そうとすると、シーガは手で遮った。

「なんだよ。俺に渡せってのか?自分で渡せよ。きっと喜ぶぜ」
「…私は、この後ティエンザの首都で仕事があります。それに付き添わせて国境を越えさせるつもりです。ですが状況によっては、私は国を離れることはできません。もし情勢が悪化し戦争が始まれば聖女ファドナを放っておくことはできませんから」

「…あんたの出生の秘密を知っているかもしれないから、か?教えてくれない狸でもか?」
「それでも」
「信じてはいないんだろう?向こうは政治的な理由かもしれない、あんた自身のことを知らせないんだぜ?利用されているかもしれないだろ」
「……私にも、子供のころがあったのですよ」

育てられた。
ダルクはシーガの言わんとすることを思って肩を落とした。
信じてはいないが、裏切ることもできない。

結局、優しいのはあんたも同じか。
そうつぶやいて、ダルクは少しだけ残った酒を飲み干した。

「こいつはあんたから渡しな。タースはあんたの元を離れて、寂しそうだったぜ」

そういって書類を二枚ともテーブルに置く。シーガの返事を待たず立ち上がると、ダルクは自分の寝床に向かった。

けだるそうな足取りで仮の寝床に横たわると、男は直ぐにいびきをかき始めた。
その上下する背を、シーガは不思議な気分で見つめていた。


タースに会ったら、どんな顔をするのだろう。
何度も想像したそれを再び繰り返していた。

そうしている自分の表情がとても優しげであることに、シーガは気付いてはいなかった。



次へ(11/25公開予定♪)
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かいりさん~♪

ありがとうございますっ!!
ダルクさんには、はい!語りましたよ~!!

人間不思議と、あまりに身近な人には語れなかったりしますよね。本音のところは。

なので、知り合ったばかりだけど、ダルクさんに告っちゃいました!
多分、二度とこんなに語らない…かな。

さて、タース姫(史間さん的視点から…笑)は王子の下から逃げ出して…うふふ。
ご期待ください~!!

好きだー!!!

改めて告白!シーガ様大好きです!!もー!好きーーー!!(煩っ
まさか、ダルクさんにこんなに喋ってくれるなんて…!
シーガ様の謎はまだまだ残っていますが、そのせいで彼が今まで何を思ってきたのかがわかってとても嬉しかったです^^
そして育ててくれたファドナ様に対する思いにも…じんときました。
シーガ様にもダルクさんにも守ってもらえて、タース君ってばもうっ!!
でもタースくんは今頃…><;どうか無事でいて!!
続きも頑張ってください!!

kazuさん♪

ありがと~!!
なんだか、これ、タース君が女の子だったらと妄想してしまいましたよ…そのほうが受けるかな?(おい^^;)
いや、そうするとミキーちゃんの立場が!!
いや、男の子タース君の立場のほうがないかな?
シーガ様♪実はかなり可愛い性格です!
やっと、やっと、主人公らしくなってきましたので♪
これからも末永く♪よろしくです!!

ダルクさん・・・

ダルクさん、タース君にとってもシーガ様にとっても頼れる大人、ですね。
ダルクさんが、タース君を助けようとしてくれてよかった。
タース君の素直で真っ直ぐな性格が、ダルクさんとシーガ様を引き合わせたんですね。
シーガ様の心の内、洗いざらい話して。
きっと、シーガ様自身精神的に少し楽になったのでは・・・
「タースに会ったら、どんな顔をするのだろう。
何度も想像したそれを再び繰り返していた。」
かわいい・・・、可愛いですよシーガ様!
シーガ様が自由になる日が、早く来て欲しいです^^

史間さん♪

自由!!
いいなぁ、その言葉!!
シーガ様もそろそろ主人公らしい変貌を遂げて、自分のために自由を勝ち取る行動してくれるといいんですが♪
うふふ。それは、まだ秘密~♪

自由で

いて欲しい…もっと言えば、自分が自由になりたい。
そうなのね、シーガ様?
でも、今のままではそうはならないと確信している。
悲しいです!
その想い、タースに託すだけじゃなくて、自分でも掴み取りましょう!!(拳ッ)

続きも楽しみです♪

楓さん♪

いやぁ、なんだか書いていてとっても恥ずかしい気分になってました…
なんでかな、どうも。普段語らないから…。
満足いただけて嬉しいです♪
うふふ~。当分、そうです。
もちろん、タースの前で素直になるなんてことはありえないわけです(笑)

語る!!

シーガ……
もう一生しゃべらないのでは?ってなくらいしゃべりましたね。笑
いやいや、それにしてもそうですか。
ダルクの手にかかれば、シーガも子供。
その背中に、真剣なまなざしで耳を傾けるタースの表情を知らず感じながら話していたのでしょうか?
いろいろ、シーガの胸の内を洗いざらい知ることのできた今回、
いろんな意味で、とても満足♪
で、
結局いざ渡すときになったらぶっきらぼう?笑
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