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「思うものの欠片」第六話 ⑤



翌日は乗合自動車という乗合馬車のような役割のものに乗せてもらい、タースはものめずらしさにうきうきしていた。

乗り心地がいいとはいえないが、車窓から見える景色がすごい勢いで流れ去るのをタースは飽きもせず眺めた。街道の途中の村々はあっという間に通り過ぎる。

村に一つは停留所があり、そこでまたタースたちのような客が増える。
十人乗りの大きな自動車は、アルコール燃料で発電機をまわすモーター式のエンジンを積んでいた。

トモキは取材のために色々と勉強したのだろう、新しい技術に詳しく話が面白い。

タースも興味あることには目を輝かせて聞き入るので、トモキは知りたがりだなと呆れながらも説明してくれた。

トモキはまだ二十歳だった。田舎にタースと同じ年の弟がいるという彼は面倒見がよく、タースは知らない国に来たという緊張感もあってか年上の青年を信頼した。

彼がいなければタースは今いる土地の地名すら分からないことになる。
いくつの時に国を出たんだよと笑われながらも、地図を見てはトモキに説明を求めた。


二人がサンルーの街に着いたのは二日目の夜だった。

到着してから食べられるからと夕食を我慢していた二人は、乗合自動車が停留所に停まると競うように下車した。

そこはサンルーの街の郊外で、台地の上になる。昔からある小さな聖堂のために街道が整備されているから、今の街のにぎやかな地域とは少し違う。

「このサンルーはね。十年前まで、海が見えて少しだけ眺めがいいことと、おいしいオレンジが取れるということ以外たいしたものはなかったんだよ」

トモキが話してくれた。

「当時はこの台地の上にある聖堂周辺が中心街だったんだ。聖堂で僧侶が作るオレンジのジャムと酒が主な収入源だったんだ。今はもっと南のあの辺りが一番賑わってる。トラムの駅もあるし、大学や街の庁舎もそこに新しく建ったんだ。ただ、この古くからある街道は他の街と一本で結ばれているからね、未だに乗合自動車はこの道を使う」


自動車の出発の警笛を背中に聞きながら、タースはトモキの指差す方角を眺めた。

遠い海が深い青に沈み、町並みはシルエットと小さな灯りだけだ。それでも、庁舎か大学か、大きな建物があることは分かる。通りに並ぶ街灯はここから見ると青白いひび割れのように街の暗がりを横切っている。

「すごいな…僕ね、建物の歴史に興味があるんだ。大学には図書館があるの?」
タースはライト公領の図書館を思い出していた。
「ああ、大学内にあるよ。病院もあるんだ。大学付属のね」
「ふうん」
不意にどこからかぐうと低い声がした。

タースは腹を押さえた。
目が合って、トモキはにやっと笑う。

「また、おなかすいた、かい?」
「……自分だってそうだろ?」
「君ほどじゃない……」
また、咳き込む青年の背をさすって、タースはトモキの上着をかけてやる。

「はあ、ああ、ありがとう」
「なんか、元気の出るもの食べなきゃダメだよ」
「元気の出るもの?」
「そう、たまにはお肉とか!」
嬉しそうに笑うタースの脇をつんとつついてトモキは笑った。

「お前、自分が食べたいんだろ?」
「ん~何でもいいよ、何でもいいけど、おなかすいた!」
歩きながら腹をさすってみせる少年にトモキは笑う。


二人は古い聖堂の前の広場を歩き出し、少し下り坂になっている街道で宿を探した。

この時間に乗合自動車が到着するために宿泊する客も多いのだろう、数件の宿が並んでいる。しかし、小さな宿が多く、満員だと二軒ほど断られた。

タースは荷物を持ち、トモキが時折咳をしながらあちこちを見回す。

何度かこの街に来ている彼はここがダメならあそこ、というふうに数件の目星をつけているようだった。

トモキの生まれはライトール公国の北部の小さな村だった。

村には父親と弟がいるのだといった。弟は酒屋を営む父親の後を継ぐと決めていて自分なんかよりずっとよく出来た息子だった。
幼い頃から父親とうまく行かなかったトモキは、十七歳の歳に家を出た。

始めは家出同然だったんだと笑っていた。

「コナツ、お前もそうなんじゃないかと思ってるんだ」

そう言われた時、一瞬本当のことを話してしまおうかとタースは考えたが。これまでの経験からやはり混血であることは明かせなかった。

どんなに、いい人だと分かっていても。セルパ親方のように迷惑をかけるかもしれない。

「家に帰りたくないんだろ?」
「……トモキさんと同じ」
「なんだ、ずるいな」
返事をあいまいに濁して、ごめんなさいと心でつぶやく。

不意に香ばしい匂いがタースを取り巻いた。

細い傾斜する下り坂に、小さな宿屋があった。淡い茶の煉瓦を積んだ壁、木でできた窓枠。小さな窓は蝶番で下側だけが押し開かれている。そこから腹の虫を元気にさせる煙が漂っていた。

「いい匂い!」
「ああ、ここだ。少し部屋は狭いが、料理がいいんだ」
古い鋳物の看板が軒に吊るされ、かろうじて「時折亭」と読める。

ちょうど樫を鉄鋲で固めた扉から大勢の男たちがなだれ出てきた。
一人がタースに突き当たった。
「わ」
「なんだボウズ、邪魔だぞ」

トモキに引かれて脇によける。相手の肩に当たった鼻を押さえて、タースはもう一度男たちを眺めた。
軽装備ではあるが軍兵のようだ。

二十名ほどの集団はすでに酒が入っているようで、酒場へと皆で連れ立って、といった風情だ。通り一杯に広がりながら、坂道を下っていく。

「大丈夫か?」
「あ、うん」
「入ろう」

軍兵を見たタースはなんだか嫌な気分になっていた。
手配書のことも気になる。

同じ宿だったら困るな。

また腹の虫だけが返事をした。

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史間さん♪

はい!タース君お腹すいてます♪食べ物ネタは続きます(笑)
らんららも食事シーン大好きなので、必ずどんな作品でも使ってます♪

この街はらんららも好きです♪山奥は苦手で、海沿いも実はあまり身近じゃない。
遠くに海の見える街。丘があって、平野もあって。というのがやっぱり表現しやすいんですよね♪

肉料理!これもイタリアのフィレンツェがモデル♪(というほどでもないですが)やっぱり、初めて行った街では、そこで有名なものを食べたり飲んだりしたいですよね~♪

この町の感じ

今まで訪れた(一緒に旅をした気分でいる人)場所で、一番好きかもです♪
シーガ様と同じく(?)、海町の潮くさい感じは(海のある場所で育ったので)懐かしいですが、やっぱこっちの町にワクワク。
お腹が空いたという回でしたね(笑)私までお腹が空いてきましたよ!
タースと一緒に食事したら楽しいだろうなぁ。
美味しく食べられそう!

かいりさん!

うわ~、ここまで?すごいなぁ♪
新しい街♪ここはイタリアのナポリの近くの観光地がモデル♪名前忘れちゃったけど(おい^^;)、レモンのリキュールと陶器で有名な町でした♪
リア友にらんららの作品は世界と歴史を描きたい作品だといわれたのですが、…自分でも納得(^^;)
こういう街とか橋のエピソードとか考えるの大好きです♪
そこに生きる人の息遣いとか歴史♪
楽しんでいただいて嬉しいです~!
はい!また是非きてくださいね♪

こんにちは!

今日はここまででいったんコメント残していきたいと思います♪
国境超え、思ったよりスムーズにクリア出来てよかったです^^
橋でのエピソード、悲しいお話だけれど好きです。
スレイドさんがいたときはドキっとしましたね。
見つからなくて、ほっとしたような、残念なような?
トモキさんが案内してくれる新しい町。なんだか私は観光している気分になれました^^♪
続きまた読みに来ますね~!
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