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「思うものの欠片」第六話 ⑥



「なんだい?ここの肉じゃ嫌だったかい?」

出された水を両手で抱えて睨みつけているタースにトモキが首をかしげた。
どうやら黙り込んでいるタースを不機嫌と見たようだ。

「あ、ううん。こんな静かな街の中に軍兵がいるんだね」
口を尖らせる少年に、料理を運んできた店主が笑った。

「ああ、あの人たちか。すまないね。でも、宿泊客じゃないから、もうここには来ないと思うよ。このところ北部に向う兵が多いんだよ。途中でこの街道を使うから、こんな小さな店にもああいった人たちが来るようになってね」
「あ、いえ」
タースは慌てて肘を突いてた腕を行儀よくしまった。

シーガが見たらなにを言われるか分からないような態度だった。

「いいんだよ、わしらもちょっと迷惑してるんだ。金払いはいいんだが少し乱暴でね」
「北へ向うのはどうしてですか」
トモキは肉にソースをかけてくれる主人に尋ねた。

じゅ、と音を立ててソースが鉄の皿の上で泡と香ばしい匂いを立てるのをタースはじっと見つめていた。

鉄で出来た皿では焼きたての牛の肉が三切れくらいに切られてある。
厚みのある肉で切り口からは溶けかけた脂と赤みを残した桃色がのぞく。脇についたトウモロコシの粉で作られた団子と赤い小さなトマトがソースと一緒に煮立てられる。
プチ、とトマトにひび割れが出来た。それをフォークでぐっと押しつぶして火を通すと、焼けるトマトのいい香りが漂う。

タースは早速、肉にフォークを突き立てる。

「ほら、少し前からだけどね、シモエ教区に軍隊を送っているんだよ。何でも基地を作るんじゃないかって噂だけどね」
肉を口に入れかかって、タースの手が止まる。

「ああ、結局ライトールの軍は引き上げたらしいですね」
トモキがこの街名産のオレンジのリキュールをソーダで割った飲み物をもらいながら主人の禿げた頭を見上げている。

「ああ。なんだか、ここ最近の王政は勢いばかりで心配だね」
「平和なのが一番ですよね…どうした?コナツ、食べないのか?」


言われて、手が止まっていたことにタースも気付く。すっかり落ちてしまったソースをもう一度丹念に塗りたくって口に放り込む。

「美味しい!!あの、シモエ教区はどうなってるの?シデイラの保護施設は?」

タースの言葉に二人の大人は顔を見合わせた。
「すみません、こいつ世間知らずで」

トモキに謝られて、タースは少し頬を赤くした。慌てて水を口に含む。
なんだ、知ってなきゃおかしいかな?
他の客に呼ばれて店の主人が離れると、タースは口を尖らせた。

「あの、教えてくれないのか?」
すでに肉を食べ始めていたトモキが目を細めた。

ゆっくりかんだ肉を飲み下し、ナプキンで口元を拭くと話し始めた。

「少し前だね。シモエ教区はもともとどちらの国の領土でもない、教会の土地だ。今まではミーア派がそこを管理していたんだけど、それがロロテス派に変わったんだよ。で、ミーア派はライトール、ロロテス派はティエンザっていう図式が成り立つくらいだったから、ロロテス派に代わった時にティエンザが警護を請け負うことになったのさ」

「でも!ロロテス派はシデイラを嫌ってなかった?」

「ん?そうだったかな。そうかもしれないね。でも、シモエ教区はほら、地図で見ると大陸の一番北だろ?ライトールとも接していて、ここに基地を置けばいつでもライトールの背中から睨みを利かせることが出来るんだ。ライトール公国のリュエル三世は平和主義な人だからね、そんなこと気付きもしないのかもしれない。カヌイエのムハジク候がイライラするのもわかるね」
「その、シデイラの人たちはどうなったの?」

再び肉を口に入れた青年はタースの想いとは裏腹にどうでもいいかのように首をひねる。

「変な事聞くなぁ。シディがどうなっても関係ないだろ?どちらにしろ、彼らは教会の教えでは保護されているし、ロロテス派はミーア派よりもっと厳しく管理するんだろう?悪いことじゃないさ」

タースは視線を肉に戻した。

「なんだい?食べないのか?冷めるよ?」

タースは黙って、再び香ばしい肉と格闘を始めた。

シーガたちはミーア派だった。
何かあったのかな。
どうして、急にロロテス派に変わったんだろう。


タースには国政の動きは分からなかった。

ただ、何がしかの影響がシーガやスレイドにあるのではないかと、危惧しただけだった。そしてシデイラの民のことが胸の奥に引っかかった。
自分が逃げてきた場所。

二度と帰りたくはない。そう思ってきた。
知っている人もいない。自分が彼らの仲間になれるはずもないことは十分知っている。
それでもあの時の白い雪のように何か冷たいものが心の奥に積もっているようで、熱い肉をいくら噛んでも、水で流し込んでもそれは溶けずにわだかまっているように感じた。
ユルサナイ…。
いつもの声が、微かに脳裏をかすめる。


宿の部屋に入る頃には、トモキは少し飲んだ酒で酔ったのか足元がおぼつかなくなっていた。
部屋は二つの小さなベッドがぴったりとくっついて並べられ、部屋の片隅に押し込まれた感じになっていた。窓が一つ、夜風をはらむカーテンがランプの灯りに白く揺れた。
トモキに肩を貸して、ベッドに座らせる。すぐに青年は横たわってしまった。

「もう、飲みすぎだよトモキさん」
「ん……」

タースは荷物を部屋の隅に置いた。小さな客室にはテーブルが一つと二つのベッドがあるだけだ。洗面とシャワーの一緒になった簡易のバスルームが横についている。

ちょうど、タースが初めてシーガたちと宿を取ったナトレオスの街の宿屋に似ていた。
タースが悪夢を見たあの宿だ。

少し肩をすくめて、タースはぐったりと寝込んでいるトモキの靴を脱がせた。

「トモキさん!なあ、そのまま寝るつもり?」
「…ユリ」
「?」

何事かつぶやくから、タースは青年の顔を覗き込んだ。
赤い顔。昼間は病人のように青白かったのに不思議な気がした。そっと額に触れてみる。
「…トモキさん、熱がある」

(多分、そうだ。)

トモキの返事はない。

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楓さん♪

胃痛!?お薬をばっv-356
まだまだ、タース君大変ですから♪
シデイラとロロテス派。何を考えているのか…。
何が起ころうとしているのか!
ふふ~v-391
もうちょっと先で分かりますよ~♪

え?!

シモエ教区に軍隊?!!
えええ!
まて。
まてまて落ち着け。
そ、そんな話ここまでで出てきてましたっけ?!

それって、やばくね?
ロロテス派はシデイラをどこまで擁護する気があるのか……
非常に怪しいと思わざるを得ないんですけど。

シディがどうなっても関係ないだろ

この言葉が、この世界のシデイラに対する常識を垣間見たような気がしますね。
あああ不安だ。
国境を超えたはいいけど、

トモキといい、嘘の上塗りといい、シモエ教区といい、
なんか不安だらけじゃないですか。

ああ胃が痛い。
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