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「思うものの欠片」第六話 ⑦



タースはトモキの上着だけ脱がせ、シャツの襟元を緩める。

「トモキさん、寒い?それとも暑い?」
声をかけても返事はない。

タースは濡らした布を額に乗せ、もう一枚で首の後ろを冷やす。
ずいぶん熱が高い。どうしよ、このままじゃまずいよな。
タースは宿の主人に事情を話して近所の医者を紹介してもらおうと部屋を出ようとした。
そのとき、青年が何か言った。
「なに?」

枕元に戻ると、トモキがうっすら目を開けた。
「どこへ、行くんだ?」
「お医者さんを呼ぶよ、きっとまだこの時間なら来てもらえる」
「逃がさない」
「え?」
「お前を…」
「トモキさん、医者を呼ばないと!」
「ダメだ!…絶対にダメだ…」

不意に体を横に向けたかと思うとトモキは咳き込んだ。
苦しそうにしているうちに、体にかけられていた自分の上着を口元に持っていく。

「?」

ぐ、げほげほ!

「!?トモキさん!」

何か吐き出した。
それを隠すように上着をぐるぐると丸め、トモキは横たわったままそれにしがみつくようにしている。
背をさする手が、震える。

トモキの身に何か恐ろしいことが起こっている。けれど、タースにはそれがなんなのか分からない。どうしてあげればいいのか、分からない。

そっと、トモキの握り締めるそれを奪おうとする。
が、しっかりと硬く丸め込んだ服を青年は放そうとしない。

「トモキさん、医者を呼びます」
再びベッドを離れようとしたタースの服をトモキがつかんだ。
「!?」

その瞬間、トモキの握り締めていたそれが床にばさりと落ちた。
薄茶色の上着は、どす黒くなっている。
「!」

血だ!血を吐いたんだ!
床に膝をついてトモキの顔を覗き込んだ。ランプの灯りでも、彼の口元が血で汚れているのが分かる。

「トモキさん!」
「だめ、だ。いいか、もし医者を呼んだら、お前が」
「呼ばなきゃダメだよ!」
タースの声は悲鳴に近い。

吐血するなんて初めて見た。
きっとよくないんだ。

話に聞いたり想像したりする中で、その状態は深刻な容態の病人を思わせた。
落ち着け、落ち着かなきゃ、僕がしっかりしなきゃ。
このままじゃ、トモキさんは。

死んでしまう、その言葉をタースは飲み込んだ。恐ろしい発想は喉につかえてタースは何度も瞬きすることで涙目をごまかした。
「トモキさん、いいからとにかく、じっとしていて、今」
「手配書」
「…!?」
「持ってる…」
振り返るとトモキの形相は恐ろしいまでに目を見開き、タースを睨みつけていた。
握り締める手の力に、掴まれた腕がぎしぎしと痛んだ。
ぞくりとした。
その執念ともいえる行動に、タースは言葉を失った。
「…いいか、誰にも知らせるな…知らせたら、お前が追われてること、賞金のこと、ばらすぞ」
脅す内容より、その気迫にタースは飲まれた。
死んでしまいそうなのに、苦しいはずなのに。
なぜ、そこまでして。何をしようとしているんだ。

一人病に苦しむつらさをタースは知っている。それがどんな些細なものだろうと、一人きりで痛みに耐え、それがいつ治るともわからず、医者にかかることも出来ず、もしかして死ぬのかもしれないと思いながら眠る夜の恐ろしさをタースは知っている。

だからこそ、それを拒絶し、しかもタースを脅してまで医者を拒否するトモキの気持ちが、タースには恐ろしかった。

彼は、何かに命を懸けているのだと思った。
キョウ・カレズで語った、もう立ち止まることはできないと言ったトモキを思い出した。何かに向かって、彼は足を踏み出しているんだ。
血管の浮き上がる細い手をタースはそっと握り締めた。

「わかった…分かったから。口の中気持ち悪いだろ、水持ってくる。そばにいるからさ、医者は呼ばない。だから、気を落ち着けて」
いつの間にか、トモキの顔が涙で曇っていた。
タースの目を見て病床の青年はふと微笑んだ。

「…泣くことないだろ」
タースは慌てて頬をぬぐうと、テーブルの上に伏せられていたコップを持って、洗面所で水を汲んだ。

両手で抱えて戻った時には、トモキは目を閉じていた。
表情のない寝顔に、一瞬不安になったタースは、青年の肩をゆすった。

「トモキさん、トモキさん?」

うっすらと目を開けて、目の前のタースを認めるとトモキはふうと息を吐いた。
体を起こそうとする。
タースはそれを手伝って、ベッドの脇に座ると支えて水を含ませる。
口に含んでむせて吐き出すと、トモキはコップを押しやった。

「…、水替えてくる」
そういって立ち上がりかけたタースの手を押さえた。
「いいよ、もう。大丈夫」
うっすら笑うと、トモキは再び横になった。
しばらく様子を見ているうちに、眠ったようだ。

タースはコップの中身を洗面所に捨て、念のためにもう一杯汲んでテーブルに置いた。
窓を閉め、自分も眠るために上着を脱いだ。
二つのベッドがくっついているから、タースが眠るためにはトモキの向こう側に回らなければならない。
靴を脱いで、下着だけになるとそっとトモキの足元の方から自分のベッドへと向かう。


「…逃げても、いいんだ」
トモキがポツリと言った。

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楓さん♪

泣きます~?v-391
怖いシーンです、はい。
救急車!がないからなぁ~。
ちなみに、らんららは職場で倒れたおじいちゃん、おばあちゃんのために救急車三度ほど呼んだことあります…。
緊張しますよね…救急車…。

泣く

泣くね、僕もこの状況なら。
医者は呼ぶなという。
でも血を吐いている。
呼べばばらすという。
でも苦しそうにうめいている……泣くよ。
どうすりゃいいんだよぉぉぉぉおおおおおおおお!!
てか、トモキが持っていたのはやはり手配書だったんですね。
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