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「想うものの欠片」第六話 ⑪

11

「こんにちは。私はリック・ドルナー。こちらはレクマイヤー教授。トモキさんとは知り合いでね」
密かに少年が拳を握り締めたのをリックは気付いていない。
明るい茶色の瞳を細めて、タースに笑いかける。少し親方の面影がある。

「こ、こんにちは」
親方のことを思い出すのと一緒にタースは笑顔になる。

家に帰ると手紙が届いていた。帰ったのかな、親方に会ったのかな。
親方は元気だろうか。

「君が助けてくれたんだってね。ありがとう」
「いえ、トモキさんは友達だから」
照れたように笑う少年に向けるリックの視線は冷ややかだ。

「そうかい。彼も、優秀な記者だったんだけどね」
タースは青年の表情に気付いた。
笑顔が消える。

「過去形とは、ご挨拶だね、リック」
「おや、トモキ、気がついていたのかい」
派手に肩をすくめるリック。青年と教授がトモキのベッド脇に並んで立ったので、タースは一歩下がって、出しかけた言葉を飲み込んだ。

「私は医師ではないけれど、ずいぶんひどいと聞いたよ。トモキ、馬鹿なことをしたね」
そういった教授は、無表情なままトモキを見下ろしている。
リックも教授の脇に立つと、腰に両手を当てて覗き込んだ。

石を盗んだことが、ばれているのか!
だとしたら、トモキさんはどうなっちゃうんだろう!
危険かもしれないから、僕を追い立てるように突き放そうとした?

タースは青年の背に声をかけた。

「リックさん、あの、トモキさんどうなるんですか」

その一言はタースが石のことを知っていると匂わせた。
リックは振り返るとタースの正面に立った。
見上げる少年をじっと見つめた。

「…彼はこの病院を出ることは出来ない。病気をね、治さなきゃいけないんだ。分かるだろう?珍しい病気だ。普通なら、かかることのない病気」

トモキの行動を言っているのか。
盗むような真似をするからだと、自業自得だと。
確かに悪いことをしている。分かっている。

でも、タースには目の前のリックより、トモキのほうが信じられた。
敬愛する親方の息子でも、それは期待とは違った。

「おや、不服そうだね。大丈夫だよ、ちゃんと彼の面倒は見るよ。病院にとっても、私たちにとっても大切な患者だ」
「…研究と、して?」
タースの声は小さくなる。トモキに聞かせたくはない。
「ああ、そういう一面もある。もちろんだ。協力してくれるよね?トモキ」
リックの遠慮ない物言いに、タースは拳を握り締めた。

やはり、想像していた人と、違う。

「ねえ、君。何か勘違いしていないかい?」
リックに、タースは厳しい視線を送っていた。
「私たちはもちろん、トモキからデータを得る。同時にトモキは病気を治してもらえるんだよ?対等な関係だ。その上彼のしたことに目をつぶろうって言うんだからね。感謝されるべきだと思うが」
「そんな研究!親方が聞いたら悲しむよ!」

リックの笑みがとまった。
「君?私の父親を知っているのかい?」
「石の研究は危険なんだよね?触れるだけで、病気になってしまうような危険なものだよね!そんなことして、親方が喜ぶわけないよ」
少年の声は廊下にまで響く。

慌ててリックはタースの肩に手を置いた。そのまま、口を塞ごうとする。
「!?」

「まあまあ、落ち着いて。石は危険なんかじゃないよ。新しいエネルギーになるんだ、大切な石だよ。それに、君、どうして父さんを知っているんだい?」
もがいて、リックの手を引き剥がす。

なんで、この人はこんなことをしているんだろう!
何を僕は、期待してきたのだろう。

「危険だよ!リックさんに何かあったら、親方もおかみさんも、悲しむよ!」
「まあまあ、落ち着きなさい」
トモキと何か話していた教授が二人の間に入った。
「トモキはしばらく入院しなきゃならないよ、手は尽くすよ。落ち着きなさい。石が危険なことは承知だ。危険だからといって科学者たるもの、あきらめるわけには行かないんだよ。分かるかなぁ?少年」
「…」
「ほら、自動車だって、事故になれば危険だ。それでも、便利だから皆が必要とする。同じことだよ。必要とされるから我等も研究するんだ。これは、人類にとって大切なことなんだ。リックの心配をしてくれるのは嬉しいがね。ほら、これ」

教授は白衣のポケットから、小さな革の袋を取り出した。
タースの手に持たせる。それは、ズシリと重く、金貨が入っていることが想像できた。

「なんですか?」
「石のことは忘れて欲しいんだよ。それは、協力してくれる君へのお礼だ」
タースは手のひらに乗る重みに唇を噛んだ。
確かに、今のトモキを救えるのはこの病院以外ないのかもしれない。
悔しいけれど、タースにはどうしようもない。

「…あの。これで、ユリハさんの手術をしてあげてください」

「コナツ…」ちいさなトモキの声が二人の研究者越しに届く。
タースは笑った。

「僕は石の事はどうでもいいんです。ただ、トモキさんを助けて欲しい。ユリハさんの手術をして欲しい。それに、リックさん、親方を悲しませないで…」
と、不意に背後から羽交い絞めにされた。

手に持つ袋は鈍い音を立てて床に沈んだ。

「な!?」
スレイドだった。黒い顎鬚がタースの耳をくすぐる。少し煙草の匂いをさせるスレイドはそっとささやく。
「話は終わりだ。来いよ、軍兵が集ってきている。そいつは、お前さんを売ったんだ、お人よしもそこまでだ」
「!?」
タースは引きずられながら、トモキを見つめた。

青年は横たわったまま背を向けた。

「おい、君!」
リックの声も無視して、スレイドは強引にタースを引きずって部屋を出た。
「放せよ!トモキさんを一人には出来ないよ!」
「おいおい、あきれるね」
「分かってたんだ、いいんだよ!」

分かってる。トモキさんは大切な人を選んだんだ。
そのために自分すら犠牲にするんだ。
見ず知らずの僕を利用したっておかしくなんかない。

そんなこと、分かってる。
騙される以外、僕には何も出来ないことも。

分かってる。

「放せよ!」

スレイドの視線が冷たく怒気をはらむ。
「こっちがよくないんだよ、お前さんが捕まっちまったら。トモキとかってのも、お前さんをわざと突き放したんだろうが。ほら、暴れるな、今度は噛み付かないでほしいなぁ…って!」

タースは再びスレイドの腕に噛み付こうとした。
慌てたスレイドに背中を押され、その腕から飛び出した。

と思った。

逆にぐんと腕を引っ張られ、反動で振り返る。
目の前に、黒い服。
黒い手袋の、拳。

タースはみぞおちを殴られ、息を詰まらせた。

「おい、あんた!」
駆けつけたリックと教授。目を丸くする二人の白衣の前で、黒尽くめの男は意識のない少年を担ぎ上げた。
その感情のない行動に二人は足を止めて黙り込んだ。


「まったく、二度も噛み付かれたんじゃたまらないって」
まるで緊張感のない口調の男に、我に返ったリックがかけ寄った。
「あ?あんた、誰だ?その少年は誰なんだ?」

スレイドはじろりと二人を睨むと、黙って歩き出す。
「おい、待て!」
「ボウヤの言うとおりですよ、リックさん。あんたの親父さんは今のあんたを見て喜ぶんですかねぇ?」
リックの足が止まった。

スレイドだけは知っていた。
タースが世話になった親方とやらを。

「じゃ」
片手を上げる黒尽くめの男を、二人は見送っていた。

トモキは手すり越しにその様子を見つめていた。
木製の手すりに手を置いて、ふとタースの心配そうな仕草を思い出す。
触れた手を抱えるように胸におくと、静かにため息をついて廊下に背を向けた。

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かいりさん

リックさん…はい、こんな人でした!
でも、この出会いが何かを生み出せたら…
うふ~。
いずれ、はい。タース君の行動は無駄にはならない予定です!
そうか…鳩尾って、痛いのね(経験なし…)
あんまり使うの止めてあげよう(←S?)

うわーん(ノД`)・゜・。

タース!!トモキさーーん!!(泣)
折角リックさんに会えたと思ったのに…><;
でもタース!ホントどこまでいい子なの!!
スレイドさん…普通に噛まれて痛そう(笑)でも鳩尾はもっと痛いよ~><;
トモキさん、どうかユリハさんに元気な姿で会えますように!
リックさんが、どうかタースとスレイドさんの言葉で考えを変えてくれますように!
続きもまた読みにきます!!

楓さん~♪

某宿直室ではお世話に…(笑)
スレイドさん、つかみどころがないですが。ええ。
行動も言葉も多彩だけど、心は一番灰色かも(黒)
タース君の危うさ!ふふ~。
何ゆえそこまで、と不思議なくらいのお人よし♪いずれ。はい。
いずれ明かしますので~!!

はぅあー!

スレイド、なんて不思議な魅力をもったやつなんだ。
時に憎たらしく、
時に頼もしく、
時に人らしい温かさを垣間見せる。
変なやつ。笑
底抜けに「いいやつ」なタース。
その人柄が多くの人々の心をつかむ半面、やっぱりスレイドやダルクみたいなのがついていないと何をしでかすかわからないって不安はありますよね。
また続き読みに来ます☆
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