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「想うものの欠片」第六話 ⑮

15

「タース?」
つないだ手に力がこもったことに、ミキーは不安そうにタースを覗き込んだ。

「公国政府にはお前が我らの手から逃げ出したと伝えてあります。大公はお前が我等と供にいることを知らない。公国政府は密かに指名手配しました。我らは政府にも秘密裏にお前を隠すつもりでした。しかし、どこから漏れたのか、ティエンザ王国にも混血の存在が知られています。ティエンザは公国政府より先にお前を捕まえるために新聞記者や街の警備兵に知らせ、賞金をかけたのです」

「お前の存在自体はそう大きなことではありません。ただ、今はティエンザがロロテス派と共謀し我が国に圧力をかけている。我が国は少しでも弱みを見せたくはない。付け入る隙を与えたくないのです。そのために、お前は逆にティエンザにとっても貴重な引き金なのでしょう。だから一万も出すのです」
「…引き金?」

「…ティエンザのライトール公国侵攻の引き金になりうるのですよ」
「戦争になるの?」
「最悪の場合は。すでに、今は工業技術にしても資金力にしてもティエンザ王国が勝っている。もちろん、兵力も然りでしょう。後は公国内の各都市のうち主要都市を味方につければ首都ライト公領など、なんとでもなります」
「シーガたちはなんで大公からも僕を隠したの?」

分からない様子の少年に、シーガは地図を広げて見せた。
ライトール公国の地図だ。国内は二十四の都市に分かれている。それぞれの都市にある聖三角の印を指差して見せた。
「国内の都市ごとに聖堂があります。小さな村や町の礼拝堂を管理している、各都市の代表ですね。これまで各都市の聖堂はミーア派が占めていました。ですから、大公はミーア派と親しい。

しかし今はロロテス派が増えている。ここも、ここもです。そうなると当然、司祭会議はロロテス派が多勢を占める。司祭会議では多数決で国を代表する大司祭を選出します。
ロロテス派の台頭が進み、大司祭がミーア派のファドナ聖女ではなくなった時、大公リュエル三世は「教会」全体を、強いては二十四都市すべてを敵に廻す可能性がある。

しかし今の段階では大公はミーア派を切り捨てることが出来ずにいます。

大公がお前を捕らえた場合、ミーア派にその事実を突きつけミーア派を一気に追い落としロロテス派に媚を売ることも可能になる。ですから、われ等は密かにお前を隠したのです」

実感はわかなかったが、自分がミーア派にとって邪魔であることはよく分かった。
大公にとって不利な材料になれば、亡き者にされる可能性も高い。


タースは握り締めた拳に乗せられたミキーの白い手を睨みつけていた。

「ロロテス派がシモエ教区にこだわった理由は、知っていたの?知っていて、明け渡したの?」

「うすうすは感づいていました。ですが、ライトール公国の大公は、教会で決めたことに口を出すことが出来なかった。これは、ミーア派の落ち度でもあります。お前の存在がなければ、われ等もそう簡単に退きはしなかったでしょう。ティエンザがシモエ教区を管理下に置くことは予測されていました。ただ、赤い石のことは計算外でした」

「僕のせい、なの?」

「だれもお前のせいになどしていませんよ。しかし、混血児がいるのではないかと疑いをかけられているものを隠そうとすればますます怪しまれる。正々堂々と受け入れるしかなかったのです。ミーア派が引き上げると同時にこれまで警備を行っていた我が国の軍は引き上げ、代わりにティエンザの軍が配備されました。ライトールは、背中に敵軍を引き入れてしまっています」

シーガは、荷物の上に無造作に置いてあった新聞を、タースの膝に置いた。
そこには、ティエンザの王とライトールのリュエル三世が握手している写真がある。
ティエンザ王国がシモエ教区管理に協力を申し出る、という平和そうな見出しが躍る。

タースは混乱していた。
自分が、疎まれる存在だとは分かっていた。
けれど隣国の戦略に利用されるなど、想像もつかなかった。
既に巻き込まれていて、そのために今、こうしている。隠れて、逃げているのだ。

「あの、シーガ。僕は、その……」
シーガも僕のことを、邪魔な存在だと思っているんだろうか。


「お前が、青い石、ルリアイのことを知っているのは私個人にとっては嬉しいことでした。大して役には立ちませんでしたが」
「……それ、慰めてるの?」
青年の表情は変わらない。
切れ長の瞳がじっとタースを見つめた。

「慰めが、必要なのですか?」
タースは目をそらした。
自分が選択してきたのだと思っていた。そのためにシーガは旅に連れ出したし、シモエ教区にも行かずに済んだ。

自分で選んだ結果だと思っていた。
彼らに再会し、強引に連れてこられたが、それでも内心は嫌じゃなかった。逃げ出したのにこれまで通り接してくれる二人が嬉しかった。やはり、できることならミキーのそばにいたかった。
一人で駅にたたずんだ寂しさは、彼らに出会う前よりずっと胸を痛くした。


ダルクが無言でタースの肩を叩いた。一つ息を吐いてタースは続けた。
「それで…この、手紙の意味は?もともとの計画は、僕をティエンザで自由にすれば、それでよかったんだろ?捕まっても平気だと思ったんだろ?」
「いいえ、お前の存在を知られる前ならどうとでもなると考えたのですが、どうやら甘かったようです。ですから、スレイドはお前をわれらの監視下に置こうとしているのです。私がお前を逃がせば、お前を闇に葬ることもすると、そう言っているのです。スレイドは、ああ見えても何でもやれますから」


「タース?」
ミキーが声をかける。
「おいおい、そんな顔するなよ」
ダルクが背をなでる。
暖かいその手も、今はタースには感じられない。

シーガもスレイドも思惑があって、そのために僕を同行させたんだ。
邪魔な僕をどう処分しようか考えていたんだ。
まだシーガの両親を探すためのほうがましな気がした。
ましって、どういう基準なのかも分からないけれど。
あの黒猫を思い出した。
そばに居てくれれば、可愛がってくれれば誰でもいい。

僕も、同じだったのかもしれない。
そばに居てくれるだけで、いつの間にかシーガたちが必要になってる。あんなに苛められるのに、僕は野良猫のように尻尾を立てて嬉しそうに擦り寄っているんだ。
今も、まるで捨てるために箱に詰められて、運ばれる仔猫。

そんな旅を楽しいとすら、感じていた自分がひどく情けない。
涙がこぼれそうになるくらい悲しいことが、余計に悔しい。
なにを、彼らに期待していたんだろう。

バカだ。

最初から人間扱いされてないのに。
今更、真実を知って悲しくなっている。本当に、僕はバカだ。

「タース?大丈夫ですの?」
ミキーが正面に回って、そっと覗き込む。
目の前に少女の柔らかそうな胸が見えた。
そのまま、抱きしめた。

抱きしめて、静かに泣いた。

「ま、そりゃ、ショックだよな、お前さんは何にも悪くないんだ」
「タース…。私はお前をレスカリアに逃がしたいと考えています」
「…なんで?」
鼻声が妙に情けない。
それでも涙をぬぐうことが出来ずにいた。

「それは…」
「誰も知らないところに追い払えば、害はないから?」

「タース、そいつは違うぜ」
ダルクが鼻息を吐き出す。

「銀聖のだんなだって、お前のために人生を壊すわけにはいかんだろ?この人にはこの人の生活があるんだ。育ててくれた聖女を裏切ることも出来ないしな、下手なことをすれば自分も追われる。それでも、お前を自由にしたいと考えているんだ。無責任だからじゃないぞ」
「!?」
「お前が、甘えたい気持ちも分かるがな。俺たちにしてやれる、精一杯なんだよ、お前をレスカリアに逃がすことが」
「…ごめん、シーガ。ダルクさん。そうだね。僕の人生なんだ…」

タースはうつむいたまま黙り込んだ。
ミキーがそっと、その肩に頭を乗せる。柔らかな耳がタースの頬をなで、慰める。
タースはミキーを抱きしめた。
ミキーも大人しくされるままになっている。

誰も、何も言わなかった。

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