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片翼のブランカ その3

<<気がつけば、ただ楽しかった幼い日々なんて、終わっていた。戻りたくても、戻れない。・・・ココちゃんのお話、第3回。>>


その日の朝、ココは教室に座ったみんなを見つめて、いつもどおり、二十五個の翼を確認
しようとした。
でも、その日は、一つ足りなくなっていた。

「おはようございます。」
ネムネ先生が、元気な挨拶とともに教室に入ってくる。
みなが、口々におはようを返す。
ココは、じっとしていられなくて、一番前まで、走っていった。
「先生、先生、今日、タトがいないよ。」
金色の大きな瞳でそう訴えるココを、ネムネ先生は笑って受け止めた。
「よく、気がついたわね、ココ。タトは、昨日、大人になりました。」
わあっと、みんなが声を上げた。
うらやましいのだ。
「タトは、お魚になったのよ。」
嬉しそうな先生と、ニコニコするみんなの顔を見て、ココは、黙って、自分の席に戻った。
タトは、このクラスで一番小さかった。なのに、一番に大人になった。
あんまり嬉しくない気分で、ココは机に顔を伏せた。
いつものように、みんなの質問と、それぞれの勉強を個別に見ながら、先生が後ろのほう
に歩いてくる。
それでも、ココはなんだか顔を上げたくなかった。
銀色の髪を優しくなでられて、ココは顔を上げた。
先生だった。
「ココ。どうしたの?どこか、痛いの?」
ココは首を横に振った。
「先生、タトは、素敵なお魚になったの?」
いつもの首をかしげる仕草。
「ええ、そうよ。とてもきれいなお魚にね。」
ネムネ先生のまあるい頬が、にこりと笑う。
「ココ、なんだか。」
息が詰まる気がした。
どういったらいいのだろう。
なんて、先生に説明したらいいのだろう。
「さびしい。」
先生の声に、ココは顔を上げた。
「減っちゃったの。タトに会えないの。」
「そうよ、だから、ココは嬉しくないのでしょう?それを、寂しいというのよ。」
「さびしい。」
「ええ。オトモダチと会えなくなった。ちょっと、このあたりが、ちくちくする。でしょ?」
ココは胸を指し示す先生に、うなずいて見せた。
「それは、さびしいという感情なの。」
伝えたいことが、とてもうまく伝わって、先生が分かってくれて、ココは目を何度もぱち
ぱちした。
「泣かなくてもいいでしょ?ココ。」
「ココ、さびしい。」
泣き出したココを、ネムネ先生は抱きしめた。
ラクが、後ろを見て黒い瞳をまん丸に見開いていた。
ネムネは驚いていた。
ブランカ。無垢子と呼ばれるこの生き物たちは、われ等守人に育てられ、必要な知識を得
て大人になる。大人とは、それこそ、このエノーリアやアースノリアの二つの世界の生き
物すべてのことを言っていた。大人になって、ブランカは鳥や魚、動物、昆虫。さまざま
なものに転生する。転生=大人になるまでの期間は、何になるかで違っていた。生物の進
化の順に単細胞生物が最も早く、ついで無脊椎動物。脊椎動物。魚、爬虫類、両生類。鳥、
四足動物。高度な生き物になればなるほど、それに達するまでの期間が長くなる。
タトは、始めから魚になると決めていた。
だから、みんなより、少し早かった。
けれど、どんな生き物になるブランカでも、誰かが大人になることでさびしいと感じた子
はいなかった。まして、涙を流すなんて。
改めて、ココを見つめる。
小柄で、臆病で。片翼の出来損ないと守人には言われている。本人も、いまだに何になる
のかを分からないでいる。それでも、こんなに、感情を持っているブランカは初めてだっ
た。
その小さな体を抱きしめながら、ネムネは不思議な感動を覚えていた。
教師としての、契約に反するのかもしれない。それでも、ココが何を感じているのかを、
ちゃんと本人が分かるように、教えてあげようと思った。知りたいといったことには、す
べて答えてあげようと覚悟していた。

 「片翼のブランカ」第一話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-51.html

 「片翼のブランカ」前回のお話はこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-53.html

片翼のブランカその3



二.

それから数回、春が過ぎ。
白い石の学校には、また、夏の暑い日ざしが注ぐようになっていた。
ブランカたちは、暑いのが苦手だった。
翼と、鬣を持っているから。
ある日、教室に出てきたココを見て、ラクが笑った。
「なあに、ココ。それ。」
ココは、暑さに弱いので、鬣をちょっとずつ、縛っていた。それは後頭部から背中の中ほ
どまで。つんつんと束ねられた鬣の柔らかい毛が、三つの小さなふさふさになって揺れて
いる。
「これ、気持ちいいよ、ラク。」
ココのその姿を気にしたのはラク一人だ。
それは、常のことだ。
先生に何か言われれば、皆笑ったり、冷やかしたりするが、普段は誰かに話しかけようと
するものなどいなかった。
そういう意味で、やっぱり、ラクは特別、とココは思う。
そんなことを思うのもやっぱり、ココだけなのだけれど。
「変な子、ココってば。」
そういって、ラクは笑った。
ココも、ラクも、生まれてから十年目を迎えようとしていた。
それは、ブランカでいられる最後の年、でもあった。
決まりがあるわけでもなく、大体十一年を迎えることなく、ブランカは大人になってしま
った。
だから、十一年目のブランカはいたことがなかった。
ココのクラスも、タトが初めて魚になって、それ以降、どんどん減っていった。
今は、ラクと、ココと、後二人いるだけだ。二人は海洋に住む哺乳類になるのだと言って
いた。
「ねえ、ココ。」
「なあに?」
相変わらず大きな金色の瞳はくるりとラクを見上げる。まだ、ラクの身長には追いついて
いない。
「もし、明日、ラクが大人になっちゃったら、ココ、どうする?」
ココの机の正面に、椅子ごと振り向いてラクは言った。
「どうって、・・。」
いつもどおり、ココは首をかしげる。
「ラクも、なんだかココより先に大人になりたくない気分なの。ネムネ先生が、言ってた
のと同じ。」
「ネムネ先生が?」
「ココが、大人になるまでそばにいられるか分からないんだって。」
ココは、きゅんとした。それは、切ないのだと、ネムネ先生が教えてくれた。
「ココは、ラクやネムネ先生と離れるのいやだ。悲しいよ。さびしいよ。」
眉をひそめて悲しげに目を細めるココを、ラクはじっと見ていた。
「不思議ね。ココ。」
ラクが、少し長い腕を、ココの肩まで伸ばしていった。
「ココが、そういう顔するの、ラクはすごく不思議な気がする。」
「ラクは、ココが先に大人になっても、平気なの?」
「大人になるのは当たり前よ。ココが何になるのかを知りたいの。」
また、首をかしげて、ココはラクを見つめた。その肩に置かれた両手をそっと、手で包む。
「あのね、ラク。ココはラクがいないとさびしい。嫌なんだ。」
「だって、大人になるのよ。そのために、ラクは生まれたの。」
ココは、立ち上がって、ラクを抱きしめた。
それでも、ココの寂しさはラクには伝わらない。
「ココ!何してるの!」
ネムネ先生が、教室に入るなり、大きな声を出した。
びっくりして、ココは抱きしめた手を離した。
ラクも不思議そうに先生を見つめる。

先生は、いつもとぜんぜん違う顔で、つかつかと一番後ろに来た。といっても、四人のク
ラスだから、ほんの数歩だ。
「ココ。だめよ。」
「なんで?何がだめ?ココ、ラクがいないとさびしいよ。」
「・・ラクはもうすぐ大人になるわ。それは、ラクも嬉しいことなのよ。ココ、さびしい
のは分かるけど、それを押し付けちゃだめよ。ラクがどう思うかを、ちゃんと考えなさい。」
ネムネは、どきどきしていた。ココには成長に伴って、たくさんのことを教えてきた。
ココだけが、人間に近い感情を持っている。それは、ココにとっていいことだが。
ココが、ラクを特別に思う気持ちが、だんだん大きくなっていくようで、見ていて不安に
駆られる。
ラクは何も分かっていない。ただ、なんとなく、ココが気になるのだ。だが、ココははっ
きりと、ラクは特別な友達として位置づけている。特別な感情は時に、制御できないもの
になる。
われ等守人のように契約によって縛らなくては、それらは危険なものになる。
「よく、わかんない。」
そういってうつむいたココの背を、軽く叩いて、ネムネは座らせた。
「おちついて、ココ。」
「・・先生も、おちついた?」
他意はなかった。ただ、その初めての言葉が面白く感じた。
だから、ココは繰り返した。
「おちついて、先生。」
そういって見上げるココに、ネムネは頬が赤くなるのを感じた。
次の瞬間、平手で、ココの頬を、叩いていた。

教室は静まり返った。
先生が、怒るなどめったにないことだった。
まして、ブランカに手を上げるなど。

ココは、何か言いたげに先生を見上げた。胸が苦しくて、なんていっていいのか分からな
くなっていた。
ラクも、どきどきが大きくなったのだろう、胸の前で両手を握り締めていた。
前の席の二人のブランカも、黒い瞳を見開いて、先生を見ていた。
「あ、あの、・・。」
先生が、何か言いかけると、空気が、ざわりと揺れた。
ネムネ先生は、慌てて、ココから後ずさると、すぐ後ろのラクの翼に、大きなお尻をぶつ
けた。先生は、青ざめて、ラクの机に手をついて、よろけるように、身を翻す。
教室から、逃げるように出て行く。
「先生!」
ココは、声を出せた。
走って、追いかけた。
何がなんだか分からなかったけれど、ココが先生に何か悪いことをしたのだと、そう思っ
た。だから、先生はココのそばから離れていったのだと。
教室の外は中庭を囲むように廊下がつながっている。
白い石で美しい曲線を施した円柱が、ところどころ中庭から廊下を隔てる。
夏のギラリとした陽光に、一瞬ココは目を回しそうになったけれど、渡り廊下の先を走り
抜ける先生の後姿を見つけて、追いかける。


「お許し下さい。私は、後悔しております。ココに、ブランカに感情を教えるなど、しな
ければよかった!」
ネムネ先生は、青い色のワンピースをゆらりと揺らしながら、濃い円柱の影の間を縫うよ
うに、よたよたと走っていた。
青白い顔で、小さな青い瞳はどこを見ているのか。
低く、ぶつぶつと唱えるように話し続ける。

「恐ろしくなったのです、あの子が、人間みたいになっていくのが。だから、つい、だか
ら、手が出てしまって、私は、契約に背いてなどいません、私は。」
そこで、先生はつんのめって、転んだ。
廊下の白い床に、ぺったりと、太った体を横たえる。

「せんせ、い。先生!」
息を切らしながら、ココは先生のそばにしゃがみこんだ。
「先生、大丈夫?痛くない?ねえ?」
柔らかい丸い肩を、揺らす。
先生は動かない。
「先生?」
再びざわりと、不快な風が頬をなでる。
一瞬、風を見つめるようにココは瞳を空に向けた。
まぶしい太陽に、目をぎゅっとつぶった。
「ココ、あなたは教室に戻りなさい。」
気づくと、ココの後ろにモリノ先生が立っていた。
「でも、ネムネ先生が。」
「いいのよ。」
モリノ先生はほそいとがったあごを右手でなでて、ため息混じりに言った。
「後は、先生に任せなさい。」
「・・はい。」
背後から、両脇を持って抱き起こされて、ココは仕方なく、立ち上がった。
教室のほうに向かいながら、振り向く。
ネムネ先生は、まだ、動かない。
ココは、どきどきした。
怖い。
後ろを振り向くのが怖くなって、両手を胸の前でぎゅっと握り締めた。
丸い中庭を囲うようにめぐる渡り廊下を、ちょうど先生のいた辺りから半分まで戻って、
教室の扉を開いた。
「ラク、あのね・・」
ラクの姿を探して、ココが踏み込んだ。
二人のブランカが、立ち尽くしていた。
「何?」
駆け寄ると、ラクが倒れていた。
「ラク!」
床にぺたんと座り込んで、ココはラクの銀の髪をなでた。
動かない。
力なく、たらんとなっている腕を握ってみた。
冷たかった。
息が苦しくなった。
ラク、ラク?
「ねえ、おきて、ラク。」
ごうっと、少し熱いくらいの風が吹いて。
ココの肩に誰かが手を置いた。
見上げると、知らない守人だった。その人は、黒い髪を短くして、穏やかに微笑んでいた。
黒い長い服を着ていて、翼がないから守人だろうと思った。
「ココ、ラクは大人になったんだよ。」
そういって、その人はラクのそばにひざをついた。
どこから出したのか、手には透明な丸い石を持っている。小さい、とても小さいそれを、
そっと、ラクの口元に入れる。
「何?」
「・・。転生。」
そういって、その守人は、立ち上がった。
大きな人だ。ココは見上げた。
不意に、ラクの体が光った。
「ラク?」
近寄ろうとするココを、その守人が止めた。
「放して!ラク、ラク!」
真っ白に光ったかと思うと、ラクの体は金色の小さな光の粒になって、一瞬ふわっと広が
った。次の瞬間に、消える。
何も、残らなかった。
「ラク。」
涙が、頬を伝った。
力なく座り込むココを、守人はじっと見つめていた。
「ココ、お前は、どんな大人になるのだ・・。」
「まだ、まだ、わからないの。」
両手で目を押さえて、首を横にふる。
ラクがいない、いなくなっちゃった!
先生も、先生も。
これが大人になるって言うことなの?
怖い。ラクの体の冷たい感触が、手のひらをじわりと這う。
ぎゅっと拳を握り締める。少し震える。
怖い。
守人の、大きな手が肩を抱いても、ココは泣き続けていた。
さびしい、悲しい。怖い。
ラクに会いたい、ラクは特別。ラクは・・。
ココは抱き上げられたことにも気づかずに、泣き続けていた。

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 「片翼のブランカ」続きはこちら
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きになって1話だけ~っておもって読みました!!
う~続きよみたい~でももう家出なきゃ~><
時間できたら絶対絶対よみにきますから!!

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