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最後のプレゼント:前編

「なんと、らんららが童話を書きました…
子どもの頃、読んでもらった物語。
毎晩、楽しみにしていました。

そんなわくわくがお届けできたら♪

短編ですが、記事としては長いので前編と後編に分けてみました。
さらっと読めると思います♪  by らんらら」


『最後のプレゼント』



大好きだって、告白するの。
マトリンはそう心に決めてちらりと相手を見つめます。

窓からの昼下がりの光の中、金色の髪がきらきらして。
その横顔。優しい口もと、長いまつげ。
胸がとくとくして。
息苦しくて。

手に持つ本で、顔を隠します。


マトリンはトマトの嫌いな女の子。今年、十歳になります。
トマトは嫌いだけれど12月は大好きです。大好きなクリス兄さんがクリスマス休暇で帰って来るからです。
隣に住んでいた従兄弟のクリス兄さんは大学生になって遠い街に行ってしまいました。小さい頃から遊んでくれた優しいお兄さんが遠くに行ってしまった日には、マトリンはこっそりたくさん泣きました。

久しぶりに会ったマトリンの大好きなクリス兄さんは、随分大人っぽくなっていました。自分で買ったという赤い小さな車から降りたとき、マトリンに手を振ってくれました。着ていた白いコートが風にふわりと揺れました。
マトリンが密かにその大きな背中や、逞しい手に胸をときめかせたことをクリス兄さんは知りません。かけよって抱きしめたかったのに、恥ずかしくて出来なかったことも。


「マトリン、マトリン」
ママの呼ぶ声。
「ママが呼んでいるよ?いいのかい?」
「どうせお手伝いしなさいって言うの。だからいいの」

マトリンはクリス兄さんのお部屋の大きなベッドにごろんと横になって、たくさんあるクリス兄さんの本からお気に入りの物語を引っ張り出して読んでいました。
階下ではマトリンのママと、そのお姉さんのクリスのママが、クリスマスの準備のためにジンジャークッキーを焼いています。香ばしいバターの焼ける匂いにマトリンは長い金色の髪をシーツに泳がせて何度も寝返りを打っています。
そろそろ、三時のお茶の時間。

マトリンはイスに座って本を読んでいるクリスに、ふと思い出したように言いました。
いえ、本当はずっと言いたかったのだけれど、どきどきしてしまうので、なるべくそれを顔に出さないようにとタイミングを計っていました。
ゴロゴロしたのもクッキーの香りのせいじゃなくて、早く言わなくちゃとあせっていたのです。だって、クリスマスの夜はどんどん近づいてきます。

けれど、静かな横顔のクリスは気付かない様子で、真剣に何かを読んでいました。
「あのね。クリス兄さん」
クリスが本から顔を上げました。

その緑の瞳に見つめられてドキドキするのは何もマトリンだけではありません。だって、ママでさえステキな青年になったわねと頬を染めていたくらいなのです。
「クリスマスの夜、一緒に踊ってね」
言いました、ついにマトリンは言いました。いえ、目標はもう少し高かったのだけど、今はまだそれが精一杯。
例年、クリスマスはマトリンの家に伯母さんや伯父さん、少し離れた町に住むお祖母ちゃんとたくさんの従兄弟が集るのです。リビングのソファーやクッションは取り払われて中央にクリスマスツリー。すでに準備は整っています。毎年必ず誰かがダンスを始めて、マトリンも小さな頃から伯父さんのリードでくるくる回って喝采を受けたものです。親戚の中で一番年下のマトリンは家族のお姫さま。
ここ数年は少し恥ずかしくて踊っていなかったけれど、今年はクリスがいるのです。
新しく作ってもらったフワフワしたワンピースを着ると心に決めています。
そして。
一緒に踊って、マトリンの手を引いてくれるのはもちろんクリス兄さん。他には考えられません。

けれど。次にクリスが言った言葉にマトリンはひどく落胆しました。
「ごめんね。マトリン。僕はクリスマスの三日前からバイトで忙しくてね。二十六日に帰ってくるんだ。だから、今年はパーティーにも出られないんだよ」
優しく笑って立ち上がると、ベッドに起き上がっていたマトリンの頭をなでてくれました。
マトリンがよほど悲しい顔をしていたのでしょう、大きな手で抱きしめてくれました。

「よしよし」
「やだ!私子供じゃないわ!」

マトリンは熱くなった頬を押さえて、クリスを見上げました。
「アルバイトなんて必要ないのに」
八つ当たりのマトリンに、やっぱり子供だとくすりと笑って、青年はクローゼットから何かを引っ張り出しました。
それは、真っ白いフワフワした毛皮のついた、真っ赤な。そう。
この季節にあちこちで見る。サンタクロースの衣装でした。

「ほら、これを着てお仕事なんだよ。マトリンは兄妹や従兄弟の中で一番末っ子だから、サンタクロースのこと好きだろう?だから打ち明けたんだよ」
「ケーキ屋さんの呼び込みなの?それとも、デパートのビラ配り?」

マトリンは口を尖らせたまま両腕を組んで胸をそらせます。マトリンが喜んでくれると思ったのでしょう、クリスは少し残念そうな顔をしました。

マトリンはそれどころではありません。
せっかく勇気を振り絞って、ダンスの申し込みをしたのに。

「私、クリス兄さんがそんな格好になるのは嫌だわ」
「大切な仕事なんだよ。子供たちにプレゼントを配るんだ」
「分かった!教会のボランティアね!?優しいクリス兄さんらしいけれど、家族を犠牲にしてまですることじゃないと思うの!せっかく、久しぶりに帰ってきたのに!会えなくてとっても寂しかったのに」
「寂しかった?」
そこでマトリンは慌てて口を押さえました。

くくく、とクリスは響く声で笑います。
「マトリン、僕はお仕事でサンタクロースになるんだよ」

そんなの分かってるわよと頬を膨らめるマトリンに、クリスは笑いながら続けます。
「ほら、サンタクロースは世界に一人きりって言うわけじゃないだろ?僕はこのあたりを任されたんだ。三年間ずっと、サンタクロースになりたいって申請してやっとなれたんだよ」
「そんなにステキなお仕事なの?クリスマスパーティーを諦めて?皆、来るのよ?クリスにだってたくさんのプレゼントが届くのに」
「大切なお仕事だからね。ほら、似合うだろ?」
そういってクリスは髭を顔に当てて見せました。優しい瞳とすんなりした顎にそれはなぜか似合っていました。

ひげの下の笑顔にマトリンはまたドキドキして、じっと見詰めていられなくなってしまいました。
「じゃあ、サンタさん、マトリンにもプレゼントくれるの?」
「そうだよ、マトリンの寝ている隙にそっと入ってきて」
マトリンはドキドキがひどくなって胸を両手で押さえました。
大好きなクリス兄さんがたとえサンタのお仕事のためだといっても、そんな風に会いに来てくれるのはとても嬉しい。

「わかったわ!私、イヴの日は、絶対に寝ないで待ってる」

あははは。

クリスは笑いました。
「それじゃ、サンタクロースが困るじゃないか」
クリスがいたずらに白い髭をマトリンのほっぺたに当てました。
それはくすぐったくて、少し甘い蜜の香りがしました。


クリスマスの二十四日。本当にクリスはお出かけしたままで。
そのためにマトリンは誰に誘われても踊ろうとしませんでした。せっかくステキなワンピースなのに。今日はお気に入りのブルーのリボンで決めたのに。
壁際においた自分のイスに腰掛けて、みんなの様子を眺めていました。
でも夜中には。
きっと、クリス兄さんが来てくれる。

そうだ、せっかくおめかししたんだから、このまま待っていようかな。

「マトリン、可愛いドレスだね、一緒に踊ろうよ」
マトリンの三つ上の従兄弟のトーマスがマトリンの手を取って引っ張ります。
「いいの、私、今日は踊らないの。階段で足をひねって少し痛いから」
「なんだ、そうか。じゃあ、チキンを取ってきてあげるね」
優しいトーマスを見送って、マトリンは次に近寄ってきた伯父さんに笑いかけます。
「おや、マトリン。今日はやけに大人しいじゃないか。そうしているとお母さんにそっくりだね」
「やめてよ、伯父さん、ママには似たくないの」
ははは。おじさんは赤くなった顔いっぱいに笑顔になって笑いました。
「ほら、そういう言い方も、そっくりなんだ」
マトリンは大いに気分が悪くなって、ぷくっと頬を膨らめました。
おじさんはそれを見て余計に楽しそうで、手に持っていたシャンパンのグラスが空になると五杯目を飲もうとテーブルに戻っていきました。

ママは大嫌い。
マトリンはイスの上で膝を抱えました。

だって、パパを連れて来てくれない。

マトリンのママとパパは離婚して、今は離れ離れで暮らしています。
パパに会いたいのに、ママの許可がないと会いに来られないのです。

私は会いたいのに。パパも私に会いたがっているのに。
それをママが決めるのはおかしいわ。

マトリンにはそれが納得できないのでした。


その夜。
階下ではまだ大人たちが楽しそうに笑っているけれど、マトリンは一番小さいこともあって、二階の自分のお部屋へと上がっていきました。
いつものクリスマスなら、一人先に寝るのはつまらないといって駄々をこねるマトリンですが、今日は違います。
「あらあら、珍しくいい子なのね。いい子にはきっと、サンタさんが素敵なものをプレゼントしてくれるわよ」
ママのこの言葉はマトリンを満足させました。そう、クリスのサンタクロースが来てくれるのです。プレゼントよりそれが嬉しいのです。

そうよ、そのために。クリスに会うために早くベッドに入るんだから。


そうして、マトリンはいつクリスが来てもいいように、ふわふわのワンピースのまま、ベッドにもぐりこんで部屋の明かりを消しました。空はお月様が出ていて、窓からさす灯りは、青く白く、床を照らし出しています。
マトリンはじっと目をつぶっていました。
トーマスが母親鳥のようにたくさんの食べ物を運んでくれたので、マトリンはお腹がいっぱいで、気をつけないと本当に眠ってしまいそうです。
ふっと頭が真っ白になりかかるたびに、だめだめ、と小さく頭を振りました。

何度目か、そんな風にしたときです。
カタンと音がしました。

クリスかな。
マトリンはそっと布団の中の手を握り締めました。
ドキドキして、この音がクリスに聞こえちゃうんじゃないかと本気で心配していました。

がたん、がさがさ。
誰かが。窓から入ってきました。

暖炉がないから、窓なんだな。危ないお仕事だな。

そんな風に思ったとき、ふわりと夜の風と一緒に甘い香り、そう、あの白い髭の香りがしたのです。

クリスだわ!

そこで、マトリンは目を開けました。


後編へ続く…
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