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「想うものの欠片」第七話③



ティエンザの高地にある首都、エンザは早くも夏の終わりを迎えようとしていた。

例年であれば木々にはまだ濃い緑の葉が繁り、日差しは強い。日中は暖かく、夕闇に沈む頃には急激に気温が下がる。
内陸に位置し、遠く南に海を見下ろすその街はこれから迎える秋が最も美しいとされる。
しかし、この年は違っていた。

街路樹の広葉樹はすでに半分葉を落とし、季節はずれの冷たい突風とここ数日続いた豪雨にくたびれた印象を与えた。
建物は湿り気を帯び、豪雨に流された枯葉が通りの隅にたまっている。

地震にはまだ見舞われていないが、被災地から働き口を探してこの街に流れてくる者も多い。トラムの駅は立派な大理石の駅舎を持っているが、その周辺にたむろする人々は一様に疲れ、暗い表情をしていた。

石段に座り込む家族連れ、公園で寝泊りしている若者。早朝ともなると、各地の工事現場での仕事を得ようと、公園前の掲示板に大勢が群がる。
貧しい姿の彼らを詰め込んだ業者の荷馬車が数台走り去ると、公園は静まり返る。

そして、商店が軒のテントを上げ、窓を拭く頃にはトラムの汽笛が景気のいい音を響かせる。エンザにある会社や工場、商店に勤める人々が駅から吐き出される午前九時には、街のかげりは消えうせる。華やかな首都が目を覚ます。


早朝から、宿で街の風景を眺めていたタースは、駅前の商店が開くのを待って新聞を買いに出かけた。
戻ってくると、いつの間に起きたのか、ミキーはすっかり着替え終わっていた。
少しだけ残念な気分でタースは少女の手に新聞を渡した。

「おはよ、ミキー、起きたの?」
「はい。タースの寝顔見ましたの♪」
「え、そう?」
先にミキーが寝てしまったことを思い出して、タースは首をかしげる。

起きたのもタースが一番だった。ここ数日の習慣で、頼まれなくてもタースは新聞を買いに出かけていたのだ。ついでに朝食の準備を宿の主人に頼んできた。

「お前のいびきが煩かったので目が覚めましたよ。二人でお前の鼻と口を塞いでいました」
「ええ!?」
「むにゃむにゃして、可愛かったです~」
「普通に起こせばいいじゃないか!」
「それでも起きませんでした。よほど楽しい夢でも見たんでしょうね」
「ですの」
タースは真っ赤になっていた。夢にはミキーが登場していた。


タースはここに来て初めて、三人一緒の部屋に泊まったのだ。
遠慮しようとするタースに、シーガが理由を追及しようとしたので仕方なく従った。いや、実際には嬉しいのだが。

ミキーの寝顔を見てニヤニヤする少年に、案の定シーガは冷たい視線と言葉を見舞った。
だから、なるべく顔に出ないようにと我慢していたのに。

「まったく、人が悪いよシーガ!男なんだから分かってくれなくちゃさぁ!」
「何をですか?」
「な、…その。もう、いいよ!まったく、ついてないよ!新聞は三倍の値段だし、朝食はパンしかないし!」
「ああ、頼んできてくれましたか。私はパンでいいですよ?」
「僕はパンだとお腹すくから」
照れたように視線を落とす。

「…最近、よく食べますね。以前はそうでもなかったのに」
「分からないけど、お腹すくんだ」
「…タース、お前、顎に何か付いてますよ」
「あ」
タースは口元を両手で覆った。

「なんでもないよ」
隠そうとするタースに、シーガは気付いた。
「…髭、ですか?」
「ち、ちが」
「髭なら剃刀を使いますか?」
「…わない」
「使わない?」
「あ、違う、貸して!」
「タースおひげですの?!」

見せて、見せてとすがりつく少女にタースは顔を真っ赤にして照れる。
じゃれ付いている二人を眺めて、シーガはタースの買ってきた新聞を手に取った。


「タース、これが三倍になったといっていましたね」

洗面所で初めての髭剃りに挑戦している少年と、はしゃぐ少女は返事をしない。
ふん、とため息をついて、シーガはイスに座って新聞を開いた。

昨日までの大雨で、いくつかの村に被害が出たらしい。米の不作と異常気象。新聞にはそういった文字が大きく書かれていた。

そういえば、タースが朝食にライスがないといっていた。
宿泊代もサンルーの二倍はしていた。

「物価が上がっていますね…災害が続いていますし…仕方ないのかもしれませんが」

青年の生真面目な言葉に答えるのはミキーのはしゃぐ笑い声。あー、と剃刀負けをしたタースの悔しそうなため息だった。

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