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「想うものの欠片」第七話⑤



「ったく、乱暴だな」

タースは先ほどシーガに殴られた頭をさすっている。

静まり返った博物館は、展示期間が終わって切り替え作業中で正面玄関は閉められていた。
通用口から入ってみたものの、人の気配がない。
事務室の前で、カーテンに閉ざされた受付を覗き込みながら、タースは三回目の声をかけた。

「あの~。こんにちは!誰かいませんか?」
また声だけが暗闇にむなしく響く。

「気味が悪いですの」
ミキーは二つに縛った髪を両手で押さえて、耳を塞いでいる。
シーガはますます不機嫌な顔で、黙り込んでいた。

タースは事務室に誰もいないとあきらめて、そのまま館内を進もうとした。
天井の高いエントランスの正面に階段がある。左右に広がる廊下の先には柱ごとに台座がしつらえてあり、彫刻や何かのミイラ、昔の衣装などが展示されている。しかし、そこから見える範囲ではその廊下の先には何もない。

「ね、ここにはいないよ。どこか、館内に人はいるはずなんだ。鍵は開いていたんだから」
勝手に階段を上りだす少年に、シーガが声をかけた。
「タース!」
「大丈夫だよ」
「違います、人の気配は地下室です」

立ち止まって、タースはため息を一つ吐く。

「わかってるなら、早めに言って欲しいよね」
上りかけた階段を身軽に駆け下り、シーガが見つめる地下への階段へと進む。館内は照明が落とされている。階段の脇の小さな扉を押し開くと、その先が地下へ続く。
階段は狭く、暗い。足音が異様に響く。

一瞬、立ち止まって、タースは背後の二人を振り返った。
ミキーは両手を胸の前で組んでにっこり笑う。シーガはいつもどおり無表情。

「あのさ。いいけど、なんで僕が先頭なのかな。あんたのほうが音とかユルギアとかよく分かるんだろ?」
「…今見えるユルギア全てを語ってもどうなるものでもありませんよ」
「…いいよ、もう」
「ですの」
「って、ミキー、見えてないの僕だけ?」
少女に可愛く微笑み返されて、タースはがっくり肩を落とした。

「いいよ、いいよ。見えないほうがいいこともあるよ。うん、じゃ、地下には人がいるんだよね?ユルギアじゃなくて」
「ユルギアもいます」

「…人がいればいいよ、それで」

タースはあきらめて、先頭に立って階段を降りる。
湿った重い空気。
石のむき出しの壁は、削ったあとがそのまま残るような古いものだ。所々、ひび割れたり、水の流れたような跡がある。
ぞく、となんともいえない気分が背を這う。

「ユルギアは怖くないんだよな、でも、こういうの、なんか薄気味悪い」


一人でぶつぶつと文句を言いながら、それでも時折立ち止まっては後方の二人を確認して降りていく。

階段を降りきった廊下にはランプが灯されていた。
鉄の扉。その隙間からも明かりが漏れている。
その部屋に人がいるのだろう。
タースは隙間からのぞきながら、扉をノックしてみた。
「誰だ!」
人の影でタースがのぞいていた先が真っ暗になる。一歩下がったところで、ぎぎ、と扉がさらに開いて、青年が顔を出した。

危うく押された扉が鼻先をかすめ、タースはぎょっとしたが、向こうも目の前にいたこちらに驚いたようだ。三人を見て立ち尽くした。いや、ミキーに見とれたのだ。
「あ、あの!」
タースは開きかけた扉をぐんと引いた。

「なんだい、君たちは!勝手に入ってもらっちゃ困るな!誰の許可を得ているんだい、警備兵を呼ぶよ?」
「あ、ええと」
タースは困って背後のシーガを振り向いた。

「館長からの依頼で来ています」
シーガは何か文書を取り出して、青年にかざして見せた。
青年は目を丸くして、視線をそらした。
「ああ、その件」

タースは青年が作業中だったらしい室内をちらちらのぞきながら、話した。
「あの、ユルギアが出るって言うから、話を聞きにきたんだ。この人はシーガ。ユルギアを退治できるんだよ」

一般的にユルギアは悪いものとされる。シーガの行動の目的が「退治」だけでもないことをタースは知っているが、あえて相手に合わせてみた。

青年は手に持っていた麻ヒモを木箱の上に置くと、改めて三人を見つめた。
「案内します」

その一言だけ言うと、部屋の奥へと進む。
タースも、シーガも後を追った。


室内は地下室の割りに、乾燥した心地よい空気で、換気が行き届いている。
いくつもの木箱が並んで、それらが大切に保管されているものなのだと分かる。一つ一つ、中身の確認や管理の帳簿が付いていたからだ。船便やトラムの貨物にするのだろう、箱には都市の名前が大きな文字で書かれていた。
「これ、展示品なの?」
タースの問いに、青年はああ、と言っただけだ。随分無愛想だ。

「いろいろあるですの」
ミキーは昔の貴族の衣装を見つけて、そちらに視線を奪われながら前を歩くタースと手をつないでいる。きょろきょろと見回しているタースも、つい、遅れがちになり、気付けばシーガが一番先頭になっていた。
青年が案内した部屋は、そこからさらに奥の、頑丈な回転式の鍵のついた収蔵庫だった。
「ここです。入り口が狭いから、一人ずつ、どうぞ」
青年に言われ、一瞬タースとシーガは目を合わせた。

「どうぞ」

タースが手を差し出して先を譲るとにやっと笑う。
シーガがその少し小さめの扉をくぐった。

と、不意に青年がシーガの背をドンと突き飛ばした。
「!?」
「な!?」
タースが青年の腕を取った時には、すでに重い扉が閉まったところだった。

「!?なにするんだよ!開けろよ!」

青年は扉の脇にあるダイヤル式の鍵をぐるりと回した。
「触るな!私しか、この番号は知らないんだ!」



「なんで?」
青年の胸倉をつかんでいた手を引き剥がされ、タースは顔をしかめた。
「どうして、閉じ込めるんだよ!」
「ひどいですの!シーガ様!!シーガさまぁ!」

「静かにしろ」

小柄な青年は二人を睨んだ。
分厚い扉の向こう、シーガの声は聞こえない。
「いいか、お前たちの探しているユルギアはいなかった。そんなもの、いない。夜中の鳴き声なんか、近所の野良猫だ。いいか、そう館長に言うんだ」
「どうして」
「理由なんかどうでもいいだろ!あんたたちは前金で金をもらっているはずだ。そう館長に言ってくれれば、すぐに開けてやる。そして、二度とここには来るな」

館長に。
タースは青年を睨んだ。
館長はガネル。直接会うのは、さすがにまずい気がする。

「早くしないと、知らないぞ!この中は機密性が高い。換気もないしね。一時間もすれば空気がなくなって、息ができなくなる」
ミキーが口元を両手で覆った。

タースは青年の胸元をつかんだ。その勢いに青年は一瞬怯えた顔をしたが、タースが開けろといっても首を横に振るばかりだった。

「君が私を殴ったって、私は絶対にあけてやらないぞ。こうしている間にどんどん酸素はなくなるんだ」
タースは青年の上着を放した。


ガネルに会う。
もし捕まったら。ううん、捕まるわけにはいかない。
シーガにも、ライトール公国にも迷惑がかかる。

ぎゅ、と唇を結んだ少年の気持ちなど知るはずもなく、青年は上着をはたいてメガネをかけなおした。
「苦しいだろうね、息が出来なくなるんだ」
「…分かったよ。その館長は、どこにいるんだ」

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松果さん♪

そうそう、こいつ。ろくなことしません!

松果さん~♪あのね、あのね。
イラスト、下絵が出来たのでアップしますね♪
あのイメージでよければ、仕上げますよ~♪

おいーっ!

こらこら青年、いきなりなんつーことを。
シーガを閉じ込めてどうする、ユルギアを退治されたくないってこと?
加えてタース君も危機の予感…
あーやっぱり七話も一気読みしたくなる~。

史間さん♪

ありがとうです!地下室~♪
じめじめして暗くて。
怪しげで。はい♪
(げも、ゲームのダンジョンは苦手。大変だもん…)
さて。館長さんとの対面ですね~。
ふふ、楽しみにしてくださいね♪

ああ、どきどきです><

地下室大好きです(そこ!?)
いいですよね、大聖堂のカンタコンベとか~(あ。かいり様宅の二次小説で使ったぞ)
どっかにつながってれば最高ですよね~

……あ、現実に戻ろう。
さっそく退治を阻まれているじゃないですか。三人組。
そして図らずも館長との対面!
タース危ないかも><……かもじゃねぇ!!
ああ、どきどきします。
また続きを読みにきます!!
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