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「想うものの欠片」第七話⑥



大声など、出すはずもない。

助けを求めるような、性格ではない。

シーガは数回扉を叩いてみたが、反応がないことに手を止めた。
あの青年が閉じ込めたのだ。何がしかの条件を満たさなくては開けてもらえるはずもないだろう。中で騒いでも無駄。


改めて、周りを見回した。
真っ暗。
だが、シーガにはさまざまなものが見えていた。

一つのユルギアが青年の肩に擦り寄る。
「うっとうしいですね」

全てを消し去ることも出来る。
今、彼を囲うユルギア。いくつもの、過去の人々の思念。
むやみに消さないのはユルギアたちの語る過去に、多少の興味もあるからだ。
見え、聞こえるには意味がある。

うっとうしいからといって耳を塞ぎ、見えるそれらを消し去ってしまっては、自分の持つ力の意義を見出せない。


「おや、あなたは」

シーガは暗がりの中、かろうじて人型を取りかけたユルギアに気付いた。
その女性はふわりとありもしないドレスの裾を揺らして漂うように青年に近づく。
美しい女性だ。眉をひそめる影に長いまつげを見たような気になる。
女性はじっとシーガを見つめる。

「なるほど。あなたですか、毎晩嘆いていたのは」
シーガの目が細くなる。冷たい表情が一変してやわらかに変わるのをそのユルギアも感じ取ったかのように華奢な首を凛と伸ばし白い手を青年のほうに伸ばした。その気高い様子に、高貴なものだと分かる。

シーガは手を取ると昔の挨拶として膝を折りその甲に口付けた。
そのまま女性は座り込み、シーガに抱きつくように覆いかぶさる。
耳元に囁かれる言葉にシーガはじっと聞き入った。


博物館の通用口から外に出ると、タースは改めて見回した。
ほっとするような陽光のもと、同じ敷地内に大きな聖堂らしきものが見える。
「あっちですの」
「うん、あの聖堂にいるんだって言ってたね」

敷地内の整えられたレンガ敷きの歩道を二人は駆け出す。

公園のようになっているそこには歩道に沿って綺麗な花や低木が植えられ、散歩中の親子連れが花を眺めていた。
聖堂の前の広場には小さな噴水があり、大勢の人がそこに祈りをささげながらコインを投げ入れている。噴水を支える女神像が何か意味があるのだ。女性が圧倒的に多い。

大理石の階段を、ゆっくり上る人々をかき分けるようにタースたちは駆け上る。
黒いスッキリしたラインのコートはタースの腿まであり、その下のズボンは上質なツイード。かすかにチェックの柄が見える。黒い帽子に緋色のリボン。ミキーは同じ緋色のスカートが黒いレースに重ねられ、走る度に白い足がのぞく。
階段の下から大勢の視線を集めながら、二人は開かれている聖堂の中央の扉から中へと入っていった。

途中、聖職者だろう、袖の長い白い服を着た男性が二人を呼び止めた。
「こら、ここで走ってはいけません」
「あ、ええと、すみません」
「博物館の館長さんに会いたいですの」
「急いでるんです!」
「館長さんは何処ですの?」
息を弾ませたまま主張する二人に、男性は困ったように目を細めた。
「大司祭様は裏庭で植物の世話をしていらっしゃるが…」

「ありがとう!」
また駆け出す二人。
「あ、これ!」

男性の言葉も届かず、タースたちは聖堂の裏へと続く扉を駆け抜ける。

「タース、タース!」
「なあに、ミキー」
「あの、あのっ、館長さんになんて言うですの?」
「あ」

タースは突然立ち止まる。
回廊の途中。ミキーは二メートル先で止まって、タースを待つ。
「あの人の言うとおりにしないとまずいと思う。わかんないけど、他に開けてくれる人とか、信用できる人とかいないし」
館長がガネルなのだ、頼るわけにも行かない。

「開けてもらえないと、困るです」
「うん、…だいたい、何であんなこと?ユルギアはいなかったって?…退治させたくないのかな」
歩きながら、思案する。
シーガが言っていた。毎晩泣き声を響かせるユルギアを調査するのだと。
それをそのままにしたい青年の理由。

シーガを人質にとってまで。

「そのユルギアを護るためだとしても、短絡的だよね…とっさにやったことなんだろうけど。シーガが開放された時に訴えたらわかる事なのに」
「ユルギアはたくさんいたですの」
「彼にとって特別なんだよ、その泣くユルギアが。きっと…」
タースは彼にとって特別なユルギアを見つめた。

特別な少女、ミキーは首をかしげて可愛く笑う。

「あの人の気持ち、分からないわけじゃ、ないけどさ」
シーガに話せば、消さずに済ませてくれるかもしれない。冷酷だけど、その方がいいと思えばきっと。

タースはツクスさんを思い出していた。
消すことがすべてじゃない、いなくなれば解決するわけじゃない。
そこにいるにはユルギアだって意味があるんだ。
やっぱり、戻って青年を説得しようか。タースがきびすを返しかけた。


「君たち、こんなところで何をしているのかな」

回廊の脇から、背の低い老人が片手に草の入った籠を持って入ってきた。一段高くなっている回廊の石段を静かに昇ってこちらを見つめた。

「あ、あの。博物館の館長さんを探していて」
「ああ、それならわしだが」

老人は白い髪を短くしていて、丸い黒い帽子をかぶっている。衣装も黒いすその長いもので、肩には銀の刺繍が入った肩掛けが小さく揺れる。
細い瞳とふさふさした眉毛。日差しに影を造る眼差しの下で穏やかに笑う。

これが、大司祭ガネル。

ロロテス派の大司祭、ガネル。その本人が目の前にいる。
思っていたよりずっと穏やかそうで優しそうな老人。想像していた人物像と随分違っていた。

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