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「想うものの欠片」第七話⑧



闇にランプの灯りが広がるにつれ、柔らかな白い靄が逃げるように消えていく。

ユルギアだ!

タースは眉間が引き締まるのを感じた。

「シーガ!」
従者の照らすランプの明かりを背に、タースが中に飛び込んだ。
頑丈な棚が並ぶなか、青年は座り込んで木箱の一つにもたれかかっていた。
「シーガさま!」
タースが背を揺すると、少しうなって、頭を振った。
従者が助け起こそうとするのを制して、タースはシーガを抱き起こした。

「僕が運ぶよ」
「シーガさまぁ」

天井の低い収蔵庫から半分引きずるようにして出ると、タースはもう一度青年を抱き上げた。
身長はシーガの方が高いのに、少年は平気な顔をして抱え上げる。

「すごいですの!!タース」
ミキーがなぜか嬉しそうに両手を胸の前で組む。

シーガは何かぶつぶつ言っているが、意識がはっきりしていないようだ。
タースは無視して従者の後について上階へとシーガを運んだ。
館長が見送っている青年をみつめ、声をかけた。

「ミムウト、体調を崩された客人のために、コーヒーでも入れてくれないかね。話はその後でもいい」
青年は視線を落とし、広げていた書類をしまうと館長たちの後を追った。



「シーガ?」

豪華な大理石の透かし彫りの天使が、シーガに微笑む。

天井を這うように描かれる植物の文様。古いものに彩色したのだろう、趣味が悪い。コレで博物館なのだから、始末に終えない。
さぞかし、あのキュレーターの青年は心労が耐えないことだろう。
そんなことが頭の中をよぎる。

「気がついた?気分はどう?」
「ですの?」
二人に見下ろされ、シーガは数回瞬いた。

起き上がると、そこは大きなソファーとテーブルのある客間だった。金の衝立の向こうには、黒檀の大きな机と書棚。館長室だろう。
裸体をくねらせる趣味の悪い女神の銅像がその脇に置かれている。

視線を銅像からイスに座る大司祭、そして従者、目の前に差し出されたコーヒーカップへと移す。
心配そうに見つめるタースに少し目を細め、カップを受け取った。
黙って口に運び、息を深くつくと改めて回りの人間を見つめた。

「よかったですの」
ミキーはシーガの荷物とコートをまとめて抱え、ぴったりとくっついて隣に座っている。タースは脇に立っていた。
「よかった、ユルギアどころじゃなかった。館長さんが助けてくれたんだ」
シーガは目を細め、カップをテーブルに置くと立ち上がった。
目の前に立つ老人に深く頭を下げた。

「ありがとうございます、大司祭さまご本人に、このようなお手数をおかけしまして」
「やっと会えましたな、銀聖シーガ。あなたに会いたくて、わざわざ些細なことでお呼びしたが。このような時勢となった今、まさか本当に来てくださるとは」
シーガはかすかに眉をひそめた。
「あの」
口を開きかけたタースを、シーガは無言で睨んで黙らせた。
余計なことを言うなということか。

タースはガネルが言っていた言葉を思い出していた。
ユルギアなど信じていない。ただ、シーガを呼び出すために、依頼した。
そういうことだ。
何かの罠かもしれない。

それでも、仮にも教会の大司祭。ここでシーガを捕らえるような横暴な真似はしないだろうとタースは思う。思うが、どうにも何か嫌な予感がする。


「こんな時勢、とは。どういうことでしょう。何かご都合の悪いことでも」
シーガの静かな問いに、ガネルは笑った。
「いいえ、たいしたことではありません」

「…そうですか。あの青年はいったいどうして私を閉じ込めたのですか」
「あ、それは」
タースはシーガのためにコーヒーを入れてくれた青年について話した。

「あの人、貴婦人のユルギアにほれ込んじゃって。シーガに退治されたくなかったんだってさ。僕の予想通りだ」
シーガはあきれたように肩を落とした。

「誰かじゃあるまいし。彼はどうしています?」

タースはムッとして僕のこと?と視線をミキーに移す。少女はにっこりと笑い返す。

「事務室で大人しくしていますが」
館長の従者が応えるとシーガは大司祭に視線を移す。
ガネルは傍観を決め込んだようで、自分の机の前、黒い革張りの大きな椅子に座っていた。

「大司祭さま、まずは、ご依頼の仕事の報告をいたします。すみません、あの青年を呼んで下さい」
シーガの言葉に従者は先ほどの青年を呼んだ。
ガネルの従者が客用のソファーの一角を指し示し、青年はそこに居心地悪そうに浅く腰掛けた。

「あなたの見ていたユルギア。彼女はレスカリアの初代皇帝の第三皇妃ですね」

青年は目を見開いて、それから黙って頷いた。それから口を開いた。
「彼女は展示品のレスカリアの衣装についてきたんです。展示が始まると毎晩泣いていて。当時の皇帝は冷酷でした。自分の地位を脅かすものをすべて排除した。彼女の息子も賢いが故に殺されたという。それを、嘆いているのだと思います」

シーガはふと笑った。珍しい笑みだ。
「違うのです。確かにレスカリア帝国を建国した皇帝は、不死をうたって自分を唯一絶対、永遠の神と称していた。シデイラを虐げたのも事実。ですが、あの第三皇妃のご子息は生き延び、後に皇帝となっている」

「…なぜ、それを?レスカリア帝国の歴史についてはまだわからないことばかりです!
ずっと、五百年間鎖国状態だった。二年前の航路開設でやっとまともな交易が始まった。歴史や皇帝の姿、名前など知られていない。だから、今回の展示が大陸初の試みのはず」

シーガは目を細めた。

「公式にではありませんが。教会の大司祭は年に一度レスカリアに渡ります。聖地ですからね。ガネル大司祭も行かれたことがあるでしょう。私はファドナ聖女からレスカリアの歴史については学びました。そして、あの皇妃が嘆く本当の理由も」

それはユルギア本人に聞いたのだがそれについては言及せずにおく。
わざわざ自分が普通でないことを誇示する必要もない。

「本当の理由?」
「ネラ皇妃、彼女は護衛の騎士と恋に落ち、息子を置いて国を出ようとしたんですよ。しかし、そこを捕らえられ、彼女の目の前で騎士は殺された。それを嘆いているのです」
「駆け落ち、か」
タースがつぶやく。

「身勝手な行動のすえ、巻き込んだ騎士を死に追いやった。同情に値しません」
シーガの口調は冷たさを増した。大司祭ガネルも飲んでいたコーヒーが一気に冷たくなったように感じていた。

「!?あんた、もしかして」
「ええ、嘆きだけを残すユルギアなど、いないほうがいい」
「そんな!」

「…彼女に教えてあげました。彼女が愛した騎士は他の皇妃の企みによってネラ皇妃に近づいたことを。

ネラ皇妃は皇帝を裏切ったために死刑となりましたが、彼女自身も欺かれていたのです。

ネラ皇妃は静かに消えていきました。…ユルギアに惚れ込むなど」

青年は自分に向けられた視線に黙り込んだ。
「そ、その。あの、さ。仕方ないよ、好きになっちゃったんだ」
「君…」
タースの言葉に青年が張り詰めた表情を解いた。

「バカですね、お前とは違いますよ?そのために人を傷つけてもいいと思い込んだ、この男の想いは褒められたものではありませんよ。お前とは違う」
「そ、そうかな、でもさ」
「現実を見なさい」
ぱち、ぱち、ぱち。
ゆっくりとした拍手に、シーガもタースも、ミムウトも一人自分のイスに座ってくつろいでいるガネルを見つめた。

ガネルは膨らんだ重そうなまぶたの目を細めていた。
そうなるともう、瞳の色が何色なのか分からないくらいだ。

「ユルギアは消えた。これで一件落着、というわけですかな。シーガどの、お礼に食事などいかがです?私の屋敷にご招待しますよ」
「…いいえ、結構です」
「どちらにしろ、シーガ。あなたを自由にするわけには行かないのですよ。どうせなら食事はあったほうがいいと思うが」

大司祭ガネルの嬉しそうな視線はなめるようにシーガを見つめた。

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