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「想うものの欠片」第七話⑩

10

博物館の脇を抜けて、タースは大聖堂のほうへと狭い通路を走っている。
背後から警備兵が迫っていた。彼らの目的は金貨。殺すなよ、と確認しあう声が聞こえる。

自分の荒い息と聖堂の鐘の音を聞きながらタースは裏庭に駆け込んだ。回廊に囲まれる緑の庭園。腰高の木々を掻き分けるように走る。服が枝にかかり、破れる。
庭を突っ切って聖堂の裏手を抜けようとした瞬間、何かが腕をかすめた。
軽い、パンと弾ける音。
逃がすことを恐れたのか警備兵は銃を撃ちはじめた。
血のにじむ二の腕を押さえながら振り返ると、警備兵が二人、こちらに銃を向けていた。

「停まれ!停まらないと撃つぞ!」
それで停まれるはずもない。
二人?
残りは?

かすかな草の匂いを感じながらすり抜け、あと少しで建物の裏側にたどり着く、というところで、回り込んで先回りした三人が右手から駆けて来る。
見回して左手に立つ古い一階建ての建物に駆け込んだ。小さな部屋を仕切る壁の土の匂いが日陰の暗がりに漂う。
「そこは貯蔵庫だ。出口はないぞ!」
勝ち誇ったような声が背後から響く。

入り口から奥に向かってまっすぐ廊下が続く。左右には扉のない小部屋。食料の入った大きな麻袋や木箱、書物や種、乾燥したハーブや果物が並ぶ棚。左右に十以上続く。
どの部屋も窓がない。
よどんだ空気と食べ物のすえた匂い。精一杯走ったタースの荒い息に、その時間のたった空気は重く、むせる。

警備兵たちは余裕と感じたのだろう、走るのをやめ互いに目配せした。
ゆっくりと威嚇の声を上げながら歩いてくる。
五人いる。
戸口の外に一人、隙を見てタースが逃げ出さないように見張っている。

一人が正面を睨み、四人が二人ずつ左右の小部屋を覗き込む。
「隠れても無駄だぞ!」
「大人しく出て来いよ!そうすれば痛い思いをしなくて済むぞ」
小部屋に入っては樽を蹴り、音を立てる。麻袋が転がり落ち巻き上がる埃に男たちは顔をしかめる。

生々しい音がタースに近づいてくる。

廊下の突き当たり。
最後の部屋だ。
警備兵たちは互いに目配せし、一人が室内の暗がりに銃を構えた。
酒の貯蔵庫だ。
大小の樽が整然と並ぶ狭い部屋。一人を戸口に残し、四人が踏み込んだ。
吸えた酒と樽の匂い。
カタリ。

かすかな音に警備兵は銃を向けた。
緊張が走り、全員が樽の奥を睨む。
「!おい」
一人が怒鳴り、いっせいに四人がその男を見つめた。
「見ろよ、もったいない!樽が倒れて割れてるぜ」
「脅かすなよバカ」
「いないぞ」

棚の裏にも、人影はない。
「そんなはずないだろ?確かにここに逃げ込んだんだ!」
「おい、出てこい!」
ガシャと小瓶につめられた麦の酒が転がる。
「出てこないなら、命の保障はしないぞ!」
銃を構える音。

「おい、樽が割れるぜ?」
「ばか、金貨一万だぜ?酒なんていくらでも寄付してやるさ」
「それもそうだ」

いっせいに銃声が交錯した。
パンパン、パン!
兆弾が壁を穿ち、樽の鉄輪に弾ける。穴からはワインがこぼれ、レンガ敷きの床に静かに広がる。

唐突に、銃声がやんだ。

「おかしいな」
「いないのか?」
転がった樽を蹴飛ばしてみても、人影はない。
ワインのかかった靴を床に擦り付けて、男が苛立った。
「本当にここに逃げ込んだのかよ!?」
「外か?」
「ふざけんなよ、きっちりやれよな」
一人が酒の小瓶をつまみあげてポケットに潜ませる。
「おい、行くぜ!コレで見つからなかったらお前の責任だからな」
「おいおい、勘弁してくれよ」

男たちの足音が遠ざかった。

は。
静かに息を吐き出した。
ぎゅっと閉じていた目を開いて、タースは頬をぬぐった。
額から、酒だろう、伝って気持ち悪い。

「酒臭い…」
こぼれた酒が棚の下、板の渡された床の隙間から落ちてくる。

床下の隙間の存在をタースは知っていた。慌てて酒樽をどかして、板の下に入り込んだ。

部屋の一番奥に壁に沿って掘られた昔の排水の溝だ。ここは修道士の住む宿舎だった。この部屋の天井には古い水道の管が渡され、そこに付いた蛇口から、そこが浴室だったことを知ったタースが、排水溝の存在に気付くのは容易なことだった。

この時代の浴室の構造は頭に入っている。

狭い溝に横たわり、かび臭い匂いに吐き気を感じながらも、陽がくれるのを待った。

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かいりさん♪

うふ~嬉しい!
タース、がんばってます♪
案外タースの知識、役立ってます(笑)
さてさて、続きからはあの人が再登場♪お楽しみに!!

ふおー!

こんにちは!ここまで読ませていただきました><
もう!この章はいきなりハラハラドキドキです!
赤い石、本当になんて恐ろしい存在なんでしょう><;
そしてそれを利用したムハジク候…この悪者があああ!!
タースがまた責任感じちゃってるじゃないですかあああ!(涙)
でもシーガ様を逃がそうとするタースかなりカッコ良かったです!
髭も生え始めてきて、タースったらいつの間にか大人に成長していってるのですね!
今回は建築のことに詳しいタースならではの機転!!うん!かっこいいよタース!!
シーガ様、これからどうするのでしょう><;
また読みに来ますねー!!
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