08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「想うものの欠片」第七話⑪

11

トラムの駅のある繁華街に宿を取ったことをシーガは後悔していた。

陽がくれたこの時間、宿の前の通りはますます騒がしく、時折聞こえてくるのんきな人々の会話が青年を苛立たせた。

宿の一階のロビーで腕を組んだまま、ソファーに座る。
目立つ銀の髪は帽子の下に隠され、コートの襟を立てた姿は目立たないようでいて、やはり人目を引く。もちろん、隣に座って足をぶらぶらさせる美しい少女がいるのだから、シーガのささやかな変装もあまり功を奏してはいない。

不意にシーガが顔を上げた。
ミキーは小さくつぶやく。
「スレイドさんですの」

言葉の通り、数秒後には赤い木枠の扉を開いたのはシーガの待ちわびる少年ではなかった。黒尽くめの男をちらりと見やると、またすぐ視線を自分の靴に戻した。

「まだ、この国にいたのですか」
「ごあいさつですねぇ?」

「…何が起こっているのです?」
シーガの不機嫌をあざ笑うかのようにスレイドは帽子のつばをちょんと上げて見せた。

「ここではなんです。お部屋へ」
シーガの表情が曇る。
「タースを…」
「ああ、そういえばいませんね?また、逃がしたんですか?」
「…違う」
シーガは立ち上がる。



「何が起こっているのですか」
部屋に足を踏み入れるなり待ちきれないのかシーガが問いかける。
スレイドはきょろきょろと室内を見回す。
「心配しなくてもユルギアはいませんよ」

スレイドは珍しく帽子を取り、窓から外を眺めてカーテンを閉めると立ち尽くすシーガたちを無視してベッドの一つに腰掛けた。
「スレイド」
帽子を持つ手を膝に置き、スレイドは話し始めた。

「後で、タースの居場所を教えてもらいますよ、シーガ様」
「…」
青年の沈黙をちらりと横目で眺めると、男は再び手に持つ帽子に視線を戻した。

「私は国境を越えようとしていました。ところが、カヌイエ側が封鎖したんですよ」
「それは聞きました」
「は、お耳の早いことで」
いつものスレイドらしくない捨てるような口調にシーガは眉をひそめた。

「お前も知っているでしょう?今回の仕事の依頼主はガネルです。私を捕らえようとしました。それで、タースは囮になって私を逃がしたのです」
「タースが心配ですの」
珍しく口を挟んだ少女をスレイドは完全に無視した。

「あー、そうでしたね。あの爺さん、いや失礼。狸じじいから聞かれましたか」
「戦争が始まったと。大公が亡くなったと聞きましたが。それは真実ですか」
スレイドは肩に停まるタンラの頭をなでた。気持ちよさそうに目を細めるカラスはこの男にしか甘えない。

「ええ。サンルーで石のことをタースに聞いて、注意するようにと手紙を送ったのです。ファドナ様から戻った返事には、すでに遅かったのだと。

石を使用してムハジクが大公を亡き者にしたのは容易く想像できますが。

何しろ不思議な石。証拠もなく、追求のしようもない。そして、すでに二十四都市はムハジクの勢力が大部分を占めていました。

名目上は大公のご子息トエリュ様を立てていますが。実際はムハジクの思うままでしょう。シモエ教区に戦線を置き、国境の橋は封鎖されました」

「ムハジクは、ロロテス派ではなかったのですか」
「そうです、ロロテス派ですよ。ですが。あの男はティエンザに組することより、ライトールを我が物にすることのほうが魅力的だったようです。実際、この国の様相は伝え聞くよりいいものではありません。お分かりでしょう?」

シーガは頷いた。

首都に詰め掛ける地方の労働者。異常気象のために農作物は期待できず、農家の男たちは働き口を求めて都会へと集る。

華やかな表向きとは違い、都市の裏側は治安が悪化していた。だから、常に警備兵が街角で見かけられるのだ。貧しいながらも、ライトールのほうがまだ安定しているように思えた。

「馬鹿なことです。どちらにしろ、戦争など何の益もないのに。シーガさま。いずれこのティエンザでも戒厳令が敷かれるでしょう。我等ライトール人は捕虜として捕らえられる。そして、もちろん、シデイラであるあなたも安全とは言いがたい」

「…ライトールに戻ります。ファドナ様はどうなされている?」
スレイドは目を細めた。

「幽閉の状態でしょう。手紙にはご自身のことは一切書かれていません。今後、タンラも近づけなくなるかもしれませんね。あなたが帰ってもムハジクに歓迎されるとは思えませんが」
「それでも」
「聖女が心配ですか」
「…おかしいですか?あなたも、育ててもらったでしょう?」
スレイドは小さく肩をすくめた。

「親なんか、いませんね」

男の普段見せない表情に悲しみを感じとり、シーガは黙った。

聖女を思う青年をスレイドは常に皮肉な口調で揶揄してきた。父親に重ねているのだ。
リュエル三世がファドナを大切にするその姿にスレイドは複雑な思いを抱いていた。大公に父親としてのそぶりなど期待していない男だった。

それでも、避けるわけでも憎むわけでもなくそばにいたのは、理由を言葉にできずとも親子なのだと思わずにいられない。

リュエル三世の死をどう受け止めているのだろうか。
父親の死を。


「タースですの!」
ミキーが顔を上げた。

とんと、身軽に座っていたベッドから立ち上がると戸口に駆け寄る。

次へ
ブログランキング・にほんブログ村へ
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。