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「想うものの欠片」第八話 ⑤


よろけて、タースは口元を押さえる。苦い血の味に顔をしかめた。
その手を女がつかんで引き離すと、二発目。
全身の力で殴りつけられ、タースはテーブルに倒れこんだ。
こんなに遠慮ない殴り方をされたのは初めてだった。続いて腹にずんと痛みを感じて、小さくうめいた。
蹴られたのだ。
この人、は、怖い。

どこが痛いのかよく分からない、横たわったまま苦しい腹を押さえて少年は小さく丸くなる。
「お前」
前髪をつかまれ、気付くと目の前にその人の顔がある。女性らしい、何かの甘い香りがする。
その顔が笑っている。
「私の言うことを聞けば、突き落とさずに済ましてやる」

突き落とす…、飛んでいる飛行船から…?

ぞく、と吐き気がする。
震えたのが分かったのか、女はさらに顔を近づけて、耳元に囁いた。その声は機関室の騒音の中、気持ち悪いくらい脳裏に沁みた。
「私の言うことを聞け。いいな」
タースは、とにかく頷いた。
こんな乱暴な女は初めてだった。


女に連れられて機関室の外に出る。
狭い通路を抜けて、左右に客室らしい綺麗な扉が並ぶ場所に来た。そのうちの一つを明けると、突き飛ばされるように連れ込まれた。
そこは船みたいに丸い窓で、外は夜の闇。さほど広くない部屋で、ぷんとその女と同じ匂いがした。壁に張り付くように作られたベッド。その下は収納になっているようだ。反対側の壁にはソファーが張り付いている。揺れることがあるからだろう、家具はすべて壁に固定されていた。
壁に渡された手すりにも、タースは成る程と感心していた。けれどその興味深そうな表情が気に入らなかったのか、女は振り向くともう一度平手で頬を叩いた。

目をつぶる間もなく、タースは切れた唇の端を手の甲で押さえた。
「…乱暴だな」
「お前、名は?」
両手を腰に当てて見下ろす女は豊かな胸と厚みのある肩を怒らせてフンと鼻を鳴らしている。
「タース。あんたはなんていうの」
「言葉遣い!」
また叩かれるかと、タースはピクリと身を引いた。
「目上の人に対してきちんと言葉を選べないのか?だったら、落ちてもらう」
「…名前を教えて、ください」
拳を握り締めて、腹の中が熱くなるのを押さえつけて、タースは睨みつけた。
「まあ、いいだろう。私はジファル。レスカリア帝国の皇帝付き親衛隊長だ」
口調に誇らしげなものが混じる。
それは余計にタースを苛立たせるだけだった。暴力と身分を振りかざしてにやにやしている、それ自体ひどくこっけいなことに感じる。タースには身分とか社会的地位とか関係ないし、畏れる必要もない。
口を尖らせる少年にジファルは侮蔑の表情を浮かべた。
「いいか、この飛行船はレスカリア帝国、皇帝の専用船だ。忍び込んだ事実だけで処刑できる。つまり、お前の生死は私が決める」
「…皇帝?」
また、殴られた。
今度はグーだ。
よろけて、壁の手すりに掴まる。
「言葉遣い!」
「皇帝、陛下」
ジファルが頷く。
「その、皇帝陛下がどうして、ティエンザに?」
「お前、バカか?普通なら気にするのはそこじゃないだろう?私はお前を殺すかもしれないのだぞ?」
タースは小さく鼻で息を吐いた。殺すのだとしても、今じゃない。それは最初に見つかった時に殺されなかったことでも分かる。何か理由があるからここに僕を連れてきたんだ。
「あなたが、僕を殺そうとするとして、僕には今、どうしようもないから。それより、なんでこの船に、ううん、ティエンザにレスカリアの皇帝陛下が来て、いらっしゃっているのか、そっちのほうが気になる」
まっすぐ見つめるタースの表情に、ジファルは一瞬眉をしかめた。
「いずれ、知るだろう。お前にはやってもらいたいことがある」
「なんでもするよ」
「ふん、必死だな。それはそうだ、こんなところから突き落とされたい人間はいないからな」
「…」
どうやら相手が怯えるのが楽しいらしい。
そういう性格なんだろう。

タースは生きるために必要であればどんなことだってしてきた。だから、ここで腹が立つからといって反発するつもりはない。
恐れていると思われるのは癪だけれど、この女にそれを言ったからといって、理解されるものでもないだろうし、タースも自分が生きるために培ってきた価値観を披露する気にもなれない。
自慢することでもない。

絶対に好きになれないタイプだ、とタースは判断した。
レスカリアの皇帝の専用船。だとしたら、常に同乗する機関長のウィスロもこの親衛隊長を知っているんだ。おっかねえとカガが言っていたのはこの人のことだ。
それとも、もっと怖い奴がいるのかな。
厄介な船に忍び込んでしまった。

厄介なことはそれだけではなかった。
つぎに女性が口にした言葉にタースは目を見張った。
「お前は、皇帝陛下のおそばでお世話するのだ」


飲み込むのに数瞬かかる。
「え…?」

「聞こえなかったのか?皇帝陛下の身の回りのお世話だ。常に隣室に待機し、ベルが鳴ったら駆けつける。くれぐれも失礼のないように」
「ちょっと、待って、僕…」
ジファルが手を振り上げ、タースは黙った。
反論も、質問も受け付けないつもりだ。

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史間さん♪

うふふ、そう簡単に親子対面させませんから♪
ジファルさん、ウィスロ。
彼らはこれからいろいろと…いえ。そこはお楽しみに~。
江戸変換♪江戸バージョンだとタース君は一体どんな存在?妖怪か…
あ、シーガさまこそ?
あ、ちがう。
仁さま曰く。
ミキーちゃんです(笑)
夜な夜な男をたぶらかす…で、鬼太郎よろしくタース登場ですがあっさり魅力に虜。
そこにネズミ男シーガ!!!
いま、想像力が何かを拒否しました。
って、どこが江戸なんだ(笑)

うわーシーガパパに!?

会うのですか、なぜ先にタースが(そこ?)
新キャラ登場でドキドキですー♪
ウィスロが江戸っ子に見えた(幻覚)
ジファルは怖そうだけど、気が強いだけで、きっぷのいい姉さんですよね、きっと(すべてを江戸っ子変換するな)!
続きが楽しみです~!
あ、でもタースは生きるためでも犯罪はできないですよね。銀行強盗とか(しないと思う)
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