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「想うものの欠片」第八話 ⑥


僕は、皇帝陛下の名前も顔も知らないのに。
だいたい、なんで密航者にそんなことさせるんだ。おかしいよ絶対。
翌朝、ジファルに詰め込まれた小さな部屋で目覚めたタースはそれを一人何度もつぶやいていた。
ここに泊まれるのは正直助かるが。
まだ空が半分薄い紫に覆われる早朝から、枕元に置かれた目覚まし時計のベルは派手に鳴り響いた。
ベッドから起き上がると、壁に作られているクローゼットから指示された服を取り出す。なぜか、タースにぴったりだった。真っ白いシャツ、襟がきゅと締まっている形で少し窮屈な気になる。漆黒のベストには銀の刺繍で縁飾りがされ、そろいのズボンにも、裾には刺繍と房飾りが付いている。少しだけ短いので、房飾りはくるぶしに当たってくすぐったい。
サスペンダーの使い方はミキーの買ってくれる服で慣れていたので、案外すばやく支度を終えた。
扉が開いた時には、襟元の小さなネクタイも結んで、跳ねた前髪以外は完璧だった。
「ほう、来ていた服がそれなりだったから任せてみたが。似合うな」
ジファルの口調はやっぱり馬鹿にしているように感じられた。
タースはふんと鼻を鳴らして、親衛隊長を見つめた。
「そろそろ陛下のお目覚めの時間だ。よいか、陛下はお目覚めの際に必ず温かい茶を飲まれる。厨房ではすでに準備が出来ているから、お前はそれを受け取って運ぶのだ。最初は私も同行しよう。付いて来い」
「あの、僕、皇帝の名前も知らないんだけど」

立ち止まった女の背後でタースは殴られるかもと一瞬身構える。
「ライトール人にとって、レスカリアは謎の国なんだ。仕方ないだろ」
「…フィメイア・クライスト陛下だ」
冷たい視線を睨み返しながら、タースは心の中で反芻する。
「皇妃様は現在はお一人で、ミレニアテス様。どちらにしろ、お前は陛下、皇妃さまと呼ぶのだ。覚える必要はない」
必要ないあたりに反発。分けわかんない、と独り言をこぼす少年を無視してジファルは歩き出す。タースは密かに舌を出しながらついていく。二人は通路を厨房のほうへと向かっていた。時折、丸い窓からの朝日が差し込み、タースは目を細める。
とりあえず、やるべきことをやれば殺されないで済むのだろう。

状況はよく分からないけれど、何がしかの労力を提供することで、身の安全という対価を得るのは悪くない。ただいるだけのお荷物にはなりたくなくて、シーガやミキーのために朝食を頼み、新聞を買いに行ったことを思い出す。タースは自然と明るい表情になる。
シーガが教えてくれたマナーや、ミキーが身に着けてくれた衣服。それらが、今丁度、役に立っている。
そっと、届かなくても感謝している。


厨房でジファルはタースを新しい皇帝付きの侍従だと紹介した。やせた鼻の大きな料理人のパルは少し不思議そうに少年を見ていたが、何か文句があるのかとジファルに詰め寄られ、慌てて首を横に振った。
タースは用意された茶のポットとカップをトレーに乗せると、ジファルの後について船首に近い部屋に向かう。タースが眠っていたあの部屋の丁度向かいだ。
厨房からここまでの間に船内を観察して、大まかな作りは理解した。機関室と貨物室は半地下になっていて、船尾の中央に位置する。そのほぼ真上が厨房とか、乗組員の食堂がある。そこから乗組員の部屋、(多分一部屋に三人くらいは詰め込まれている)船首までまっすぐ伸びる廊下沿いに身分の高い従者の部屋。扉に名前が書かれた札が金で飾られた縁にはめ込まれているので分かる。
タースの泊まった部屋には、「ユナ」と名前があった。

僕の前にはこのユナって言う人がいたんだ。

皇帝の名札などもちろん付いていない大きな扉の前で、タースはふっと肩の力を抜いた。
傍らに立つジファルがちらりと睨んで、失礼のないように、と小声でつぶやく。
黙って睨み返す。

「陛下、ジファルです。失礼します」
声を響かせて、親衛隊長は扉を押し開いた。

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松果さん♪

はい!タース君逞しいです♪
なんだかんだいって、大人に気に入られる性格なのです。

皇帝陛下…ふふふ。

どうでしょう?
予想、どおりかな~?(にやり

おお~!

なんなんだ、この恐いおねーさんは…
と思ったら、いきなり皇帝付きの侍従ですかっ!
何考えてんですか、ジファルさん。
しかし次から次へとジェットコースターのように周りに翻弄されているように見えて、しっかり順応していくタース君には感心します。
そうか、一人で生きていくにはそういう順応力も必要だったんだろうなあ……

皇帝陛下、どんな人なんでしょう、ワクワク…

ユミさん♪

一気に六話も!ありがとうございます!!
タースくん、しっかり巻き込まれています(笑)
ジファルさん。
彼女の怖さはこれから…いえいえいぇ(黙)
いよいよ、皇帝陛下、ですよ~。楽しんでいただけるといいなぁ!!

この人

いやいや、このお方…(殴られたくないので^^;)、怖いです。
ジファルさん!!権力・名声が好きなタイプの人なんですね~><
ウィスロさんたちがちょっとのほほんといい人だっただけに、
余計際立っていやな空気が流れたような気がします。
でも、タースくんを皇帝の使いにして、何をしようっていうのか…。
前にいたユナさんって、どこへ行ってしまったのか…。
気になりつつも、今日はここまでにしておきます。
この更新の仕方って、ホント、先を読みたくて仕方なくなりますよね~。
もうupされているから、時間があれば、本当に一気読みコースです♪

タースくん、きっと届いているよ☆
シーガ様やミキーちゃんへの感謝の気持ち。
あ~、もう!携帯があったらすぐ伝えられるのに~って思っちゃう。
…空の上だから、電波届かないか?!
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