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「想うものの欠片」第八話 ⑦


「あれ」
思わずタースは小さく声を上げた。
というのも想像していたのと違ったからだ。

タースは扉の前に立ったとき自然とカヌイエの領主ムハジク候の城を思い出していた。重厚な大理石のつくり、豪奢な深紅の敷物。毛皮や金。複雑なモザイク。金銀の刺繍。

違った。

部屋はタースのものよりは二倍は広いが、それだけだった。
ジファルがそこにと示した傍らのワゴンに、持っていた茶のトレーを置いた。

ベッドのカバーは上質な毛織物のようだったけれど、金でも銀でもない。天蓋もない。大きなベッドはどうやら二人用だ。枕が二つ並んでいた。その部屋で一番目に付くのがそれで、部屋の三分の一を占領している。
タースの部屋と同じ丸い窓が二つ並び、その先に作り付けの棚。本が並んでいる。その本の前に床に固定されたテーブル。壁に背を張り付かせたソファー。ソファーには豹の毛皮がかけられていて、テーブルの上の真っ白なレースのクロスと果物の入った銀の皿がかろうじてそれらしい高級感を見せていた。
ソファーに座っていた男女がタースを見ていた。

「おはようございます、陛下」
ジファルが膝を床につけて、深く礼をする。タースもそれに習って真似をした。両ひざをついて胸を抱くように両手を体に沿わせお辞儀をするポーズは少し変わっていたけれど、レスカリアの方式なんだろう。
「ばかもの」
小声でジファルに言われ、タースは顔を上げた。

正面の立派な体躯の男性、多分皇帝陛下なんだろうけれど、その人と目があった。
少し驚いたように見開いてタースを見ていた。
が、その翡翠色の瞳はすぐに笑った。
「まあよい。どこで拾ったかは聞かぬが。お前のことだ、目は確かだろう。ユナのおらぬ今、異国で代わりを見つけるのは大変だったろう、苦労をかけたな」
ジファルが視線を床に落としたまま、申し訳ありませんと声を張り上げる。
「男の子なの?他にいなかったの」
ひどく透き通った声だった。皇帝の隣に座る皇妃は恐ろしく長い銀の髪を深紅のリボンで緩やかに一つにまとめ、それが肩掛けのように白い胸元からくびれた腰にまで流れている。妖艶なほどの深い緑の瞳。長い睫。タースは思わず見とれた。
女性は美しかった。
「名は?」皇帝が尋ねる。
「…」
「タースといいます」
少年が頬を染めて皇妃に見入っているので、ジファルは代わりに応えた。
「女の子がよかったのに、まあいいわ。お茶を頂戴」
「あ、はい!」
タースは慌てて、厨房で教えられたとおりのミルクと蜜の分量をカップに入れると、温かい茶を上から注いだ。
甘い香りが漂う。
「ご無礼の程は私目にお申し付けください」
ジファルはそう言ってもう一度一礼すると部屋を出て行った。
とたんにタースは不安になる。
二人の視線を感じている。
茶をテーブルに運ぶ。

どこかで香が焚かれているようだ。柔らかい香りがして、それが紅茶にぴったり合うんだとタースは感心した。
「ユナはいい子だったから男の子でも我慢したのよ。国に着いたら適当な女の子を捜してもらうわ」
ミレニアテス皇妃は先ほどからタースのほうをまともに見ない。どうやら嫌われたようだ。
複雑な気分でタースはワゴンの前に戻ると、一緒に載せられていたクッキーやマフィンの乗った銀の皿を運ぶ。

「ミレニア、わがままを言うんじゃないよ。この子に罪はないだろう」
「陛下はお優しいですこと。私は嫌なんです。大人の男性ならまだしも、この年代の子は無遠慮で嫌いだわ。私のことをなめるように見つめるの、ほら、今も」
タースは頬が熱くなるのを感じた。
「ミレニア」
皇帝がたしなめるが、ミレニア皇妃はもたれかかっていたソファーから身を乗り出すと、丁度向かいでテーブルにクッキーを置いたタースの喉元に細い手を伸ばした。
「ほら、見てたでしょ?ユナは顔色一つ変えずに笑ってみせたわ」
ユナと呼ばれる前任者がどれほど大変だったのか、タースは思いやった。同時に辞めて正解だとも。言いようのない魅力を放つ皇妃をタースは睨んだ。
「僕はあなたを見て、心に決めた少女を思い出していただけです」

言ってはいけなかった。
それは、十分分かっているが。
命に関わるのかもしれないが。
それでも、自分の容姿に酔っている皇妃にタースは正直な言葉を突きつけた。

「僕の知っている少女のほうが数倍魅力的ですから。年上に興味ないし」

「あ!あなた、今、おばさんには興味ないって言ったのね!?」

おばさんとは言っていないが。
密かに皇妃が気にしていたところを突いたのは確かだった。
皇妃はおもむろに立ち上がって、クッキーの入った皿を振り上げて中身を投げつける。
タースは思わず飛んできたクッキーを両手で受け取った。至近距離だったので三つとも手の中に納まった。

「おばさんなら余計に年下の男に優しくなきゃダメだよ!」
「ちょっと!陛下!笑ってないで、この無礼な子を何とかして頂戴!」

皇帝は肩を震わせていたが、そのうち声を上げて笑い出した。
皇妃の矛先が彼に移っても、面白そうに笑い転げる。
「陛下!」
今度はソファーに乗っていたクッションを皇帝に向かって両手で振り上げる。皇帝は寸前で皇妃ごと抱きしめた。

「!?」
真っ赤な顔をして怒っていたミレニア皇妃は恥ずかしそうにそのまま皇帝の腕の中に納まった。大人しくなる。
「よしよし」
よしよしって、とタースは一人呆れ顔だ。
皇妃はどう見てもファドナ聖女といい勝負だ。綺麗だけれどそれなりの年齢だ。ファドナがシーガを育てたって言うんだから四十代だとして、この皇妃も同様の年齢だろう。
そう思うと、皇帝はそれより少し若く見える。
年上なんだ、皇帝より。だから、年齢を気にするんだな。
少し悪かったかな、と憐れみの気持ちに切り替わりつつある少年に、皇帝は穏やかに笑って見せた。
「タース、といったね。少し席を外してくれるかな」
「気を利かせなさいよ、おバカさんね!」
我に返ってタースは慌てて扉のほうに駆け寄る、が。扉を開こうとして両手にクッキーが納まっていることに気付く。
ワゴンの上のトレーにそれを置いた。
「タース、一時間したら来なさい」
「来なくていいわよ!」
いちいち言葉を挟む皇妃。タースはそこでくるりと二人のほうに向き直って、派手に一礼した。
「一時間後に伺います」
「なあにそれ!」皇妃が怒鳴って。
「ぷ」
と皇帝がまた、噴出したのを後ろに聞いて、タースは部屋を出た。

変な人たち。

第一印象はその一言に尽きた。

部屋の外に、ジファルが立っていた。
腕を組んで、ちょうど正面にあるタースに与えられた部屋の扉にもたれかかっていた。
「なんだよ、聞いていたの?人が悪いな」
と、つかみかかる女の手を思わずよけた。
銃で脅されていなければ、タースもそこそこは動ける。喧嘩は好きではないが、それなりに自己防衛くらいは必要だった。
そこを見抜かれた。
ジファルはあっさり銃を取り出した。
「ずるい…」
「さあて、ね。自由に船内を歩き回ってもいい。だが、何か事を起こせば、命はない。私に撃たれるか、落ちるかだ。いいな」
「…分かったよ」
「言葉遣い!」
「分かりました」
「…」
「あの。僕、一時間の間に朝食をもらいたいんだけど。どうすればいいか教えてくれないの?」
じっと睨みつけているジファルに、タースは食い下がる。先ほどからお腹が文句ばかり言っていた。
「ふん。厨房へ行け。好きなものを作ってくれる」
「ほんと!?」
嬉しそうな少年につまらなそうにジファルは銃をしまった。

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史間さん♪

ぬふふ!でしょ?
ここにきて大勢登場ですが。ユナくん、はい。からんできます~。後々ね。
実は今日、最終話の推敲をあげて~♪あとがきをつけたんです。
連載はあと三ヶ月はありますが♪気分は次の作品へと♪
うふふ。
長いですよ…全編通して数えたら。原稿用紙1000枚ありました(爆
一応きっちり完結しますので♪お楽しみに…というか。長いですがお付き合いください。

おはようございます♪

今週中には読み上げたい史間です。

皇帝と皇妃が予想以上に可愛らしいのですが!
これは嬉しい予想外♪特に皇妃様は年齢不詳ですね、その性格、少女みたい^^
少しのやりとりですけど、仲よさそうな感じが伝わってきて楽しいです♪
ユナって子がどうしていなくなったのか、きっとタースと同じ背格好だったから衣装もぴったりだったのかな、とか。
色々想像しちゃいます。
また来ます♪
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