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「想うものの欠片」第八話 ⑨


タースの真剣な顔に、ウィスロは急に笑い出した。
「バカだな、タース。この飛行船は上空の強い気流に影響されない八百メートルくらいを飛んでる。この密封された船の外は薄い空気と低い気圧。非常用の扉があるがね、それを開けば船中が派手に揺れる。誰かに分からないように外に出すなんて出来ないさ」
「でも。そうだ!ほら、機関室の奥からプロペラにつながる整備用の通路とかあるんじゃないの?」
「!ああ、そういやないこともないが。あれは、風除室が手前にあるからな、まあ、出来ないこともないが…って、そうなのか!?落ちたのか!」
「落とされたとか」タースはひそひそと上目遣いで三人を見回した。
タースは心に一人犯人を浮かべているが、三人も同じかどうか探っているのだ。
けれどタガとカガはそんな通路あったかなと首をかしげている。ウィスロは違うことを言った。
「逃げ出したとか」

「逃げ出した?でも、落ちたら死んでしまうよね?」
「ボウズ、一応な、パラシュートって言う一人用の風船みたいなもんが備えられているんだ。緊急の時にはそれを担いで、飛び降りてから膨らます。そうするとゆっくりと落ちるんだ。うまくいけば死なずに済むさ」
「じゃあ、それが一つ無くなっていれば逃げたってことだよね」
「そうだな、うん、よし、見てみるかな。あいつはいい奴だった。皆に好かれてた。何にも言わずに行かなくてもなぁ」
タースは遠くを見るようなウィスロに、皇妃の言葉を重ねていた。
あの子はいい子だった。
比較されているようで少し変な気分だけれど、それで初めてパルに紹介されたときの複雑な表情の理由も分かる。温かい人たちで、家族みたいに仲がよかったのかもしれない。
「その時は僕も行くよ」
「おめ、忙しいだど?」
「んだ、サボると怖いど」
「あー、そうだ」
タースは食堂の時計を見て、ちょうどパルが三人のチーズオムレツを作り終えたときだったけれど席を立った。
「おめ、行くのか?」
「そうだ、食べていけよ」
ウィスロたちの嬉しい言葉も、つばと一緒にごっくり飲み込んでタースは首を横に振った。
「時間だから、じゃあ、また」

こんど、船の中の様子とか、旅程とか、レスカリア帝国についてとか。いろいろとウィスロたちに聞いてみよう、タースはそう決めた。

皇帝の部屋の前まで来ると、ジファルが腕を組んで廊下の反対側、つまりタースの部屋の前に寄りかかって立っていた。
タースは首を左右に伸ばして、鼻息を吐いて。気合を入れる。

「…」
無言で睨む女をちらりと見て、皇帝の部屋の扉を叩いた。
中から、入れ、と声が聞こえた。
もう一度ちらりとジファルを睨みつけてから、タースは扉を開く。

タースが最初と同じ礼をするために両膝を床についたとき、目の前に皇帝の足があった。
見上げる。
「違うのだ。タース、ジファルがして見せたのは女性の最敬礼だ。男は片膝なのだよ」
目の前で皇帝が右膝をついて、同じほうの腕を腹の前に持っていく。
タースも真似して見せた。
「こう、ですか」
「ああ、そうだ。それで深く腰を曲げる」
「こう?」
「ぶ、ああ、そうだ」
何故、返事の前に小さく噴出したのか不思議に思ってタースは顔を上げた。
「いや、まさか、この私がお前に最敬礼をするとはね」
「え、あ!?」
「陛下、もうお止め下さい、後でジファルを叱っておきますわ!こんな礼の一つもできないような子供を連れて来て!」
あの意地悪な皇妃はベッドの中だった。
真っ白いローブを着ているものの、明らかに情事の後だと分かる。乱れた豊かな銀の髪が華奢な肩に流れて、枕に沈み込む胸元まで視線を誘導する。
「見てる」
言われて気付いて、タースは慌てて立ち上がった。
皇帝はすでに先ほどのソファーに座っていて、「ミレニア」と皇妃を笑ってたしなめる。
「タース、朝食は済ませたのかね」
「あ、はい」
「なあに?陛下より先に食べたって言うの!?本当に礼のなってない子ね!」
あ、と声を出さずに口を開けたタースに皇帝は面白そうに目を細めた。
「すみません」
「何を食べたのかな?」
「え、あの。チーズとパプリカと玉ねぎのベーコン入りオムレツと、オレンジのジャムを塗ったトーストを」パルに注文したのと同じ台詞だ。

何かがぼん、と頭に命中した。
「いて?」
見ると枕だ。
タースが投げた主、ミレニアのほうを睨んだときには皇帝は腹を抱えて笑っていた。
「あははは。素直だね!面白いな、朝からそんなに食べたのか」
「え?…ええと」
「普通はパンを少々とかって言うのよ、馬鹿ね!さらに言うなら、食べても食べていませんって言うの!朝からそんな豚みたいに、しかも堂々と食べましたなんて嬉しそうに言われたらどう反応していいか分からないないでしょ?こっちだって、そんなロクでもないことで叱りたくなんかないんだから!」
「ぶ、豚みたいって!!意味が分からないよ!だってすごく美味しかったんだ」
つい、皇妃の言葉にムキになりかかって、慌てて口元を片手で覆った。
はっ、はっ、はぁ!
と。皇帝はすでに苦しげにソファーに丸まって腹を押さえていた。
「いや、面白い!タース、私にも同じものを。ミレニア、君はどうする?」
「私はいつものよ。そんな朝からチーズだの卵だの、ベーコンですって。信じられないわ」
あからさまな侮蔑の口調にも、皇帝は面白そうに笑う。
「ミレニア、欲しいって言ってもあげないからね?」
皇帝の言葉に、皇妃は口を尖らせた。
「いらないわよ」
「一口も?」
「…見てから考えるわ」
子供みたいな皇妃と、それをからかう皇帝。タースは枕のせいでますます前髪の寝癖をひどくしたまま、二人を眺めた。そして、思い出して追加した。
「あの、あと、サラダも付けるとバランスがいいと」
さらに皇帝が噴出した。

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