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「想うものの欠片」第八話 ⑮

15
夕食の片づけを終えて、タースが皇帝の部屋に戻った時には、珍しくミレニア皇妃はすでにベッドで寝息を立てていた。
タースが御用を伺おうとすると、皇帝は人差し指を口に当てて、静かにするようにと片目をつぶる。
この人は本当に皇妃に優しいんだ。
タースは頷くと、寒くないようにソファーにかかっていた毛布をかけてやる。機関室からの温風が流されているとはいえ、常に肌寒い。女性にはつらいのだといつか皇帝が話していた。
「ありがとう、タース。こちらへ」
皇帝はペンの手を休めてタースを手招きした。
「お前はミレニアの態度にも関わりなく、よく尽くしてくれるな。礼を言う」
「え、いいえ」
「扱いづらいだろう?」
「あの、気まぐれな猫みたいだと思えば」
そこまで言ってタースは慌てて口を塞いだ。
皇帝はまた肩を震わせて笑っていた。
「猫か、お前は面白いな」
「すみません…」
「ミレニアは、息子を亡くしていてな。どうも、お前くらいの子供が苦手なのだ」
「はあ。でもユナはよかったんですよね?」
つと空気が張り詰めた。
「あ、ええと」

切れ長の翡翠の瞳はタースを冷たく見つめていた。時折、タースがぞっとするのは、あの肩に手を置かれた時の息苦しさを思い出すからだ。
普段は穏やかだけれど、その笑みの下には神王としての力が潜んでいる。
「ユナの話は、ミレニアの前でするな」
「はい」
それはなんとなくタースも感じるところで、けっしてユナの名を自分から出すことはしていなかった。
「ユナは可哀想なことをした」
「…逃げたんじゃ、ないんですか」
無言の皇帝に、タースは居心地が悪くなり、腹の前で手をもじもじさせる。
「あの、僕、落とされたなんて馬鹿なこと」
「…タース」
「その、教えてください」
「…」
皇帝の表情は明らかに真実を知っているようだった。
ふと肩の力を抜いて、皇帝は座りなさいとタースに指示した。タースは隅に設けられた自分の席に座った。
「あの日は、レスカリアを発って二日目だった。いつもどおりの朝だったはずが、ユナは姿を現さなかった。勤勉な子でな。お前より二歳ほど年下で、物静かな子だった」
皇帝は机の引き出しから、一枚の写真を取り出した。
「以前、初めて我が国にライトール人の新聞記者とやらが訪ねてきた時に、記念においていったものだ」
「!それって、ダルクさん?」
「ああ、確かそんな名前だった」
タースは写真を受け取るとじっと見つめた。ランプの灯りの下、数年前の写真は少し変色しかかっていたが、確かにダルクさんと皇帝陛下、隣に小柄な目の大きな少年が写っていた。ダルクさんが、探検家の友人を探しに来たときのものだ。
「知り合いか」
「お世話になりました」
「ふん」
不思議な縁だ。
目を細める少年を皇帝は見つめていた。
「これが、ユナですか?」
「そうだ。タース、ユナが落とされたのは自明の理だ。飛行船の中、忽然と行方が分からなくなった」
「じゃあ、犯人は!?」ジファル、の顔をタースは思い浮かべている。
「事を荒立てるわけには行かないのだ。犯人の目星はついている。だが、タース。今この飛行船に乗っている側近の中に犯人がいる。そのものは、反政府組織の手のものということになる。目的も、人数も不明な上、身動きの取れない飛行船の中。犯人を追い詰めることが必ずしも得策とは言えん」
そうか、と浮かしかけた腰を再びイスに下ろして、タースはうつむいた。
「ミレニアはな、可愛がっていたユナを失ったことで苛立っている。私もミレニアもシデイラの民。ユナの想いが残っていれば見つけられる。しかし、それを探しまわれば、船内は不信感で満たされる」
「!じゃあ!僕が探します。僕も少しならユルギアが見れるし、僕があちこち探しても誰も気にしない」
「…そうかな?」
「あ…」
一人だけ。
タースの行動に目を光らせている人物がいる。ジファルだ。
タースの中で一番の容疑者候補だ。
「あの、僕」本当は密航者で、ジファルに脅されて。
そう打ち明けようと顔を上げたタースに、皇帝は首を横に振った。
「お前は関わらずともよい」
「あの、どうして僕がその、本当だったら異国人の僕が一番怪しいのに。教えてくださるんですか」
本当のことをまだ、話していないのに。
皇帝はふと目を細めた。
「私はほぼすべての思念を読むことが出来る。人の考えが分かるわけではないが、強い思念はその人間から吐息のように淡い痕跡を残す。誰でも口調や表情、態度から相手の想いを想像することができるだろう?感情を言葉に表さずとも相手には伝わる。それが思念の力というものだ。それを感じ取れる力は人によって違う。私はその感覚が鋭いのだといえる。お前のように強い思念の力を持つものは絶えず想いを振りまいて歩いているようなものだ」
「え…」
タースはシーガが似たようなことを言っていたのを思い出した。

「お前ほど考えていることが分かりやすい人間はいない。それにな。お前は私と同じ悲しみを背負っている。目の前でルリアイを作って見せたものはお前が初めてだった」
タースは頬を赤くした。皇帝の話を聞いて、思わず涙がこぼれた。それはそのまま蒼い結晶になってころんと転がった。
美しい青だと皇帝は笑い、慌てて涙をぬぐったタースの頭を何度もなでた。

ユルサナイ。

想いがこみ上げてくる。
押さえ込もうと目を閉じたタースの前に皇帝が立った。
慌てて立ち上がろうとするタースの額に、そう、まるでシーガがよくしてくれたように皇帝の手が当てられた。
「いずれ、お前の抱える想いが、晴れるといいのだが」
暖かい手に不思議とタースは気持ちが落ち着いた。
同時にまぶたが重くなる。
「もう、寝なさい」
皇帝の言葉に黙って頷くと、タースは自室に戻っていった。

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ユミさん♪

ありがとう~♪
はい~皇帝陛下、危険人物です(笑
ダルクさん、忘れられないようにちょこっと顔出しです♪
いずれね、がんばってもらいますから。

思念を読まれちゃうことはちょっと怖いけれど、タースくんの純粋な
気持ちやストレートな考えを分かってくれる人がいて嬉しいな~と思います♪

ユナさん、かわいそう。そのうち、その人物は、タースくんも狙いかねない
のでは?!
タースくんのことだから、慎重に動くと思うけど、気をつけてね!って^^;

ダルクさん、久しぶりのお名前拝見、嬉しかったです。
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