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「想うものの欠片」第九話 ⑦


医務室は船とは思えないほど綺麗に整頓されていた。壁にしっかり付けられた棚に、一つ一つ転倒防止の箱に入った薬が並んでいる。
マルリエと名乗る船医の青年は、シーガの診察を終えると破顔した。
「いや、シデイラは初めてですけど、変わらないんですね」
「そうですか」
無表情なシーガにマルリエは服を着るように促す。
「ま、そう警戒しないで下さい。別にシデイラだからどうってものでもないんで。実を言うとね、僕はどうもレスカリア人が苦手なんですよ。あれに比べたらあんたたちは綺麗ですからね、ほっとします」
「レスカリア人、とは、どんな人たちですか?」
「まずね、肌がこんな、ほら、紅茶くらいの色をしていましてね。温かい気候だからか常に上半身は裸なんです。髪は薄い金色、目は茶色。大抵はこう、しっかりした骨格をしていましてね。教会にある戦いの神の像、あんな感じなんですよ。どう見ても我々のほうが進んだ文明を持っているのに、あちらさんのほうがずっと態度が大きくてね。ま、こっちは商売させてもらってるんで、文句も言えませんが。初めて渡った時に銃の携帯を禁じられてほんと、生きた心地がしませんでしたよ」
「銃も?何を禁じられているのですか?」
「武器の類はほとんどすべてです。ナイフくらいは許してくれるみたいですけどね。医療器具すらだめですから。何を恐れているのか知りませんが、あのままじゃレスカリアはちっとも進歩しないですよ」
青年は記録をノートに書き込みながら、肩をすくめた。
医療に携わるものとして、その研究や成果には少なからず誇りを持っている。だからこそ、受け入れようとしないレスカリアが理解できないのだろう。
「じゃ、次はあの子を」
シーガは立ち上がると、カーテンの向こうで大人しくソファーに座っていたミキーを呼んだ。
「あの、シーガさま」
少女は不安そうに二人を見比べる。
シーガはミキーを診察用のイスに座らせると、肩に手を置く。緊張した面持ちの少女は長めの袖から出た指先をいじいじと膝の上で動かす。
「マルリエさん、彼女は少し変わっています」
「え?」


翌日、熱を出したマルリエの代わりに料理をしながらポンスはぼやいていた。
「あのバカ。うわごとで女神がどうの、神秘がどうのって笑ってやがる。自分こそおかしな熱病に感染したんじゃねえか?」
「船長、このスープ食わせればマルリエの目も覚めるぜ」
船員の一人が顔をしかめながらスープから顔を上げた。
「なんだ?文句ある奴は食うなよ」
じろりと睨まれ、濃すぎるスープに我も我もと水を注ぎかけていた男たちは縮み上がった。
シーガは船長の忠告に従って食べるのを諦めたらしい。果物だけ頬張りながら男たちが苦戦してでも食べようとする姿を眺めていた。

船員たちの切なる願いが叶い、マルリエが起きられるようになったのは次の日の午後だった。甲斐甲斐しく世話をしていたミキーが真っ白いエプロンをつけてそのことを船員に告げたときには歓声が上がった。
幾人かがミキーに抱きつこうとし、シーガはすばやくそれを阻止した。
これ以上、病人を増やすつもりはないのだ。上陸できなくなっては意味がない。


マルリエはミキーの正体を知り、それでも信じられずに診察した。脈もない、絹の皮膚、綿の入った柔らかな手足。魅力的な容貌と神秘的な存在にひどく感動し、そして倒れたのだ。
目を覚ましたとき再びミキーの頬に触れようとし、シーガに冷たくあしらわれた。このことは秘密ですよと念を押され、マルリエは嬉しそうに頷いたのだ。
「しかし、不思議です。ユルギアの存在は噂くらいで迷信だと思っていました。教会も否定していますよね」
ミキーの入れた温かいミルクを飲みながらマルリエは少女の動きを視線で追っている。
「否定しているのはロロテス派だけです。本来の教え、ミーア派の教えではユルギアは通常どこにでも存在しているもので、悪しきものでも怖いものでもない。雑草と同じだといいます。ただ、シデイラを迫害した二百年間に、シデイラと同様ユルギアも悪しきものの代表にされてしまった。すべてのユルギアが人々の目に触れるのなら信じてもらえるのでしょうが。実態を持つユルギアはそう多くありません。レスカリアにもミキーと同じ、実体を持ったユルギアがいるようです」
「ああ、それでレスカリアに?」
「……ええ、それもありますが」
ユルギアや教会の話は饒舌な青年が、いいにくそうに言葉を濁した。マルリエはじっと見つめる。シーガは視線をそらし小さく息をついた。
「ああ~、しかし、そう思うとすごい国ですね!僕も見てみたいな、ユルギアが見えるなんてね。医学では分からない、不可思議なもの」
どうやらマルリエの中でレスカリアの地位は上昇したらしい。
何に価値を見出すのか、そこがレスカリア帝国とティエンザ王国とは違うのだろう。

時を止めた永遠の国、以前ファドナ聖女が語っていた。
ファドナはレスカリアに赴くたび、何かしら感銘を受けて帰ってきているようだった。古きよきものを残そうとするミーア派の聖女らしい感想でもある。
ティエンザのガネル辺りでは、違う思いを抱いていただろう。

文明を嫌う、レスカリア帝国。それが何故、鎖国を解き、定期航路まで結ぶに至ったのか。シーガはそこが解せない。

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