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「想うものの欠片」第九話 ⑨


「皆、聞いてくれ」
テーブルの牡蠣の燻製と魚のグリル、豆と肉のトマトスープ。ジャガイモのサラダにチーズトースト。芳しい料理が並べられた中、船長のポンスがかしこまった挨拶を始めようとしている。
が、それに集中しているものは少ない。男たちは自分の杯にワインだ、麦酒だ、と夢中になっている。
「聞け!」
ポンスが椅子を蹴った音で一応視線を集めた。
「明日の午後にはレスアリアだ。今夜が最後の晩餐って奴だな。今回の航海は綺麗な客を迎えて楽しかった、だろう?お前ら」
おー、と歓声が沸く。誰かがミキーを船長の隣に引っ張ろうとし、シーガは寸前で少女の腕を引いて、立ち上がる。
「ここで会ったのも何かの縁だ。だんなたちに海の女神の加護がありますよう!」
おー、と。男たちは手にした杯を持ち上げた。
シーガがありがとう、とポンスに礼を言ったときには皆はすでに目の前のご馳走に向かっている。
「ほら、シーガさん、飲んでくださいよ。俺たちは荷を降ろしたら国に帰るんです。その後はしばらく渡航禁止ですぜ」
「そうでしたね」
シーガは注がれるワインを見つめる。当分は戻れないのだ。
「ポンスさん、ティエンザでは戦争が始まるという話です。お気をつけて」
「あんたこそな。レスカリアの港町は何にもないが、女の一人二人は紹介できますぜ」
「え?」
ポンスはさらにシーガのグラスにワインを注ぐと肩を寄せるように近づいてにやりと笑った。
「あんた、経験ないんだろ?」
「は!?」
「隠さなくたっていいぜ。ほら、飲めよ」
隠すも何も、なぜポンスがそんなことを思い込んでいるのかが分からない。酔っているのか口調まで変わっている。
「あんたなら女どもも無料で喜んでしてくれるだろうよ。レスカリア人はな、肌は濃い色だが乳はでかくてね」
言いながら自分の胸の前で形作ってみせる。
「ポンスさん」
「遠慮することはないさ、手続きが終わったら案内してやるぜ。細身とぽっちゃりとどっちがいい?」
「ですから、必要ありません」
「何言ってんだよ、海の男には女神が必要さ」
「いえ、海の男ではありませんし」
どうやら、先ほどからシーガに注ぐのと同じタイミングで自分のグラスも空けていたポンスは酔ってきているようだ。
シーガがまったく酔っていないことにも気付いていない。
「ああ?男じゃない?」
「え、いえ海の男ではないと」
「じゃあ、女か」
「いえ、ですから」
「おい!マルリエ!てめえ、ちゃんと診察したんだろうな」
どうやらあまりいい酔い方ではない。シーガはさっさと離れようと身を翻すが、目の前に別の船員が首をかしげ顎に手を当ててじっと見つめていた。
「あの…」
「船長!シーガさんは綺麗です!」
とマルリエも酔っている。ミキーをそばに置いて上機嫌だ。ミキーの存在のためか男たちのほとんどがソチラに集っている。
「どれ」
ポンスが背後からシーガに抱きつこうとする。が、振り向きざまの肘打ちで次の瞬間には床の固さを確かめることになった。
派手な音に、室内は静まる。
「いて~」
「酔っ払いは嫌いです」
乱れた前髪をかき上げ涼しげなシーガ。隣に立っていた男がポンスを助け起こそうとしながら睨んだ。
「あんた、ここまでしなくてもよお」
「ぷ、ぷははは」
笑い出したのはポンスだった。床に座り込んだまま、腹を抱え、足をばたばたする。そのうち自分を助け起こそうとした男に寄りかかってしがみつく。その間もずっと笑い続けていた。
「おいおい、船長」
「また始まったぜ」
誰かが言うと、皆が寄ってきて、笑い続けるポンスを引っ張り起こす。数人で肩を貸して歩かせる。
「ああなると止まらないんでさ。笑い続けて、そのうち寝ちまうんだ。ここで寝られても困るんでね、笑っている間にああして部屋まで運ぶんです」
船員の中で一番の年長者と思われる男がシーガに言った。
「明日到着ですよね、大丈夫なんですか」
「あれだけ酔ってもね、次の日には憎らしいくらいケロリとしているもんさ。皆そうだ、俺たちは汗をかく仕事だ。酒なんざ、朝の甲板掃除で全部流れちまうのさ」

「ミキーも綺麗ですの?」
「ああ、とっても素敵だ」
不意に耳に入る会話。マルリエとミキーは椅子を並べて楽しそうに話している。
シーガは初老の男に挨拶し、ミキーのほうに向かった。
「シーガさま」
ミキーが嬉しそうに立ち上がるとシーガの手を取ってその周りをくるりと回る。
「さ、どうぞどうぞ」マルリエはミキーの座っていた横にもう一つ椅子を置いた。
シーガに座れというのだろう。
「どうぞ、まだ、食べてないんじゃないですか?ほら、せっかく作ったんです、食べてください」
「マルリエ、体は大丈夫ですか」
「ええ、あなたの忠告どおり熱が出たときには本当に感動しました。あまり詳しくないので、船内にあった書物をあちこち引っ張り出しましてね。寝ている間退屈だったので、いろいろと勉強しました」
青年は医師の免許を取るために働きながら学校に通っていたという。その時に料理屋で働いていたために、この船にはちょうどいい、料理人兼船医が出来上がったというわけだ。
シーガが隣に座ると、ミキーが目の前にワインのグラスを置いた。
「あなた、銀聖、と呼ばれる方なんですね」
酔っていると思ったマルリエは、案外素面で悪戯っぽく笑って囁いた。
室内は片隅に一人眠り込んでいるのと向こうのテーブルでカードに興じている三人だけで、後は船長の世話に席を立っている。
「隠さなくてもいいでしょう?」
「ええ、そうですね。私は教会からどの街にも国境にも、自由に出入りできる権利をいただいています」言いながら、それがなんともちっぽけな肩書きであると感じていた。
もともと「銀聖シーガ」などという二つ名も呼びたいように呼べばいいという程度のものだったが、その特権も今や彼の助けになるものではない。
「やっぱり、そうなんですね。なんだか憧れるな。いろいろな街を旅したんでしょうね。僕は、金のために医師の免許を取ったんですけど、本当はいろんな世界を旅したくてね。理想はさすらいの凄腕医師なんですけど」
「さすらいですの?」
ミキーが目を輝かせる。
「そう。カッコイイだろう?」
タースが聞いたら怒りそうなものだが、それについての感想をシーガは口にするつもりもない。一見軽薄な若者らしい様子だが、船の中で食と医療に携わるのは簡単なものではないだろう。現実の困難を知るからこその軽口なのかもしれない。
ミキーがいつもの調子でかっこいいですの、と相槌を打つのでマリエルは嬉しそうだ。
「あ、そうそう。シーガさん。ポンスさんね、ちょっと変わった趣味で。男好きなんで、気をつけてくださいね」
「え?」
「特に綺麗なのが好きだから。あんなに浮かれて酔っ払うのもあなたがいるからです。嬉しいんでしょうね」
「…私は嬉しくありませんよ」
シーガが眉を寄せるので、マルリエは肩をすくめてまた目の前のサラダを口に運んだ。
「ま、明日にはレスカリアです。珍しいものでも見たと思ってください。…はぁ、でも。なんだか、淋しいですね」
マルリエは先ほどからミキーをじっと見つめていた。
「ね、ミキー。僕のこと、忘れないでね」
「はい」
「ん~!!可愛い!!」
やはり酔っているのかもしれない。
マルリエが両手を広げて立ち上がったところで、シーガはさっとミキーの手を取って引き寄せた。
危うく、上陸許可を逃すことになるところだったのだ。

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松果さん♪

ああ、すっかりコメントのお返事が遅れていた~(><)
返事より先にオーリとステフが気になっていたり(笑
だって、いいところなんだもん♪

レスカリア…これまでとは違う国です。イメージがわきにくいかもですが。いや、がんばります!!

んも~!

マルリエさんたら、「ミキー熱」を出したくせに懲りないなぁ(笑)
ちょっと危ない趣味の船長さんといい、気のいい人ばかりだったね、この船は。
さて、上陸近し。どんなところだろうレスカリア…
シーガにとっても冒険、ですね♪
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