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「想うものの欠片」第九話 ⑪

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深い青の波間に、ちらりと白いものが見える。スープに沈んだジャガイモのように、ぼんやりとするそれらは海の中でかき混ぜられたように浮こうとしたり沈んだり。いくつもいくつも流れていく。
「お魚ですの!?」
ミキーが口を両手で押さえた。
船員も、シーガたちも厳しい表情でそれを見ている。
「…一つ、拾い上げてみますか」
年長の船員がポンスに訪ねる。
「…ああ、網ですくうだけだぞ、触るなよ。何があるか分からん」
すぐに数名が船尾のほうに向かい、興味深げにミキーもそれにくっついていく。
見送りながらシーガは空を見上げる。
何か大きな力がゆがめたような雲の切れ目。そして、海上に立ち上る煙。派手な津波。手すりに寄りかかって目を閉じ、かすかな音を聞こうと耳を澄ませる。

海の生き物の小さな声、悲鳴のような甲高い音。あちこちで危機感を訴える。それはシーガは聞いたことのあるものだった。陸上であれば、森に住む生き物や村の家畜が生命の危険を感じて発する音。
声であったりうなり声であったり。
「地震、に似ています」
何か、海底で起こったのだ。地震のように大地を揺るがす何かが。

「きゃ」
ミキーの声に目を開いて、シーガはふと傍らのポンスに気付く。
「あの?」
じっと見られていることに眉をひそめると、ポンスがニヤと笑って肩に置いていた手を離す。
「いや、すごいね、海の声が聞こえてるんじゃないかって思ったぜ」
「…海ではなく、海に生きるもののユルギアです」
ポンスは目を丸くした。
「ユルギアってのはそんなとこにもいるのか。そしたら、あんたたちシデイラは海や山、この世の生き物全部と話しが出来るわけか」
感心したように顎の髭をざしざしとなでる。
「ああ、そういや聞いたことがあるぜ、シデイラの神様はこの世のすべてとか何とか。そのときは意味が分からなかったが、海やら山、ケモノとか魚とか、そういうもんの声が聞こえるんなら分からんでもないな」
シーガはじっとポンスを見つめた。
シデイラの教え、シーガ自身も直接教えられた覚えはない。タースのほうがよほど詳しいだろう。シーガはあくまでも、教会のミーア派の教えを受けてきた。
「わかるのですか」
「ああ、俺たちはさ、海に暮らすだろ。波や風、潮の流れ、そして天候。運任せのことも多い。なんていうかね、嵐から無事戻ることが出来れば、神さんじゃない、海に感謝している。総じて、俺たち海の男はそれを海の女神様って呼んでいるがね」
海に祈る。風に願う。
自然と共に生きるものは自ずとそうなるのだろうか。
シデイラが、通常シーガほどの感覚を持っているのかは、シーガには分からない。だが、少しでも植物や魚、生き物の想いを感じ取れるなら、それが信仰の対象となることも頷けた。
ふわりと風が頬をなぶる。
海には近づかないようにしていた。港が嫌いだったからだ。雑多な人間の思念が煩いと感じていた。けれど、それが気にならなければ海からの生き物の静かな思念は心地よいものだ。これまで、気付かずにいた。
常に人の思念に惑わされていたからなのか。聞こえることが、普通でないことが嫌だったから、感じ取ることを拒絶していたのかもしれない。
受け入れてしまえば、自然界に満ちている生き物の想いは生きる力にあふれ、シーガの心を癒してくれる気がした。
夕日を見て美しいと思うのは、それらに癒されるからなのかもしれない。
ふと、かつて港町ポオトで夕景に見入った時の、不思議な苛立ちを思い出した。あれは、美しいと感じ、自然のユルギアに癒されることを恐れたからかもしれない。
あの頃に比べ多くを受け入れられるようになっていることに、シーガは気付いた。
「オトナですの」ミキーの言葉が思い出された。

ポンスは何か自分には見えないものに心を奪われている様子のシーガを眺めにやりと笑う。肩に手を回す。
「海の女神さんがあんただって言われても俺は信じるぜ」
受け入れられないものもある。
シーガはポンスの手をしっかりつねると、ミキーの方へと向かった。白い薄手の夜着がはたと風をはらみ、湿り気を帯びた風が耳元をくすぐる。
「いたいなぁ、女神さんは」
結局、背後に船長を従えた状態で、シーガは引き上げた魚を囲む男たちの輪に加わる。
「どうなっているんです?」
「こりゃ、ひでえよ」
網の中の魚の屍骸は片側が白く変色しえぐれている。それでもまだ、それは生きているかのようにピクリと体を震わせた。
「これ、熱傷、つまり焼けたんですね」マルリエが冷静な口調で説明した。
「焼けるって、海の中でか?」
「海底で、火山が噴火したのではないですか?」
シーガの言葉に半数は成る程と頷き、半数はなんじゃそりゃという顔をする。
「そうだな、俺も聴いたことがあるぜ」ポンスが船員に説明した。
「いいか、海の中も陸と同じ、山や川みたいな地形がある。で、海の中で火山が噴火するだろう?そうすると、溶岩にあたった海水が一気に蒸発して、爆発したようになるんだ。それが、さっきの派手な突風と、津波になったんだな。で、その巻き添えを食った魚がこうして潮に乗って流れてきている。小さい規模のものは以前見たことがある。そのときは津波にはならなかったがでかい水柱が立ったんだ」
へえ、と感心して皆が腕を組む。
「あの煙だ、まだ噴火は続いているんだ。潮の流れも風向きも変わるぞ、後半日なんだ、お前ら気を抜くなよ!」
双眼鏡を片手に、ポンスは船員たちに指示を始める。

「可哀想ですの」
ミキーが海に返される魚を見つめていた。
「一瞬にして、多くの魚が死んでしまったのです、ミキー。可哀想だと、思いますか」
「はい。タースならきっと涙をこぼすですの」
シーガはふと、目を細める。ミキーの感覚の基準がタースになっている辺りが面白い。ただ、いくら感情の起伏の激しいタースでも、魚を見て泣きはしないだろうと思えた。タースならきっと少女の肩に手を回し、海を眺めて慰める。海の中で繰り返される生き物の一生を語りでもするのかもしれない。

「タースに会いたいですの」
ここしばらく言わなかった口ぐせのようなそれを思い出したのか、ミキーはシーガにすがりつく。
「タースは、レスカリアに到着できたのでしょうか」
遠く、立ち昇る噴煙を眺め、シーガはかすかに風に混じる灰の匂いに鼻を覆った。


目指す島国の姿が、町並みが分かるほどに近づいたのは昼を少し過ぎた辺りだった。先ほどの噴火の煙は空の雲と一体と化し、空全体が霧のような灰色のベールをかけたように濁っている。
レスカリアは島全体がすんなりした山の形を成している。海から突き出した三角形のそれは優美な曲線をもつ。山の頂上はかなりの高さのようで、煙った空の中ではかすかに見えるだけだ。島に近づくにつれ、海底は近づいて、時折不可思議な四角いカタマリが海から突き出ていた。女性の形をした石造のようなものもあり、巨大なそれの被るとがった冠の柱の間を魚が悠然と泳ぐ。
海中は透き通った美しい青に濁った流れが帯状に絡まり、紅茶に落としたミルクのようだ。
濁った中を進むのは危険と判断し、ポンスは船を停めた。まだ、島まで随分距離があったが、この船で近づくのも限界なのだろう。碇が下ろされ、船は潮の流れに逆らってぐんとその位置に留まった。
「あれが、先ほどの火山ですね」
シーガが指差す先。
彼らから見て、もう少し南の沖。島との距離は、船と差して違わない。随分近いところだ。今は冷えて固まった溶岩が小さな岩山のように盛り上がり、そこから黒い煙を巻き上げる。巻き上がった煙からは黒い霧のように灰が降り注ぎ、風に流されたそれが船の周囲の視界を奪っている。濁った霧の中、船員たちは皆口元に布を巻きつけて、頭からタオルを被り保護している。吸い込むと苦く、胸が痛むからだ。
「シーガさん、船室で待っていたほうがいいですよ、ここでは灰だらけになりますよ」
目だけ出しているマルリエが、黒いシャツに白い灰を被った青年を引っ張って船室に連れて行く。
服が汚れるのを嫌がったミキーはすでに食堂で飲み物を飲みながらくつろいでいた。
シーガも着替えて顔を洗うと、いつもどおり涼しげな美青年に戻る。
マルリエが入れてくれた温かいココアを受け取ると、ミキーと並んでカップを両手で抱えた。二人が同じポーズだとマルリエにからかわれた。
「マルリエ、来たぜ」
船員の一人が顔をのぞかせて、灰を振りまきながら顎で上に来いと合図した。
片手を上げて、青年医師は椅子から立ち上がった。
「どうやら、レスカリアの警備艇が来たみたいです。シーガさん、下船の準備は?」
「ええ、出来ています」
「じゃ、最初のボートで行ったほうがいいでしょう。荷物を運搬するのにはあと五、六隻は待たなきゃならないんです。荷の点検と人員の点検が済めば、乗せてもらえますよ」
「ありがとう」
「さ、甲板へ。帽子とタオル、忘れないで下さいね」
「またあの埃の中ですの?」ミキーが口を尖らせる。
「ミキー、タースに会いたいのでしょう?」
「…ですの」
ミキーはお気に入りなのにとぶつぶつ言いながら、真っ白なレインコートを羽織った。フードつきのそれは、少女の体を灰からしっかり護ってくれそうだ。どの船員より重装備だろう。

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史間さん♪

ええ、世界を崩壊に導こうとしています、私♪
シーガ、二十五。
経験は…むふ。
どうでしょう?
試してみる?(朝から…^^; まずい、大人可愛いがコンセプトなのに。

なんてこと!

(やっぱり我慢できないで途中コメする人)
戦争に、レスリアカ付近では海底火山!
地殻変動は怖いですよ(ぶるぶる)
ユルギアが関わっているから、自然現象にも不安になります。
船の皆は楽しいですな~♪

シーガ、二十五ですか。よし、いっちょ男になっといたほうが(こら!)
王子にそんなことけしかけちゃ、ね。
Secret

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