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「想うものの欠片」第十話②



「何か召し上がらないと」
ミネアの声に聖女は臥せっていた枕から顔を上げた。
ここ、ライト公領の大公の別邸に保護されてから半月が経っていた。
保護というより、幽閉だとファドナ本人も分かっていた。

もともと、大公リュエル三世の血筋とは馬が合わない。あの一族の誰もに感じる、どこか浮ついた心根をファドナは好きなれないのだ。リュエル三世にはそれとなく援助をされ、そばにいるようにと言われていたが。大公と男女の関係になるつもりは毛頭なかった。
大公と教会の大司祭。それはこの国の権力を掌握する二人でもある。故に教会全体に及ぼす影響を考えれば不用意な火遊びで泥濘に沈むようなまねはできない。

しかし、大公が死んでしまってからというもの、どうにも気分が臥せっているのは自分自身説明が難しかった。
大公が亡くなってから後を継いだトエリュは、ファドナが大公を失って心神喪失であると決め付け、こうして閉じ込めている。それに対抗するためにはしっかりしていなくてはならないのに。
どうにも、夕闇に心も沈むのだ。
行方の知れないシーガのことも気になっていた。

「さ、ファドナ様。お食事は進まなくても、甘いものならどうです?お好きでしたでしょ?メイジ亭のチョコレートケーキですよ」
ワゴンに体を向け、ポットから注ぐ熱いコーヒーの香ばしい香りが漂う。カチャと心地よく磁器を響かせ、ミネアが振り向いた。
亜麻色の髪を綺麗に結った女性は、芯の強そうなしっかりした鼻筋と大きな緑の瞳をもつ。スレイドの婚約者でもある。

はあ、とため息をついてファドナは体を起こした。
肩からずり落ちた絹のカーディガンを調えると、テーブルの脇の華奢な白い椅子に腰掛けた。
すぐさま目の前に美しい白磁の皿とカップが供される。こっくりとしたチョコレートの色と添えた赤い果物。コーヒーにはあわ立てたクリームが添えられていた。
「ミネア、お前にも悪いことをしましたね」
「ファドナ様?」
「この時期にスレイドをティエンザに送るなど、なんと間の悪いこと」
「大丈夫ですよ、ファドナ様。あの方はどんな状況でもご立派に勤めてくださいます。きっとシーガさまをお守りして、今頃はもうこのライトールの地を踏んでいらっしゃるかもしれません」
「それならよいのですが」
ため息交じりの聖女がとりあえずカップを口元に運んだ時だった。
コン、と硬い音が響く。

「あら、どなたかしら」
ミネアが慌てて扉の前に駆け寄った。
開く前に、それは向こう側から開かれる。
「!ミネア」
目の前の黒衣の男は目を丸くして、不可思議な表情をして見せた。
「スレイド様!」

どちらかというとやせ気味のスレイドに、ふくよかなミネアが抱きつくと、不意を突かれた男は二歩よろけて下がる。
「お会いしとうございました」
甘い焼き菓子のような香りをさせるミネアにスレイドは帽子が落ちたことも気付かず目を白黒させている。肩から飛び離れたカラスは、そのままファドナの冷たい視線に気付いてソチラへと羽ばたいていく。
「み、ミネア、お前がここにいるとは」
「大公様がなくなってから、こちらでお仕えすることになったのでございます。スレイド様、ご無事で何よりです。お疲れでしょう?私の部屋で旅の疲れを落としてくださいませ。すぐに湯を沸かしますので」

柔らかな体を男に摺り寄せ、ミネアはスレイドの短い髭をさわとなでる。最後に会ったのはタースに出会う直前だった。小柄な婚約者は常に影の存在である男に唯一明るい陽の光を当てる。こうしているとごくごく普通の恋人同士。
その普通さがスレイドには不可思議でならない。
闇色に自らを包み隠す男には、ミネアは眩しい。

「おいおい、ミネア」
「お痩せになりましたね、それに潮の香りですか、少し服がべたべたしています。そのまま聖女様の御前にお出になるおつもりですか?さ、どうぞご一緒に」
「ミネア、君は仕事中では」
眩しさに目がくらむ間にスレイドは廊下に押し出されている。
「ファドナ様、少し失礼しまして。またすぐ、お伺いいたします。お急ぎのことは何なりとお申し付けくださいませ」
華やかな笑みを浮かべてミネアは深々と頭を垂れると、すぐさま黒尽くめの男と扉の向こうに姿を消した。慌ててタンラが扉に飛びつくが、それはすでにぴったりと閉められていた。

「グカ~」
悲しげに扉の前で首をかしげる。
「お前も、置き去りですね。チョコレートケーキ、食べますか」
やっと、我に返った聖女は情けない様子で扉をつつくカラスに声をかけた。
タンラはちらりと片目で聖女を見つめ、無視して再び扉を睨んでいる。

「あら、可愛くないこと。あなたのご主人のほうがよほど可愛げがありますよ。あれほどの男が、ミネアにはいいようにあしらわれる」
なんとなく面白くなくなって、ファドナはケーキを頬張る。むせかけてコーヒーを飲み干した。
「まったく。まるでスレイドが自分のものと言わんばかりの行動よね、悪気がないところが腹立たしい。スレイドもスレイドよ。報告もせず、婚約者といちゃつくなんて。どういう教育を受けたのかしら、…あ、私だったかしら…」
腹立ち紛れに目の前の甘いものを一気に片付け、いつの間にか聖女は普段の自分を取り戻していた。

それにしても、不思議なものだった。
常にどこか世をすね、皮肉っているスレイドが、なぜかあのミネアには弱いらしい。いつもの軽口も影を潜め、ミネアのペースにはまるのだ。どこか憎めないところのあるミネアは、的外れな感覚と同時にひどくたおやかな繊細さを見せる。強引に自分のペースに巻き込む魅力を持っていた。
自覚はないだろうが得な性格。
何の地位もなく、ただ日々を誠実に生きる。女性として、愛する男を大切にし尽くす。子をもうけ、育てる。それが幸せなのだと悪気もなく見せ付ける。
彼女にかかればスレイドもただの男。家庭のために働き、妻の食事を楽しみに帰途に着く。そんな男に成り下がるように思えた。これでスレイドがごくごく普通の父親になるようであれば、とてもつまらないとファドナは身勝手な感想を持つ。

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松果さん♪その2

リレー小説の。
ありがとうです~(^^

お返事遅くてゴメンナサイ♪
やっぱりID必要なんですね…くすん。リンク、あれこれがんばってみたけど難しいですね~。

なかなか、コミュもきちんと参加できないのだけれど。
刺激になって楽しいので続けたいです~!

松果さん~♪

コメありがとう!
そう、男は可愛いところもなくっちゃ♪
メイジ亭♪女性は弱いですよね、こういうのに(^∇^)
今回はスレイドさんメインです♪
見届けてやってください!

スレイド:…なんか、縁起悪いな…
らんらら:作者として応援してるんだよ
スレイド:それが縁起悪いっての(お札を取り出す

ほほぉ~

スレイドさん久々登場~と思ったら、可愛い面も見せるんだ。
なるほど、待ってた人が居たのかー。強面スレイドもたじたじなるなんて、ミネアさん強し。
「メイジ亭のチョコケーキ」には笑ったなあ。おいしそ。
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