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「想うものの欠片」第十話③



将来をつまらない男と決め付けられたスレイドは、熱を帯びた体をぬるま湯でなだめていた。綺麗に整えられたバスルームと寝室をと仕切る薄い絹のカーテンの隙間から、ベッドでくったりと裸体を横たわらせ、枕を抱きしめるミネアを眺める。乱れた亜麻色の髪が美しく白い背にかかる。
なんとも嵐のような女。
スレイドは会うたびそんな感想を持っていた。

彼女を評するものは大概大人しく従順、というだろう。
だが、気付けばミネアのペース。人を振り回す才能があるのだ。自覚がない分、スレイドの理解を超えている。これが高級娼婦なら屈折した駆け引きを楽しむことも出来るが。ミネアは常に自分を下とし、スレイドを陰で支えようとする。その態度とは裏腹に心は見下しているのではと思うときもあるが、腕の中に捕らえれば従順で可愛らしい生き物に姿をかえる。

先程までのミネアの甘い声を思い出しかけ、振り払うように数回、湯を頭から被る。
ふと深い息をつく。
これから始まることを思えば、今はひと時の休息なのかもしれない。



「お見苦しいところをお見せしました。ファドナ様」
スレイドが再びファドナの前に現れたときはすでに聖女は、夕食を済ましていた。
「あの子はどうしたの」
「申し訳ありません」

肩をすくめて、ファドナはデザートを頬張る。
その肩に乗るカラスは、ちらちらとご主人と眼前の果物を見比べていた。
「まあ、いいわ。早く結婚して、家にでも閉じ込めておくのね。悪い子じゃないけど、仕事をするのは向いていないわ。召使には役に立たない」
「申し訳ありません」
「それより!シーガはどうしたの!一緒じゃないの?」

不機嫌を隠さないファドナは、ミネアの前とはまったく違う態度だ。
役に立たないという召使には優しい顔をし、誠実な部下には悪口雑言。それだけ、気を許しているということだろうと長年の付き合いのスレイドは聞き流す。

「シーガさまはレスカリアへと渡られました」
「な、もしや。お前は」
スレイドは予想通りの聖女の反応に、用意していた表情と返事を返す。
「話しましたよ。黙っている状況ではありません。ティエンザでは大司祭ガネルがシーガさまを利用しようとしていました。このライトールでも安全ではないでしょう」
「お前は、約束一つ守れないというのですか!?話したんですね?両親のことを」
聖女は話を半分も聞いていないようだ。
黙って床に膝をつくスレイドの足元に、スプーンが飛んできた。絨毯にぱつと跳ねると、茶色のシミを残した。

「おお、可哀想に!ショックだったでしょうね、どんな様子でした?あの子は、悲しんでいたでしょう?なのに、お前は一人逃げてきたのですね?まったく、共に育てたのにどうしてシーガに優しくできないのか。あんなに可愛い子なのにお前はいつも苛めてばかり」
その聖女の猫っ可愛がりが他の子供たちの嫉妬を買ったと、未だに気づいていない。
本人が知りたいことを隠し続けることが愛情だと勘違いしている。

育ててもらった、そんな恩を感じるシーガに、スレイドは同情すら感じる。
どこかに、いいところもあるのだろう。
だが、スレイドにとってこの女は何の価値もなかった。
その視線に含む蔑みを感じ取るのか、聖女はますますスレイドを嫌った。

「…悲しんで、おります」
「そうでしょう!あの子があんな無表情になったのも、幼い頃の悲しい記憶のせいよ」
「シーガさまではありません」
静かに、スレイドは瞳を上げた。
スプーンに映る歪んだ自分が脳裏に残っていた。
ふわりと黒い影が横切った。

肩に、くく、と喉を鳴らすタンラを感じた。
立ち上がってこちらを睨んでいる聖女に、スレイドは笑って見せた。

「間に合いませんでした。ですから、お聞きしたかった。あの方は、苦しまれたのですか」
ファドナが息を呑む音が聞こえるようだった。
静まる。

ただ、タンラだけが主人の首に慰めるように擦り寄る。

「教えてください。聖女ファドナ。大公リュエル三世はどんな最期を迎えられたのですか」

男の瞳に見据えられ、ファドナは蒼い顔をしていた。
喉元にナイフを突きつけられたように感じていた。
「私は、私は存じません」
「…」
あきれつつも、父の無邪気さを感じていた。ファドナへのリュエル三世の想い。それが届いていなかったことは、悲しいほど明らかだった。

「そうですか」
深く湿ったため息を、悪びれもせず吐き出した。それから、目を閉じた。


スレイドが次に聖女を見たとき、男はいつもの皮肉な笑みを口元に浮かべていた。
「ファドナ様、長い間、ありがとうございました。ご恩は忘れません」
「なに、スレイド、お前は」

「私をご解任ください。あなたにお仕えする身とあっては何かと身動きが取れませんので。ご心配なく、後任のものは手配しておきます。十分な警護の者もお付けしましょう。あなたは護りますよ。それはシーガさまとの約束ですからね。ですが。私は、あなたよりこの国の将来を案じています。大公が心を砕いたこの国の」

立ち上がったスレイドはその視線から聖女を見下ろした。
「私の出自は、どうかお忘れください」

鋭い視線、皮肉な笑みの下に隠していた迫力に、ファドナは返事が出来ずにいる。
スレイドはまさしく、生前の大公が議会で見せたあの力強い目をしていた。

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