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「想うものの欠片」第十話⑤



黒いカーテンを引かれた室内は、ランプの灯りだけで照らされていた。
最後に見たときより、トエリュは随分やつれたように見える。
自分より七つ年下の。血を分けた兄弟。

スレイドは深々と頭を下げながら、よどんだ空気の執務室にいいようのない緊張を感じていた。公太子トエリュはスレイドが挨拶を終えても、まだ目前のマシュマロをつまんでいた。一定の速度で食べ続けている。それでいて、張り詰めた彼の神経はか細く悲鳴を上げている。その全てをむき出しにし、包み隠すことも出来ないほど青年は緊迫していた。
彼も父親を亡くしたのだ。

父親に似ている凛々しい眉、母親に似たくるりとした長い睫を持つ瞳。愛される条件を満たす見本のような存在の彼。それを、今やスレイドは憐れに思っていた。正式な子であるからこその重責。そのために若い公太子は心身に深い重荷を背負っている。

いや、本来なら、それに耐えられるよう生きてこなくてはならなかった。そうなれずにいるのは父親を亡くしたばかりだからなのか、本人の性質なのか、周囲の責任か。
いずれにしろ、このままではまずいことはだれの目にも明らか、それでいて後見人のムハジクは知らぬ顔をしている。公太子が自滅するのを待っているのだ。

「ムハジク候、下がれ」

トエリュが言った。なにを急ぐ必要があるのか、せわしない様子でトエリュは傍らに立つ初老の召使から飲み物を受け取ると、一気に飲み干した。
ムハジク候がじろりと睨む。その表情は是としていないが、トエリュにそれを汲み取れるだけの視野はない。数瞬の間をおいて小さなため息を残し、彼の後見人は足音を立てて出て行った。

「スレイド・ル・ザルト卿」
スレイドは顔を上げた。
揺れるランプの灯りでトエリュの整った顔には深い影が差す。

「貴殿は父上の一大事に、どこに行っておったのだ」
責められるいわれはないが。スレイドはじっと青年を見つめる。
「ティエンザ王国へ、渡っておりました」
目を見開いて、トエリュはがたりと立ち上がる。

「お前は、お前は何か、知っているのか」
歩き出そうとする。しかし、おぼつかない足元。ふらついた青年をスレイドは慌てて支えた。
「エルさま!」
ジンジャーという大公付きの召使も駆け寄る。

「どうぞ、お休みください」女性の声音は悲しげに震える。
「大丈夫だ、私は、やらなければ」
うなされるように呟くものの、公太子トエリュの体に力は入らない。
スレイドは肩を貸し、歩かせる。
「トエリュ様、とにかくソファーへ。お座りください。ジンジャー、温かい飲み物を。酒は入れるな」すでに、青年は酒の匂いをさせていた。
「はい」慌てて女性は部屋を出て行く。

扉が締まる瞬間、ジンジャーが声を上げたのがちらりと聞こえた。
ムハジク候、そう聞き取れた。
ぐったりとするトエリュの額に手を当て、襟元のネクタイを緩める。

スレイドは音もなくふわりと立ち上がり、いったん扉の脇に体を寄せ外の様子を測る。人の気配がないことを確認すると、再び公太子の脇に膝をついた。

「トエリュ様、あなたはお父上の最期をご存知か」
低く静かに語るスレイド。トエリュは宙に視線を泳がせた。
「…ご覧になったのですね」

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