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「想うものの欠片」第十話⑥



「父上は、あの石に、魅入られたのだ。あのようなもの、あんなものに」

語りかけ途絶えると、苦しげな青年の言葉の続きはいくら待っても紡がれない。血走った眼とその視線の先に彼がその時の光景を映し出しているのは理解できた。

「…赤い石、ですね。あなたは触れていないでしょうね?あれは危険な石。贈り主のムハジク候はなんとおっしゃっているのですか」

かっ!と、トエリュは瞳を大きく開いた。血走ったそれは異常な様子に見える。
スレイドの胸元をつかみ、しがみつくように震えていた。

「あれは、あれは知らぬと。だが、諸侯が」
「トエリュ様。私はティエンザで石の研究をしているという大学を訪れました。危険な石です。それを承知で贈られたのです。よいですか。殿下。これまでどおり、彼に従うふりをなさってください。ムハジク候は利用できる間はあなたに手を出しますまい。殿下、私がおそばにお仕えします。かつてリュエル三世にはお世話になりました。ですから」
不意に青年は黒尽くめの男を突きとばした。

押しのける手がスレイドの頬をかする。小さな傷から赤い血がにじんだ。

「貴様は!父上とどんな関係がある!父上は、私より貴様を、認めていた…貴様は」
「大公にはお目をかけていただきました」
「何故だ、私はことごとく貴様と、なぜか貴様と比べられた!父上はいつも濁しておられたが、私には分かった。お前が新しい機械の知識を父上に与えれば、父上は私にそれを知っているかとお尋ねになる。貴様が婚約すれば、私に誰かいないのかと問われる。貴様と父上が人払いをし、二人だけで過ごした後には、父上はいつも上機嫌だ」

「トエリュ様。大公は厳格な方ゆえ、身内には厳しくあられた。常々おっしゃられておりました。トエリュ様は自分に似ていると。だからこそ可愛くもある。だからこそ、歯がゆくもあると。とても、大切に想われておりました。血のつながったご子息のあなたを、大切に思わないはずはありません。他者がどのように評価しようとも、大公はあなたを認めていらっしゃいましたよ」

「…私は、私はなにも、父上に何もでき、なかった…戦争など、そんな真似したくない、父上が喜ぶはずはないのだ!しかし…」

その思いは、スレイドにも分かる。いい人間であったかどうか、いい父親であったかどうかはともかく。よい大公ではあった。

「今は。とにかくお休みください。私は亡き大公より、事あるときは殿下をお守りするようにと。命じられております」

嘘だった。
そんなことを口にする男ではなかったし、まして相手がスレイド。誰に知られていなくとも、リュエル三世にとっては紛れもない実子。世が世ならトエリュと同じ立場でありえたスレイドに、そんなことを命じるはずもなかった。

「さ、殿下」
青年は小さく震えたまま、泣いていた。
だれの前でも、泣けなかったのかもしれない。
常に平然とし、気まぐれでわがまま。尊大なトエリュには、胸のうちを明かすことのできる友達はいなかったのだろう。まして周囲は政敵ばかり。誰かに取り入るような真似のできる性格ではない。
兄妹は歳の離れた妹が一人。その存在は責任を感じこそすれ、支えにはならない。
母親に死に別れている辺りもスレイドに似ていた。


コンコン、と扉が叩かれる。
「エルさま」
ジンジャーが盆にカップを乗せ入ってきた。

人差し指を口元に当て、静かにするようスレイドが見上げる。トエリュは静かに寝息を立てていた。それを見て涙ぐみながら、ジンジャーはスレイドに寄りかかるように目を閉じている青年に愛情をこめて「エルさま、どうぞごゆっくり…」とため息混じりにささやく。
二人がかりでそっとソファーに横たわらせる。
「国葬が終わってから五日。ずっと、お休みになっていないのでございます」
ジンジャーは、持ってきた二つのカップのうち一つをスレイドに渡した。
「ムハジク候は」
「殿下のご気分が優れないということでお引取りいただきました。スレイド様には後日お屋敷を訪ねるようにとのご伝言をいただきました」
応えるジンジャーの表情は硬い。怒りをかみ殺しているように思える。この大公のおそばに仕える女性が、事情に詳しく真実を知っているのだとスレイドは確信した。
「ありがとう」
スレイドは目を細める。

「あなたには、これからも殿下のお世話をお願いしたい」
「はい。あなた様は、あの」
「大公の亡き後は殿下にお仕えするよう、大公に命じられている。とりあえず、前線の様子を見てくる。あのムハジク候の足元をすくわなきゃならんからね、ことは慎重に」
砕けた口調にいつもの笑みを浮かべる男を、ジンジャーはいぶかしげに見つめた。
「で。お前に聞きたいんだが。あの赤い石。あれは今、どこにあるのだ」

ジンジャーの顔が青ざめた。
小さく震える。
「どうした、なにがあった?」

「あれは、恐ろしいものです」ジンジャーはふっくらした手を握り締め語りだした。

―――大公が倒れられた時にちょうど、私とトエリュ殿下は隣室にて茶を飲んでおりました。

物音で駆けつけたときには、すでに事切れていて。本当に突然でした。大公がお手にされていた赤い石は、床に転がっていました。

医師を呼び、側近の者たちが集り。亡骸を寝室に臥せ。その後、です。あの衿止めを手に取ったものがいました。側近の一人ウトレ様でした。

落ちて汚れたと想ったのでしょう、自らの袖で石の表面を拭かれました。そのすぐ後。綺麗になったそれをウトレ様は私にしまうようにと差し出されました。

不意にウトレさまの手が震え、衿止めは床に落ちました。ウトレ様は呻き声を上げられて。

右手首を押さえて座り込んでしまわれました。それはもう、ひどい苦しみようで。

身震いした。

――― 医師が袖をまくった時には、すでに手首から先が青黒く変色していて…あの後、切り落とされたと聞きます。まだ、容態も思わしくない様子で。

あの時、気付いた医師が衿止めに、特にその赤い石に触れぬよう命じられまして。

実は、それはまだ、あの部屋にあるのです。だれも触れることが出来ず。

恐ろしいことです。大公の死を知った幾人かの領主が、ムハジク候に詰め寄りました。

しかし、ムハジク候は知らないと言い張りました。
「私の贈った衿止めが原因だとするなら、それはティエンザから贈られたもの、私はそんなことは知らなかった」と。

そうして、怒りの矛先をティエンザへと向けたのでございます。

もちろん、怪しむものも大勢いました。ですが、だれも石に触れられませんし、その仕組みもわかりません。

そして何より、ロロテス派の領主は皆、ムハジク候に加担したのです。議会でトエリュ様の後見人と承認されると、議会の開催を無期限で停止し、軍隊の総指揮権を自らに移管しました。トエリュ様が経験のないことと、若年であるとの理由で。



大公の側近たちは何をしていたのか。すでに、ムハジクの根回しがあったのかもしれない。スレイドは幾人かを思い浮かべ、信頼のもろさに肩を落とした。

「そうなるともう、ミーア派や、大公に忠実だった領主たちも、軍隊を恐れて自らの領地にこもりました。華やかだったここライト公領も、軍の統制令が敷かれ、民も昼間の許された時間だけ外出を許可されるような状態です。トエリュ様は、何とか戦争は止めたかったのですが…」
搾り出すようにそこまで語ると、ジンジャーは深くため息をついた。

スレイドはその背をさすると、まだ温かいミルク入りの茶を差し出した。
「スレイド様」
「かつての側近たちはいずれ取り戻せるでしょう。ムハジク候の戦争好きは国を疲弊させますからね。それを領主たちは知っている。今は様子を見ようということです。まずは、石を何とかしましょう。あなたは、なるべくトエリュ様にムハジクを近づけないようにお願いします。とにかく、殿下の体調の回復を。ミネアにも協力させます。私はそれまでに出来る限り状況を改善して見せますよ」
スレイドはにやりと笑うと、懐から不可思議な機械を取り出した。
格子状に金属がつながっている、そう。マジックハンドだ。

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史間さん♪

おはようございます!
エル、書いているうちに愛着のわくキャラです♪
ムハジクとスレイドさん♪楽しい組み合わせになってますよ~♪
ご期待ください!

あああ!

出た、マジックハンド!
そうか、間接技ですね(字、違うって)。
おはようございます♪
エルの衰弱しきった様子が、本当に痛々しいです。スレイドが本当のことを彼に打ち明け、信頼できる身内として名実ともにエルと差さえあって国を動かしていく。そんな未来を期待せずにはいられません。
なんだかんだいって、エルは愛されていそうですし。
ムハジク、虎視眈々ですね。でも周囲への配慮が欠けている、なんというか、爪の甘い御仁だ。彼の暴走、どうなる!?

また来ます♪

ユミさん♪

ふふ。スレイドさん、すでに少し変だから(笑
平気平気♪
マジックハンドもがんばって直したんですよ…以前シーガさまをからかおうとして壊されましたから(笑

トエリュ。
軽薄我がままキャラはあんまり描いたことがないのだけど、書いてみて面白かったですよ♪スレイドさんきっと、憎めないんだろうな~なんて、一人で妄想走っていました♪

スレイドさん!!まさか、マジックハンドで拾い上げ??
いや、便利なものですね~。
でも、手を切断しなければならないほどのものなので、
その、マジックハンドを通して、変なモノがスレイドさん
に伝わらなければいいのですが!!

トエリュ、可愛そうに。
家族のことって、なかなか相談できないからなおさら、
辛かったでしょうね。
我慢、我慢で><


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