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「想うものの欠片」第十話⑦



甘い香りがしていた。あまりにも悲しい想いに、腹のそこが冷え切っているようだ。
トエリュは温かい毛布を再び頬に引き寄せ、目を閉じようとする。もっと深く眠れば、その寒さから逃れられるかのように。
毛布が取り去られた。
まぶしい陽光に眉を寄せた。体中がけだるい。

「エルさま」
耳に心地よい声だった。
聞き覚えのある。
は、と目を開き、公太子が起き上がると目の前に美しい女性、ミネアが微笑んでいた。
「ジンジャー様、エルさまがお目覚めでございます」

立ち上がろうとするミネアの手を、青年はつかんでいた。
「!?エルさま」

「エルさま、どうぞ、お静まりください」
半分あきれたような声を出すジンジャーに、ミネアに抱きついている青年は我に返る。
「あ、ああ、すまない」
「驚きましたわ、トエリュ様」

トエリュより五歳年上のミネアは恥らうというより面白がっているように笑う。確かに甘えるような抱きつき方だった。
子ども扱いされ、相手にされていないのだと、青年はチクリと想う。
目の前に出される食事に久しぶりの空腹感を覚え、青年はまず大きく伸びをした。
「ジンジャー、私は、あれから?たしかスレイドが来ていたな」
言いながら、ミネアの顔色を観察している。

「エルさま、あれから三日間、ずっと眠り続けていらっしゃいましたよ。お疲れだったのでしょうね。スレイド様は、ムハジク候と共に、北方へ。シモエ教区に赴いておられます」
「!?そうなのか?戦線に?戦場に送ったのか!」
青年は複雑な表情をする。

「大丈夫でございます。トエリュ殿下。あの方はご立派にお勤めを果たされます」
にこやかに笑うスレイドの婚約者は、グラスに飲み物を注ぐとマシュマロのような香りをさせて一礼すると部屋を出て行く。

そこは、トエリュの寝室ではなかった。彼の父、大公がつかっていた部屋だ。
それに気付くと、びくりと立ち上がりかける。
「大丈夫でございます、エルさま。あの石は、スレイド様が安全なところにしまわれました」
「!?だが!あれは触れられないのだぞ?」
「スレイド様がお知り合いの方に保管の方法をお尋ねになって。なにやら、ティエンザではあれを扱うための機械があるとかで。それから、陶器に鉛を混ぜた泥をいれ、そこに入れておくのが一番安全とかで」

トエリュには何のことか分からなかったが、ジンジャーは何かを持つ仕草をし両手を近づけたり離したりして見せる。それは、マジックハンドを操作する時の動きだった。
「ティエンザから、電報を受けたのか?今は、電報局は閉鎖されているのでは」
「いいえ、それが」

くすくすと笑い出す。
ジンジャーは面白そうに、部屋の隅を見やる。
そこにある、上着をかけるためのポールに、一羽のカラスが停まっていた。
「なんだ、あれは」
「あの、カラスが手紙を運んでくるのですよ。賢い鳥で。ティエンザからの連絡も、そして戦場におられるスレイド様から、ミネアさまにお手紙が。なぜかあの鳥はミネアさまがどこにいるのかを探し当てて。そのように躾けられているのですねぇ」
「…手紙?」
恋文か、と苦々しい気分になる。ロマンチックには程遠い配達人だが。
スレイドだから、奪いたいのではない。ただ純粋にミネアのマシュマロのような香りに惚れ込んでいた。この感情はどうしようもないものだとトエリュは考えていた。

「ミネア様も嘆いておられましたよ。手紙ではあなた様のご様子をお尋ねになるものばかりだと」
ぐらりと。
「揺れた!?」
「地震で…」
ジンジャーが、あわてて、手に持っていたトレーをテーブルに置く、が、上に乗っていたグラスも皿も、一気にすべるように傾いて落ちる。いや、それを支えようとしたジンジャーも、もはや立っていられなかった。
「きゃあ!」
ガラスや陶器の割れるけたたましい音が重なる。
不気味な地響きとともに、激しい揺れが視界を妨げた。

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松果さん!!

うふ~。
そんな素敵な感想!嬉しくて、実は何度もケータイから読み直していたりして♪
大人たちの世界を描くと、タースやミキーの子どもたちの世界の狭さや美しさが際立ちますよね♪
これをどうまとめるのか(笑
楽しんでいってくださいね~♪

むむう~

一度さら~っと一気読みして、またじっくり楽しませてもらってます。
なんかね、この十話が一番好き♪
いやいや、シーガ様やタース君の活躍も気になるんだけども。
一癖もふた癖もある大人が中心だと、話が骨太になってステキだ。
スレイドさんの本領発揮、トエリュに対する複雑な思いやら、ムハジク公との駆け引きやら、歴史モノ、戦記モノ好きな私としては「いいぞ~おっさん達ガンバレ!」って感じでドキドキしっぱなしです。
さて、続きの話は明日からのお楽しみにしておこう♪

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