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「想うものの欠片」第十話⑨


スレイドの提案は、簡単に言えば挟撃作戦だ。
別働隊がティエンザ軍の背後を狙い、慌てたところを正面の本軍が攻め込むという古典的なものだ。古典的であり基本であり、効果的である。

ライトール軍とは、公国の正規軍とそこに徴兵の義務で駆けつけた二十四都市の警備隊からなる。良い兵を出し惜しみした都市の警備隊は当てにならず、正規軍は警備兵を蔑視し、警備兵も正規軍とは馴れ合わない。二重の指揮系統を持つためにただでさえ脆弱。
そんな中、スレイドは自ら部隊を持つわけでなく、正式なムハジク候の将校でもない。
スレイドの立場は微妙だ。だからこそ、別働隊を指揮することを申し出たのだった。
別働隊を組織し、作戦を説明した後。ムハジク候は、この別働隊を指揮する人物を紹介するはずだった。

柔らかな山土が今は早朝の霜で凍てつく中、従事する二十名が整然と並ぶ。呼び出され、ここに居並んで始めてそれが隠密の作戦なのだと悟り二十名の表情はさらに固く締まる。ムハジク候はいつもの古典的な革の防具を身につけ、白い髭に息を凍りつかせていたが、堂々たる態度は寒さを感じさせない。その背後に黒い革のコートを着た、軍人らしからぬ雰囲気の男が立っている。
二十名はちらりとスレイドを盗み見ていた。
「よいか。危険な任務だが、功績は大きいぞ。褒章は約束されている。お前たちを指揮するのはケドニア将軍だ」

眉をひそめるスレイドの脇を、涼しい顔で大柄な男が進み出た。
この男はムハジク候が自らの領地を守るために組織していた国境警備隊の指揮をしていた男だ。候からの信頼も厚い。まあ、それならそれでいいとスレイドはちらりと動かした表情を元に戻す。
皮肉な笑みが浮かぶのは仕方ないことだろう。

日が昇る直前まで別働隊を見送り、朝日とともに中央のテントに戻ってきたムハジク候は、本部テントにスレイドの姿を見つけるなりにやりと笑った。スレイドは一人地形図を前に、先日の椅子に体を預けていた。
「なんじゃ、見送りもしなかったのか」
「ええ、不要かと」
「ふん、まあそう拗ねるな」
笑みすら浮かべるムハジク候にスレイドは冷ややかに目を細める。
この男が奥底に暗い憤りを飼い、牙をむこうとするそれを必死でなだめていることは誰も気付かない。ムハジク候の「拗ねるな」に面白そうに笑った傍らの側近たちもだ。
彼らからすれば、やはりスレイドは若い。
六十歳を過ぎているムハジク候は前大公、リュエル三世ですら幼少の頃を見てきている。そのムハジク候にとって三十代のスレイドは若造と呼べる。
「お前を評価するからこそだ。わざわざ危険な作戦に参加させる必要もない。それにな、お前の腕がどの程度のものか、見て見たいのだ。この目でな」
ムハジク候の目配せで、側近の一人が剣を地形図の上に置いた。目の前のそれをスレイドは眺める。精巧な地形図は重要なものだ。それに汚れた剣を乗せるなど。やだねえ、軍人は。という内心の声は別として。
とりあえず皮肉な笑みもわずかな視線の動きのみで収めて隠し切る。

「お前は参謀としては使えるだろう。それは認めよう。だが、軍人として実践に耐えられるのかどうか。その細い体で」
肩をすくめて見せるムハジク候にあわせるかのように周囲も笑みを漏らす。
スレイドはためらいもなく目の前の剣を手に取った。
「で。どなたと?」

「ムハジク候、私の息子でどうでしょう」
側近の一人が進み出た。スレイドは苦い笑みを浮かべた。
「貴殿のご子息は三十そこそこと伺いましたよ。お若い方と力比べをして、それで勝ったからと言って私の力を証明したことにはなりませんよ」
ご子息にとってはどっちに転んでも損はないでしょうがね、とまでは言わずにいる。
ため息交じりのスレイドに、申し出た男は目をむいた。
「くっく、まあ、それはそうだ。お前が相手をしてやれ、コトノ」
コトノと呼ばれた先ほどの側近は、癖のある髭をぬぐって口をへの字に結んだ。
「恐れながら、ムハジク候、我が息子は若輩者ながら剣の腕においては私に引けをとりません」
「コトノ殿。私は何しろ剣術は初心者ですからねぇ、誤ってお怪我をさせてもいけませんしね、加減できませんので」
スレイドの挑発にコトノは立ち上がり、周囲は複雑な表情を作る。
「さて、見せてもらうかな」
一人面白そうに声を上げて笑い、ムハジク候はテントを出て行く。
すぐ後をスレイドが続き、そのひょろりとした黒い後姿を見送っていたコトノは周囲の仲間の視線に気付くと忌々しげに鼻を鳴らし剣に手を伸ばした。


朝の炊き出しが始まり、兵たちは皆それぞれの作業をしている。
陣営の片隅に集る数人の将校たちを遠目に眺めはするものの、何をしているとのぞくわけにも行かない。なんだろうな、と互いに目配せしつつ、各々の作業を続ける。

そこは低木に囲まれた、小さなくぼ地。
まだ日が当たらない場所で、地面にはがさがさした霜柱が隠れている。
五十代半ばのコトノと向き合い、スレイドは剣を片手に立っていた。

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