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片翼のブランカ その9


荒い波が、黒々とした岩肌をたたく。
下層には転々とした岩山と、その下を結ぶ海。
ただ、荒れ狂う、苦い色をした海。
その波が白く砕ける断崖に、一頭の空角がいた。背に、鉄色の髪の守人を乗せている。
常にどんよりした薄暗い空。絶え間なく吹き付ける風。
「もう少し、ほら、あそこだ、ラタ」
シェインが、断崖の小さなくぼみに咲く花を取ろうとしていた。
その花は薄い桃色をして、小さな三つの花弁が丸く膨らんでいる。その小さな丸の中にたまる蜜が、今のシェインの目的だった。
「ほら、もう少し近寄れないか?」
強い風の中、ラタは岩肌に蹄をつける。大きな翼はかえってこの風に邪魔なように見える。
「文句言うなよ、あいつの、熱下げないと、俺たちがやばい」
シェインは、ラタの背から、ぐいと手を伸ばす。
「どう?」
断崖の上から、カータの声が響いた。
「あと少しだ!」
めいいっぱい手を伸ばして、くぼみの花を取ろうとする。しかし、その蜜をこぼしてはいけない。慎重にやらなくては。そうそう、見つかる花でもないのだ。
「お」
シェインは下半身をラタに預けたまま、断崖のくぼみに手を着いた。
あと少し。右手で、そっと花の軸を捕らえる。
左手にもった、小さなかわの袋を当てがう。
花を摘むことは許されない。
守人は生きとし生けるもの全てを守る。
その命を奪ってはいけない。
生きるための食料とする以外は。
薄桃色の三つの花弁が丸くたわんで、包んでいるその蜜を、そっと、皮の袋に落とす。
金色に透明で、美しい。透明な薄い皮に包まれて、とろんとして、柔らかく、丸くまとまる。
「ああ。売ればいい値なんだが」
そっと、花を元に戻す。
右手を離す。
「クウ・ウ」
ラタがうなった。
「どうした、ラタ・・!」
ざばっと、届くはずのない波が、シェインの背にかかる。
「なんだ!?」
皮袋と、岩を左手でつかみながら、振り返った。
目の前に、大きな海竜。
波かと思ったそれは、海竜の牙から滴っていた。
どんよりと深い緑の藻を顔に貼り付け、ギラリと光る黄色の目が、シェインを捕らえる。
その目はラタの頭ほどの大きさがある。
「ラタ、逃げろ、これを、カータに!」
袋をラタの口にくわえさせ、同時に、足でラタを蹴って突き放す。岩にかろうじて張り付いているシェインに、海竜が牙をむく。
ラタは、一旦岸壁から離れたものの、シェインを守ろうと、飛び込んでくる。
「ばか。」
シェインは手を緩めた。
ずるずると落ちていく。
海竜は大きな首をぐいと曲げて、それを追っていく。
「!!」
ラタは袋をしっかりくわえたまま、シェインを追おうと真っ逆さまに急降下する。
はるか下で、白い波がうなりをあげるそこに向かって、シェインは落ちていく。
「ふん」

にやりと笑って、男は腰の剣を抜くと、がつ、と、岸壁に突き当てる。
それは硬い岩にあたって、はじけて折れる。
「ち」
シェインは懐から小さな球を取り出した。透明なそれの中に白いふわりとしたきりのようなものが少し動いた。
『風』
シェインの小さな言葉とともに、それはふわと白く光り、強い空気の塊となって落下するシェインの体を下から止める。
光に海竜は一瞬、動きを止める。
シェインが宙に止まったのも一瞬。
再び落下を始める寸前に、ラタが飛び込んで、支えた。
手綱をつかみ、ラタにぶら下がりながら、シェインは叫んだ。
「ラタ、袋落とすな!俺が落ちてもそれだけは落とすな」
海竜が今度はラタを食べようと、長い首をもたげて待ち受ける。ばらばらと、その鋭い牙から海水が滴る。
それをシェインがけりつける。

「クウ!」
泣いたラタの口から袋が落ちる。
「ばか!」
それを、かろうじて左手でつかみ、シェインは手綱をからませた右手だけでつながれて、宙にぶら下がる。
そこを、海竜の牙がかすめる。両手の利かないシェインは身をよじって、避ける。
それでも海竜の硬いうろこに、腕や背、足が傷ついた。
ラタは慌てて飛び離れようとする。
「シェイン!」
上から、カータの声。
同時に小さな矢が、海竜の額をかする。
「ばか、殺すなよ!」
「ばかはどっちよ!」
海竜は白い風牙に気をとられた。
その隙にラタは高みに飛び上がった。
フウガとラタ、並んで飛びながら、黒々とした断崖の上に登っていく。
海竜の牙も、そこまでは届かない。
彼らは、海から出ることはできない。
ラタは、右手一つを手綱に絡ませてぶら下がったままのシェインが傷つかないよう、どう降りたものか空中で少し躊躇する。
その体を、先に下りたカータが駆け寄って、支えた。
それを確認してから、ラタは地に下りた。
ラタは数歩足踏みして、地に落ち着くと、大切なご主人に寄り添うカータに、鼻を鳴らす。

「ばかね、海竜相手に、一太刀浴びせるくらいは許されるのに」
「ふん。守人としての誇りでね。生き物に、刃は向けない」
傷ついたシェインの腕を、布で縛りながら、カータはふと微笑んだ。
「ほんとに、馬鹿ね。これだから、育ちのいいお坊ちゃまは」
カータの瞳がうっすら涙ぐむ。
「ああ、悪かったな」
「よかった、無事で」
抱きしめるカータに、シェインは目を細めた。
「お前、チーズのにおいがする」
「馬鹿」
「口の減らない女だ」

気付けば、救ったはずの男が、カータを抱き寄せている。
いつの間にか、体制は逆転していた。
硬い岩肌に背を押し付けて、カータは男を見上げていた。
そのシェインの手は、カータの後頭部をかばって岩との間にある。
カータの体重がかかれば、傷つくだろうに。
「シェイン、だめよ」
カータの頬に、シェインの長い鉄色の髪が触れる。
くすぐったい。
シェインの大きな手が、カータの頬にかかったクリーム色の髪をそっとはらう。
その瞳は黒く深く。見つめると吸い込まれそうで。
小さくカータは息をついた。
この胸の鼓動が、聞こえてしまっているように感じた。目を閉じる。
「…シェイン」
「契約、結ぶか?」
耳元にそっとささやく、シェインの強い言葉に、じんと体が反応する。
ああ、勝てない、この人の言葉には。
カータの頬が赤く染まった。

不意に、カータの顔に影がかかる。
「…ラタ、邪魔するな」
シェインが、そちらを見ないで、怒る。
「クウ」
「あの」
「お前もか、ココ!邪魔するな馬鹿!」
気付けば、二人の横で、小さなブランカが座り込んでいる。
頬に両手を当てて、なんだか赤くなって。
「あの」
「もういい、ばか。大人しく待ってろって言ったのに」
大きなため息とともに、シェインは立ち上がり、同時にカータを抱き起こした。

「あの」
「ココ、お前なんで約束守れないんだよ」
「あの、えと、声が聞こえたから」
照れたように微笑む無邪気なブランカに、一瞬殴りかかりそうになって、シェインは我慢する。
「何の声?」
カータは、すでにココの頭をなでて、熱を確認している。
女は、変わり身が早い。
ちぇっ、と小さく息をついて、シェインは改めて、傍らの、皮袋を手に取った。
「あのね、あのね、ラクが泣いたの」
「鳴いたの?」
「うん。助けてって」
「・・お前、それで自分が助けられるとでも思ったのか?」
イラついたシェインの声に、ココはにっこり笑った。
「うん。だって、声きこえたもん」
シェインはかろうじて、岩を殴る直前で止めた。さすがにそれは、痛い。

「・・ココ、熱は大丈夫なの?」
「うん?」
いつの間にか、ラタが、ココの頬に擦り寄っていた。
「・・なんだ、ラタ。そいつが気に入ったのか?」
眉をひそめて、睨みつける主人に、ラタは分かっているのかなんなのか、嬉しそうに鼻を鳴らした。ブランカは特別なのか。
「ほら、お前、これ飲め」
小さな皮袋を持って、ココの手のひらに金色の蜜を転がした。

「うは、きれい」
「見てなくていいから、落とす前になめちまえ!」
「はあーい」
嬉しそうに返事をして、ココはそれをもったいぶりながら、ちびちびとなめた。
「おいし」
「熱は?」
ブランカの肩に手を置いているカータに、シェインがたずねる。
「ええ、まだ少し。でも、これでよくなるわきっと」
カータの視線が、ココに向けられたままなのは、照れているのかもしれない。
「・・カータ、いずれ、契約するからな」
真顔でそう言うと、シェインは立ち上がった。

しびれるように痛む腕を左手でさすり、乱れてくしゃくしゃの頭をうるさそうに振った。
カータは、頬を赤くしたまま、背を向ける男を見つめていた。

その顔を、ココは、首をかしげて、見上げている。
顔中を蜜だらけにして。
「ココ、なあに、あちこち泥だらけじゃない」
「ごめんなさい」
「え?なんで謝るの」
「ココ、本当は、寂しかったの」
「声が聞こえたなんて、うそ?」
「うそ?」
「そうよ、それはうそというの。だめよ」
「・・ごめんなさい」
微笑んで、抱きしめてくれるカータが、とてもきれいに見えた。

 「片翼のブランカ」続きはこちら
http://ranrara.blog70.fc2.com/blog-entry-65.html


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chachaさん!ありがとうございます!

あった!!って気分です!!
実は、一箇所確かラタをラクにしちゃってたと気付いてのですが、
後から見直しても分からなくて!!
助かりました!そうです、「ラタ」なんです。
「泣いた」も「鳴いた」の間違いですね(^^;)
ごめんなさい。
ほんとに助かります!

こんにちわ^^

>ここ変、とかありましたら、教えていただけると嬉しいです!

とありましたので、早速ですが・・・(笑)
私の読解力が無いせいだったらすみません。

この9話でのお話の中で、ココがシェインとカータの所に現れるシーンで、
「何の声?」
「あのね、あのね、ラクが泣いたの」
とあったのですが、このラクは、あの親友の「ラク」のことなんでしょうか?
それとも、「ラタ」のことを「ラク」と打ち間違えているのでしょうか??
小さなことですみません><
本物の「ラク」なら私の中で話の感じ方が変わってきますので、真相を知りたかったものですから・・・^^;

おいしそう・・・。私も熱が出たらシェインに取りに行ってもらっちゃお~♪♪
なんだか二人のやり取りに・・・。アポロ・・・。

ドキドキしちゃいました~!!!!
自分じゃなんだかんだでわお~ってこと書いちゃってますが、こういうドキドキがアポロは一番すき~なんです^^
ココちゃんもちょうどいいタイミングで登場ww
またきま~す♪
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