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「想うものの欠片」第十話⑩

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コトノはがっしりと実の詰まった筋肉を持つ男だが、身長はスレイドより拳二つほど低い。短い腕は見かけ以上に力がある。
数回、刃を切り結び、その感想はコトノも抱く。

スレイドというこの男。やせた腕からしなやかに繰り出される剣戟は想像以上に重く、コトノの剣を握る手のひらに痺れを感じさせる。
冷たい音を数回響かせた後、互いに押し合い、互いに一歩間をおく。
にらみ合う。

と、不意にスレイドは持っていた剣を地面に突き立てた。
「貴様、何を!?」
肩をすくめ、にやりと笑う男にコトノは顔を赤くした。
「バカにしおって!剣なしでもよいと、そう申すか」
コトノは鋭く間合いを詰め剣を振りかぶる。
同時に懐に駆け込んだスレイドはコトノの振り下ろす剣をかわすとそのまま手首をつかむ。逆手にひねり男の脚を払う。そのときにはすでに、コトノの体勢は修復不可能なほど崩されている。
当然、支えきれず地に膝をつく。その体勢のまま剣を振り上げようとする男の肘をスレイドは容赦なく蹴りつけた。
ガランと転がる剣は刃で霜を削る。
「さて、この勝負は、参ったといえばつくんですかね」
コトノの首を押さえつけるスレイドは、静かに笑っていた。
「ぐ、貴様…」
地面に額はつくまいと踏ん張りながらも、コトノは両膝をつき、利き腕は後ろにひねり上げられている。目の前に、スレイドの剣が突き立っていた。
「卑怯だぞ、剣で勝負ではないのか」
うなるコトノに我慢できず、スレイドは笑い出した。
「いや、戦場で剣にしがみつく理由はないですよねぇ、どちらかといえばこいつのほうが便利でしょうし。さらに言うなら、武器は最後の手段でしょう」
開放された手首を押さえながらコトノが振り返ると、スレイドはコトノの額に銃を構えていた。
「卑怯だぞ、貴様!」
見守っていた側近の一人がたまらず声を出した。
「卑怯?戦場において何で始末をつけるかは自由でしょう」
その男に視線を向けたスレイドのスキをぬって、コトノは突き立っていたスレイドの剣に手を伸ばす。
引き抜く。
が、それは凍り付いて立ち上がって構えるまでに数瞬を要した。
びしっ!!
派手な音と共に何かがコトノの視界にキラリと輝く。それが、折れた剣の切っ先だと気づいた時には、額につめたい銃口があった。
至近距離でスレイドは剣の最も折れやすい部分を打ち抜いたのだった。
ぼとりと、コトノの痺れた掌から剣であったものが滑り落ちた。
「ですから。剣に頼らず素手で間合いを詰めれば、私の隙をつくことが出来たかもしれませんがねぇ」


「もうよい」
ムハジク候がため息混じりに声をかけるまで、誰も動けなかった。
コトノも、見守っていた側近たち七名も声を出せず、ただかすかに吐き出す息が白く凍っては流れる。

ムハジク候は気難しい表情だったが、朝食の席にスレイドを呼んだ。
候のテントを訪ねると、侍従がうやうやしく奥へと通す。
個人的なテントを持つのはムハジク候だけだ。

用意されたテーブルの朝食を見て、食事はすでにいただきましたよ、とスレイドは笑って見せた。まさか会食とは思わなかったのだ。そうしたいとも思っていなかった。
「まあよい、座れ」
温かいスープを運んできた侍従が下がると、その部屋は二人きりになる。
スレイドが座って脚を組んだときにはかすかに眉をひそめたが、ムハジク候はすぐに気を取り直したのかパンをスープに浸した。
「やりすぎだと、思わんか」
「ご期待に添えませんでしたか」
温かいコーヒーだけ手に取るスレイドは揺れるカップの中身を見ている。
「いや、面白かった。お前なら剣だけでも勝負はついただろうに。兵法の初歩を語るもいいが。アレではお前を起用しようにもやりにくくてかなわん。ことごとく側近の反対を受けよう」
すでにスレイドがこの場に呼ばれたことを知った側近たちは鋭い視線と妬みの冷やかしを投げかけていた。バカらしい、と内心スレイドは舌を出している。
「私はもともと影に生きるものです。側近の方々のように武勲で財をなす気もありません、名誉などなおさら不用です」
「では、何ゆえ我が軍に協力しようとするのだ」
「…戦争を終わらせたいからです」
スレイドの言葉にムハジク候は目を見開いた。


確実に戦争を楽しんでいるムハジク候にとって、当たり前すぎるスレイドの考えは思いもよらなかったことだったらしい。
「ふ、ふん、そう簡単には終わらん」
「簡単な方法もありますよ、ありますが。私はシモエ教区でティエンザがやろうとしていることにも興味がありましてね。あれを止めさせなくては我が国は、いや、大陸全体が危険にさらされます」
「簡単な方法?」
ムハジクは小さなグラスにいれられた蒸留酒を飲み干すと息をついた。
「ムハジク候はご存知でしょう?シモエ教区で発掘されている赤い石。あれがどれほど危険なものか」
簡単な方法に気をとられていたムハジク候は否定することも忘れ、ふむと頷く。
「危険を承知でリュエル三世にお贈りになった」
「!?」
頷きかけてその意図に気付くと、ムハジクはがたりと椅子を鳴らして立ち上がった。
「違うぞ、大公が亡くなったために危険だと知ったのだ」
「…そうでしたか。あれほど恐ろしい力がある石ですからね、運んだもの、加工したもの、すべてのものに影響があったかと思ったのですが」
「そうだ、後に知ったのだ、運んだ部下も、触れた兵士もみな、命を落とした」
そして真実を知るものはことごとく口を塞がれたというわけか。スレイドは足を組みなおす。
後に知った、を強調しつつ悔しそうな顔をしてみせるムハジク候が演技なら、それに同情して見せるスレイドも演技だ。
「ご心痛、お察ししますよ。あの石は恐ろしい。それを大量に採掘しているんですよ、ティエンザは。そんなもの、石のままでも空からばら撒かれたりしたら我が国民の半数は死んでしまうでしょう」
事の重大さに今更気付いたようで、ムハジクの表情が変わった。
「そうだ、危険だ」
「私は斥候と共に採掘場の様子を見てきますよ。別働隊が到着するまでは、進軍できませんし、それまでに赤い石に対抗する手段を練っておかなくてはなりません」
「うむ、そうじゃ。お前は役に立つ。どうだ、わしに個人的に仕えんか。わしには子どもがおらん。いずれ後を継ぐものが必要だ」
ムハジク候はスレイドの手を両手で握り締めたのだ。
「わしはいずれ、この国を手にする。トエリュ公太子の後見でもある、将来を約束するぞ」
スレイドは心に描いた最も簡単な方法を実行したい衝動に駆られていたが、手をこわばらせるだけで押さえ込んだ。
戦争を終わらせるもっとも簡単な方法。
それは目の前のムハジク候をこの場で始末してしまうこと。

「ムハジク候、トエリュ様からも同じ申し出をいただいております」
スレイドの笑みが皮肉にゆがむのは仕方のないことかもしれない。

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