08
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「想うものの欠片」最終話 ⑤



次にタースが目覚めた時、静かな小さな部屋で寝かされていた。

やはり衰弱していたのだろう、あの後からまったく記憶がない。窓から見える景色は真っ暗で、室内は小さなランプで照らされていた。荷馬車に乗ったときはまだ陽が高かった。この時間まで正体もなく眠っていたのだと実感する。

腕を頭上に伸ばし、一つ息を吐いてみる。
何か、どこかが以前と違う気もしたが、まだまだ体のあちこちが傷んでいるのだろうと結論付ける。
傍らにユナを感じていた。

「うん、大丈夫だよ」
白いもやもやした彼はゆらりと薄くなったり濃くなったりした。はかない煙のようだ。
タースは何か夢を見たような気がしたけれど、思い出せなかった。
「陛下を、助けなきゃ」
知らずつぶやいて、タースは起き上がった。

質素な木の皮を張ったような壁。天井も同じ素材で編みこんだような模様。はじめてみる建物の様式だった。
こういうものもあるんだと、タースは室内をじっくり見つめた。
タースが横たわっていたのは木で組んだベッドで、布団の代わりに何か乾燥した植物を編んだものが敷かれていた。かすかに植物の乾燥した匂いがする。それは不思議と心地いい。

立ち上がってみる。
体が軽い。
コンコン、と。ノックの音。
少し小さめの扉が開いた。黒衣の青年が立っていた。

「目覚めましたか」
「うん、すごくいい気分だ。もう大丈夫だよ!あの、ここどこ?」
駆け寄るタースに、シーガは壁にかけてあった上着を手に取り、かけてくれた。
「帝都まで半日、というあたりです。ジスタという街だそうです」
「ふうん、あの、皇帝陛下は無事だったのかな。そういう情報とかないのかな」
そのまま部屋を出ようとするタースはシーガに押しとどめられた。

「もう少し休んでいなさい」
「平気だって、治ったよ。ほら、ぜんぜん、前と一緒だ」
そういってタースは胸を張ってみせる。そのままぎゅっと握った拳をシーガの前につきだした。
確かにタースの顔色は随分よくなっていた。
「早く帝都に行くんだ。だってさ、あの時、皇帝陛下の船をティエンザの軍の飛行船が追っていたんだ。クッキーに入れられた毒のことも気になるし。僕にも責任があるんだ」
「…タース、いいからそこに座りなさい」
タースはつまらなそうに口を尖らせた。

「お前は丸二日眠っていたのです。あれだけ心配させておいて、まだ無茶をするつもりですか?許しませんよ、そんなことは。折角休める宿が見つかったのです、感謝して今は体を休めなさい」
「…わかった」
タースは仕方なく、ベッドに戻ると腰をかける。
シーガが、隣に座った。
珍しいことだった。

正面に席を取って食事を取ることは多々あったが、隣に座ったのは初めてではないだろうか。正面より、近い気がした。
しっかりシーガの横顔を眺めた。

まだ、少し身長が違う。ちょうど、タースの眼の高さがシーガの肩だった。以前と同じ漆黒の衣装に変わっていた。

シンプルなものを好むようで上質な黒い長袖の上着は、この蒸し暑い土地の気候を完全に無視していた。暑苦しいかといえばそうではない。

シーガの透き通るような白い肌と涼しげな瞳。無表情で絶対に汗などかかないように見える。だから、周囲の空気が冷たく感じるのかもしれない。

美しい容貌は瞬きをするのが不思議なくらい人間離れしていた。黙って立っていれば人形に見える。もしかして、髭も生えないのかもしれない。

そんなことを考えながら、タースはシーガを見上げていた。
自分より十歳年上。
あまり年齢は意識しなかった。考えてみればトモキさんより年上なんだ。けれど、不思議とトモキに感じたような、頼りたいといった感覚は生まれない。どうしても、シーガとは対等な気分になってしまう。

案外、シーガも子供っぽいところがあるからだよね。

ちらりと睨まれた気がして、タースは肩をすくめた。
そう、最初から、タースはシーガに尊敬は抱かなかった。

それが出会った当初の青年の冷淡な態度に起因することも十分考えられた。
「もう、夢にうなされることはないのですね」
不意にシーガが言った。

「あ、ええと」
夢?

「ユルサナイ」

「!?」

シーガの一言にタースは腰を浮かしかけた。

「隠す必要はありません。私を誰だと思っているんですか」
「…知ってた、の」
「お前ほど、強い思念を持つ人間に出会ったことはありません。あの、ナトレオスの街で、お前がツクスさんのユルギアに同調し、うなされていたあの晩。強く悲しい思念に目が覚めました。ですから、お前の異変に気付いたのです。もともと感情が表に出やすい性格でしょう?自覚はないのですか」
「え…」
宿で倒れた時、幼い頃の記憶をもう一度たどった。

あの晩、シーガはすべて知ったんだ。僕の過去も。あの事件も。
頬が熱くなる。
知られていないと思っていた。

シーガは静かに続けた。


「タース。お前は誰にでも優しい人間でいなさい」

次へ
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。