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「想うものの欠片」最終話 ⑥



立ち上がっていた。

その、言葉を。
その台詞を。

なんども、心に刻んだそれを。


他人に言って欲しくなかった。



シーガは穏やかに。
笑った。


「そうなりたいと、思ったのでしょう?だから、お前はそこまで真っ直ぐな心をしている」
頬を、いつの間にか涙が伝っていた。

胸のうちの渦巻く感情を言葉にできずにいるタースに、シーガは追い討ちをかけるように立ち上がった。今は薄暗い室内で銀の髪が緩やかに流れ、存在そのものが輝くような青年は黒衣を揺らした。
不自然なそれは、彼の周りに集うユルギアのせいなのか。
それとも、彼自身の力が形となって見えているのか。

「な、にを。…いいたいんだ」
タースの中で、再びあの記憶がよみがえっていた。
血にまみれた地下室。冷たい床に、むせるような匂い。赤い石を宿したノク様の鋭い視線と牙。母さんの、冷たくなった瞳。
真っ白な一面の雪。染みる、赤。
許さない。
ユルサナイ。


「開放される、べきでしょう?」
手を差し出したシーガの表情は、見たこともないくらい優しげに笑っていた。
翡翠の瞳に太陽が降りたように、それは輝いて見える。

温かく、優しい。その手をとれば、心が癒されるのかもしれない。
悲しい記憶も、消してくれるのかもしれない。
あのツクスさんのように。
幸せな笑顔を取り戻すのかもしれない。


けれど。
タースは、首を横に振った。

「僕は。許されてはいけないんだ。僕は、自由になんかなる資格はないんだ。母さんが、いったんだ。だれにでも優しい素敵な男の子に、って。二度と、大切な人を死なせることなんかしちゃいけないんだ。ノク様が言ってる。許さないって。ずっと、ずっと。僕は、許されてはいけないんだ」
シーガは一歩、タースに近づいた。

「もう、十分でしょう?お前は何も悪いことなどしていません。緋石に毒された恨みのユルギアの残像を耳に聞いているだけなのですよ」

「ちがう!ちがうよ!僕は、僕は父さんも、母さんも…殺しちゃったんだ。僕が、自分を許さないんだ。僕の中に、僕を憎む気持ちがあるんだ。それは、ずっと消えない!僕が、僕である限り、許されることはないんだ」

手を伸ばしかけて、シーガは留まった。
小さくため息をつくと視線をそらした。

「仕方ないですね。世話が焼ける。お前は皇帝陛下を助けたい、そうなのですね」
「!そう、そうだよ。僕だけが犯人を知っているし、心配なんだ!死なないって、陛下は言っていた。でも、わかんないよ。すごく苦しんでいたんだ!」

たった一人の理解してくれた人。同じ気持ちを抱えている人だ。

ぽんと。シーガの手がタースの肩をたたいた。
「ほら、座りなさい。状況を説明します」

ふと、肩の力が抜けて。
タースは半分、崩れるように座った。
みしりと適度な弾力の寝台が揺れた。
そっと、涙を手でぬぐった。

「いいですか。この国には新聞もなければ、電報もありません。たとえ帝都で戦争が始まってもこの場所では何も知ることはできません」
タースは頷いた。
「行商のものに聞いた話しか、できませんが」


「数日前、皇帝陛下を乗せた飛行船が帝都の外れに降り立ったとき、皇帝はそれまで通りの元気な姿だったといいます。暗殺未遂の噂はないようです。毒を盛られたものの、何がしかの理由で、大丈夫だったのでしょう。しかし、それからまもなく、ティエンザ軍の飛行船が三機。同じ飛行場に降り立ちました。乗っていた兵士たちは、銃剣を持ち宮廷の周囲を固めています。降り立った中に尊大な様子の白髪の老人がいたといいますから、多分、ガネルでしょう。ティエンザの大司祭ガネルは、自らが神王になろうと画策しているようですし、レスカリアの内情を知っていますからね」
「って、つまり」
「クーデターも何も、今やこの国はティエンザに制圧されたも同様、ということです」
両手の拳を握り締め、タースはガネルを思い出していた。
「助けなきゃ」
「タース、この国には、軍隊はありません。人々はみな、それぞれが信仰という形で神王とつながっていた。領海を守る警備兵はいましたが彼らももとは聖職者でしょう。戦争が出来るような組織はないでしょう」
「それなら、余計に!」
「助けた後、どうしますか」
「どうって…」
「助けに行って、宮廷から連れ出す。その後どうするつもりですか」
シーガの問いはもっともだった。
助けてもらいたいと皇帝が考えるかどうか。それすら怪しい。
シーガも同じ事を思っていた。
「そもそも。タース。現状を皇帝がどう考えているか、わかってもいない。それでもお前は助けに行くというのですか」
タースは唇を噛んだ。
確かに。
ティエンザの飛行船の存在も、陛下はどうしようともしなかった。

「あの人は、穏やかに笑っていた。飛行船が背後から打ち落とされるんじゃないかって言う時だって、平然としていた。もともと、戦争なんかする人じゃない。大公を失って戦争を起こすライトール。ライトール公国に宣戦布告されて国境を封鎖し、軍隊をシモエ教区に送るティエンザ。教会の頂点に立とうとする大司祭ガネル。そんな奴らと同等じゃない」
シーガはじっとタースを見詰めていた。
「陛下は、知ってるんだ。この国の歴史も、世界の歴史をも見てきて。国が滅んでも皇帝がいなくなっても。人々は変わらず生きていく。皇帝がいなくなってもこの国の民は自分で生きていけるんだ。国という枠がなくても。軍隊がなくても」

シーガも頷いた。
「この国の仕組みでも、それは分かります。権利や義務などない。民に強制しない代わりに、皇帝も民に依存されない。緩やかな信頼関係で互いを尊重しているのです。文明として豊かなのかは分かりませんが。人々の心は強く豊かでしょう」

タースは国境の橋。キョウ・カレズに残る話を思い出していた。
国なんてものが、国境なんてものがあるから。
人は縛られている。
あの橋梁に刻まれた言葉は、人は自由であると訴えていたんだ。自分で生き、自分で死んでいく。どちらの国にも属さない橋の上で生涯を終えた男は、それでも幸せだったのだと。訴えているんだ。
あのときに見たタンポポの色を思い出した。

「…陛下のしたいように出来るように。手助けしたい。たとえば、それが、僕の行動を無駄にするようなことでも。僕は、あの人のことが好きだ。とても大切にしてもらったんだ」
は、と。シーガはため息をついた。
「お前は…まったく。それは助けに行くのではありません。素直に会いたいといえばいいでしょう」
「!…そうかも。そうだ、会いたい。うん。あの後どうなったか気になるし。ユナのことも分かったから教えてあげたいし。シーガ。僕、もう一度陛下にお会いしたい。そのために帝都に行くんだ」
そう思うと温かいものが胸にあふれる気がした。
なにをしたいのか。いても立ってもいられないようなこの気持ちをやっと自分で理解できた気がした。
心配だから。世話になったから。
会いたいんだ。

ふとシーガを見る。

シーガを、巻き込むかもしれない。
シデイラは追われるって言っていた。
そんな危険なところで、さらに帝都まで付き合ってもらうのはまずいかもしれない。
会いたいのは僕の勝手な気持ちだ。それに巻き込む必要なんかないし。危ない目にあわせたくない。ミキーにも。


「…」
シーガは黙って見つめていた。
「あ、…あのさ。シーガ、あんたがこの国に来た理由。教えてもらってないよね?」
ぽんと。
額を叩かれた。
「て、なんだよ」

「明朝、帝都に向けて発ちます。寝ておきなさい」
シーガは、以前と同じ無表情のままで。タースがなんだよ、と声をかけても。
何も言わずに部屋を出て行った。
シーガの性格とか、考えていることがわかったような気がしたのに。
この国で再会してから、シーガの態度はよく分からない。

一応、寝台に横になったものの、ざわめく感覚に眠れない。
シーガが自分の過去を知っていたこと。
母さんの言葉を護りたいと考えていたことも、すっかり見抜かれている。

むく。と起き上がると、そっと戸口に近づいた。
シーガたちを巻き込まないためには、一人で行くべきだ。

が。
黒い薄い板だけの扉を押し開こうとすると、がん、と何かに引っかかった。
「…やっぱり」
外から鍵がかけられていた。
見抜かれていた。タースがシーガたちを巻き込みたくないと考えることも、そう考えて一人で出かけようとすることも。だから、閉じ込めている。

「ちぇ」
それは巻き込んでも、いいということだろうか。
明日帝都に向かうといっていた。
シーガたちも一緒に行ってくれるんだ。
嬉しいような。心配なような。複雑な気分だった。
再び寝台に寝転ぶ。
やはりなかなか寝付けなかった。

次へ

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史間さん♪

タース君が自分のために動く…んふ。違和感ですか。
かもしれない。
うん。
んふ。

レスカリア、確かに~。鎖国なんて早々続かないですから。
ただ。攻め落としても何も得られないような気もする(笑
香辛料か。
資源かな。

はう。

ついに自分の気持ちを吐露したタース。
いままで他人のことばかり(過去話のシーンを除き)だったので、なんだか違和感がありますが(オイ
シーガとタース、正反対なようで、どっちも他人に心を許してなかった似たもの同士なのかな、と今になって思います。

しかしやっぱりレスカリア、よく今まで存続してきたなと感心しますよ。よくぞ今まで攻められなかったなぁと。

さて、いよいよ帝都へ行きますか。
ドキドキしてきました。
続き、楽しみにまたお伺いします♪

ユミさん♪

ありがと~(@∇@)/
「相棒」…いい言葉です~♪
ユミさんにも素敵な相棒がいるじゃないですかぁ~♪

らんららは暴走感というか、失敗感(?)というか。よく失敗しそうになるので同居人さんに怒られます(笑
性格が違うからこそ、馬が合うんでしょうね♪

そうそう。本当に最初のシーガさまは、嫌な奴でしたからね~(笑
人間嫌いでどこか見下していて。
随分、変わりました…。その変化がこの物語には必要だったんです♪
途中の感想もまた、嬉しいです~♪

コメントの投稿の、ちょっと変えてみたんです。最近変なコメントが入ってくるので、これで防げるのかな?って。お試しです。

えと…ごめんなさい。肝心のコメントだけ反映されなかった
みたいです~><

タースくんとシーガ様、二人は良い相棒ですね♪
お互いにないものを与え合って、良い影響を受けている感じ。
タースくんの暴走感は、わたしにもあるところなので、わたしも
誰か止めてくれる人がいたらな~なんて、思ったり(笑)
最初は、「シーガッ!!」と思っていたのが、いまはやっぱり、
「シーガ様」です^^;
誰も受け入れなかったシーガ様が、タースくんを受け入れている
のが、嬉しい~。

あれれ?コメント書いて、投稿したのに、消えちゃった??
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