10
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
   

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「想うものの欠片」最終話 ⑦



スレイドが斥候の男と陣営を後にしたのは日が高く昇った時刻だった。
雪こそないものの、日向は溶けた霜柱でぬかるみ足をとられる。日陰は日陰で凍りついたままの岩は氷上を歩くように不安定だ。

まばらに立つ木々と枯れ果てたうす黄色い低木を縫うように二人は登り続けた。

「なんていうか、不思議なお人ですねぇ」
斥候の男がスレイドに対する感想を述べた。この男は土地のもので、このために臨時で雇われたのだといった。

「こんなのにくっついてきても、何の得もないでしょうに」
耳まで隠せる毛皮の帽子を被る男は五十歳くらい、薄い茶色の瞳で面白そうにスレイドを見ている。足元を固め、背後のスレイドに手を差し出した。
「軍隊なんて、性に合わないんでね。あんたと山歩きのほうがましってもんですよ」
くふふ、と斥候は笑う。
「本当に変わったお人だ。じゃあ、特別に、眺めのいい場所を案内しますよ」
「眺めなんて興味はないね、だいたい周囲を見下ろす場所にいることに固執する奴にろくな人間はいないさ」
スレイドの皮肉な言葉は男を楽しませたようだ。

「くふふ、まあそうでしょうね。けど、高い場所に立って、見下ろして。それだけでちょっと自分が偉くなった気がする。それで満足するんですから、人ってのは単純です。昨日もムハジク候は振り返っては嬉しそうでしたよ、ここまで来たのか、登ったのかってね」
スレイドも目を細めた。
山に住み、そこに生きるこの男にとって下界の人間が遊びで登っては感動する姿がこっけいに思えるのだろう。
「あいにく、私には山登りの趣味はわからんし、後ろを振り返って自尊心を満足させる趣味もない。登ったら降りなきゃならないしね」

「なるほど!スレイドさん、あんた気に入りました。ええ、降りなきゃならない。どんな山に登ってもね。私はドニといいます。ふもとの村で普段は教師をしています」
初老の男性は歩くうちに隠された帽子の下の表情を見せた。雪に焼けたのだろうか褐色の肌にしみこんだシワは男の年齢以上の人生を思わせる。

「教師ねぇ、ってことは、教会の司祭もかねているんでしょう。それがまた、何でガイドなんか?」
「軍は安く雇おうと子供を捜すんですよ、それじゃ、子供らが可哀想でね。この時期はわずかですが作物が取れる時期です。暖かいんですよ、一年を通じてみれば。だから、今手伝いを失うのはどの家も困る。私はそういう家庭ではないんでね。ま、ボランティアです」

二人は見晴らしのいい尾根で岩場の影に腰を下ろした。
ドニが腰の水袋を外し、スレイドに渡した。一口水をもらう。

時折、木々の枝に積もった雪が日差しに溶け落ちる。ざざ、と下草を揺らすその音だけが響く。それは枯れた草を揺らし、砕けた雪がはじかれ小さな破片を空中に振りまく。風にあおられ少しばかり頬にかかる。
体の中はすっかり温まっているから、それは心地いい。
スレイドは思い出したように、たずねてみた。
「あんたは、シモエ教区に務めたことがありますか」
男は、水の入った皮袋を受け取ると苦い表情をした。
「ええ、まあ。けど十年前に辞めましたよ」

ポツリと男の肩に溶けた雫が落ちる。革の上着にしみこんで印をつけた。
男はじっと眼下を見下ろす。
シモエ教区のレンガの建物が、遠く雪に埋もれていた。つららがきらりと光っている。
建物を囲むように鉄条網が張られ、今はその中に見慣れないテントが並んでいた。
「以前はただの雪原だった」
ポツリとスレイドがもらす。
「来たことがあるんですか?」
ドニは驚いてスレイド方に体を向けた。
「野暮用でね。十年前までいたんでしょう?混血児の噂は、聞いたことがないですかね」

十年前までの記録は探ってみたものの、タースの出生の事実は残されていなかった。それをふと思い出したのだ。
記録に残らずとも、本当に混血児が生まれたなら、人の記憶には残っているはずだ。たとえ噂話でも、印象に残るだろう。

ドニは肩を落とした。
「…さあ、聞いたことはないですよ」
「どうして十年前に辞めたんだ、村の教会より手当てはよかっただろう?」
「…十年前の事件、ですよ」
「ケモノが保護施設内で暴れて大勢が亡くなった、それのために辞したのか?不自然だな」
ドニは黙り込んだ。
「ま、いいんですがね。知り合いに混血児がいるんで」
わざと軽い口調にしたスレイドのそれに、見事にドニは反応した。

「あいつ、生きているんですか!」

「…タースという」
スレイドにじろりと睨まれ、男は観念したように視線をそらした。

「今更、何の責を問うでもない。ただ、興味でね、知りたいのさ」
「…私が、招集されたのは、ある夜のことです」
ドニは、足元の雪に枝切れで円を描きながら話し出した。

次へ
関連記事
スポンサーサイト

Secret

プロフィール

らんらら

Author:らんらら
のんびり小説を書いています
日記ブログはこちら♪

ランキング参加中です♪

クリック よろしく~♪

FC2Blog Ranking

最近の記事+コメント

FC2カウンター

リンク♪

小説ブログの皆様

カテゴリー

ブログ内検索

RSSフィード

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。