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「想うものの欠片」最終話 ⑧



その日は非番で、昼間は地元の村にいて、夕方になってから施設に戻った。
珍しく風のない静かな夕方だった。
宿舎に戻ろうとしたところ、慌てた様子の仲間に呼び止められ、急遽そのままの服装で狩りに参加させられた。

狩りの標的は、大きな化け物狐だという。化け物狐はシデイラの連中が何か狐に細工して化け物にしたんだと。数十名のシデイラと、ライトール人が五名ほど犠牲になったという。
ライフルを手に、狐を追った。
仲間の銃に撃たれ、狐はシモエ教区の雪原を走り回っていた。もともと鉄条網で囲まれた地区。ドニたちは三人で雪に残る狐の足跡から追い詰めた。

狐は、通りがかった子供をくわえて、それと共に柵の外に飛び出した。
化け物狐が外に出れば、ふもとの村々に被害が出る。
ドニたちは懸命に狐を撃った。
狐は鉄条網の外で息絶え、そばにいた子供は、わけも分からず泣き叫んでいた。
その子どもは、黒い髪をした、シデイラ。両親の遺体は施設内で発見された。二人とも混血が生まれた年に、すでに記録では病死したことにされていた。

混血の子供はシデイラたちからも『黒のシデイラ』と蔑まれ、施設から追放されていた。

「で、その子供は、鉄条網の外に置き去りにされて、一人山を降りたわけですか」
スレイドは帽子を取り、ぐしゃぐしゃになった前髪を整え、もう一度被りなおした。
事件と関わっていたとは知らなかったが、予想の範囲内。タースはやはりここシモエ教区で生まれ、疎まれ、追い出された。
それだけのことだ。
それにしても。黒のシデイラ、嫌な呼称だ。

ドニは、考え込んでいる様子のスレイドに、さらに話した。
「それだけでは、ないんですよ」
「え?」
「私はここから一番近い村に住んでいます。その村に、その子供が現れた」
「…まあ、幼い子供にしては、出来すぎているが。そうでなければ生き残れない」
スレイドは現実にタースが生きていることを思えば、自力で下山したのだと納得せざるを得ない。


「…あの後、怪我をして彷徨っていたその子を村の女が見つけて、保護したんですよ。見てくれは普通の子供。混血の存在は隠されていたので、私が事件の後始末を終えて村に帰ったときにはすっかり村人に可愛がられていたんです」
「…」

「驚きましたよ。しかし、正体を明かすわけにも行かなかった。いい子でね、見かけも可愛らしかった。子のない夫婦が引き取ると言い出して、そこの養子にするというんです。
ちょうど、私には彼と同じ年の息子がいましてね、なぜが二人は馬が合うのか、仲良しになった。私が聖職者ということもあり妻も可哀想な身の上の少年に同情していた。
しかし、私は息子にも妻にも、タースの正体を話すことが出来なかった。本当に、いい子だった。優しくて、どちらかといえば一人っ子のために我侭に育った息子をたしなめたり、本気で喧嘩したり。息子はタースを親友と呼び始め、私は恐ろしくなった。いずれ、タースはきっと正体を現す。普通でないことをする」

そこでドニは小さく息を吐いた。
「私は、待っていたのかもしれない、あの子が普通でないことを見せるのを。追い出そうと、そう、常に追い出そうと考えていた。一年、たとうとしていました。その年はやけに春が遅くて、山の生き物も冬眠から起き出して餌を求めて村にまで下りてくるほどでした。あるとき、熊が一頭迷い込みましてね。それが、ちょうど、タースが息子と雪遊びをしている牧場のほうに向かっているという話を聞いたんです。私は、先回りし、息子だけを呼び戻しました」

スレイドは眉をしかめた。

「私は、タースにそこで待つようにと命じて、息子だけ家に帰したんです」
「…あんたの、告白を聞きたいわけじゃない」
スレイドはつまらなそうに立ち上がった。
タースが善良なのは知っている。その生まれのために複雑な人生を生きてきたのは想像できる。だからなんだという。それがあの少年の運命でありもって生まれたものだ。誰にも変える事はできない。疎まれて生まれた、その結果はスレイド自身も経験のあることだ。同情などしない。

タースが巻き込んできた多くの物事、人々、結果的に世界は悪いほうへと進んだ。タースが意図したことではない。だが。混血が存在することが間違っている。スレイドはそう考えている。黒のシデイラ。その言葉が男の脳裏に焼きついていた。
ドニの告白になど興味はない。


「何があったかは知らないが、結局タースは生き延び、あんたは良心の呵責を抱え。今、私に打ち明けて楽になろうなんて考えている。その義理は、ないですね」
「そうだ。私は、殺すつもりだった!あんないい子を、殺そうとしたんだ。だが、あの子は、熊が襲いかかろうと立ち上がると同時に、何か別のものになった」
「…別のもの?」
先に歩き出そうとしていたスレイドは立ち止まる。

タースがどんなものなのか。まだ、何か計り知れないものを持っている気がしていたのだ。
第一、五歳に満たない子供が怪我を負い、一人きりで下山できただけでも奇跡だ。だとすれば、タースの生い立ちで今まで無事だったことも、シーガと同じくらい不自然な神の加護を感じるのだ。

「別のものとはなんだ」
「あの子は、熊を見て、逃げ出そうとした。だが、新雪の積もる牧場。すぐに足をとられて転んだ。熊が走り寄る、私は熊が噛み付くのを見届けてから助けに行こうと、そう決めていた。だが、熊は飛び掛る寸前で躊躇した。立ち止まると後ろ足で立ち上がった。そのときにはタースも立ち上がっていた。あの子の表情は人形のようで、瞳は赤く、気味の悪いくらい赤く輝いていたんだ。なぜか熊はおびえた。熊が威嚇をとき、四足に戻って逃げようとしたとき、タースは小さい手で、そう、まるで熊のようにぶんと手を振り下ろした。

熊は、ぎゃうと叫んで、その瞬間に走り出したが、その背からは派手に血を流していた。子供の手だ、とても熊に届く距離ではなかった。それなのに、熊は深手を負って山に逃げ帰った。タースは、呆然としている私を振り返り、それから一人で山のほうへと歩き出した。

私は、呼び止められなかった。
あれは、何が人間でないものだった。

普段のタースとは違った。何か、そう、悪いユルギアに取り付かれたみたいに、恐ろしい生き物になっていた」

「…何かに、護られていたということか」
「…たぶん、あの時の狐だ。化け物狐も赤い目をしていた。鉄条網の外で止めを刺した時、あの狐はタースに擦り寄っていた。タースは狐の血の涙を額に受け、血まみれになったまま泣いていた」
スレイドは顎に手を当て考え込んでいた。

タースの涙、化け物狐のユルギア。タースの涙がルリアイに変わっていたのなら、ユルギアがとり憑くことも考えられる。

それがあったから、タースは生き延びている。普段の優しい物腰や生真面目すぎる素直さからは想像もつかないほど、すばやい動きを見せたことがあった。ポケットからカギをすられた時もそうだった。
その二面性が、化け物狐に関連しているのかもしれない。

タースの中に化け物がいる。
スレイドは、男の肩に手を置いた。

「…私は、その化け物が、我らを恨むシデイラの思念の塊だと聞いています」
ドニは改めてスレイドを見つめていた。
「あなたは、一体?」
「もとは、聖女にお仕えした身だ。今は故あって軍人だがね」
ドニはスレイドの表情に何を想ったのか、深く礼をした。
身分が上のものにする、礼儀だ。

「いらんね。なるほどな、凝り固まった恨みを身のうちに抱え、タースは自覚もなく生き続けているわけだ。…なんだあの黒い雲は」
もう一度シモエ教区を見ようと見渡したスレイドの視界に、否応なくその雲は目立った。
晴天の空のはるか南に灰色の波が押し寄せるかのような雲の一群。
気付けば、風向きが変わっている。湿り気を帯びた、薄気味悪い風。
「あ、こりゃ、天気が崩れます。おかしいな、こんな方角から生ぬるい風が吹くなんて」
ドニが眉をひそめスレイドと同じ雲を見る。
ふとドニが首をかしげた。

「ありゃ、…飛行船じゃないですか」


黒い雲の波から逃れるように、白い楕円のものが飛び出す。
楕円の腹には赤いティエンザの紋章。
「ティエンザの軍機だな…ここに来るのか…」
スレイドは眼下の鉄条網のはずれにある採掘場を眺めた。

自動車を通す余裕がないと思ったのか。飛行船で、石を運ぶのか。急がなくてはならない事情があったか。ライトールの進攻のために早まったのか。

「…まずいな。私は採掘場に近づいてみる。あんたは、状況だけ報告しにもどれ。もともと、ボランティアなんだ、危険なことをする必要などない」
ドニはすでに足を速めるスレイドに怒鳴った。
「待ってください!私も行きますよ!」
走り出しかけ、ドニは歩を止めた。五メートル先の黒尽くめの男は、こちらに銃を向けていた。
「!?何を!」
「来なくていい、あんたは気になっていたんだろ。シモエ教区が。タースは無事だったし、今も元気だ。あんたは何にも悪いことなんかしてない。いや、一つだけ」
スレイドは銃を懐にしまいコートの襟を寄せた。
「タースは、その時殺しておくべきだった。それだけがあんたの失敗さ」
ふわりと身軽に降り始めるスレイドに、ドニは言葉を返せなかった。

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ユミさん♪

コメントありがとう~♪
スレイドさん、気の向くままのお人ですから♪
タース君の内にひめたる「想い」
それがあるからこそ健気だったり。ふふふ~。エンディングでユミさんにとってどういう印象になるのかな?楽しみ!
また来てね~♪

うーん。タースくんが分からなくなってきました。
実直でけな気ないい子という印象は変わらないけれど、内にある
ものが…。な~んて、人なんてみんな内側分からないですけどね^^;
スレイドさんの行動が読めなすぎて、先も気になりますが。
続きはまた今度読みにきます♪

松果さん♪

ありがと~お互い忙しいですね♪
スレイドさんにそんなことしゃべらせちゃいました。タースに関わるなかで一番冷静で客観視しているお人です。
こういう人がいると引き締まる気がして♪
コメント認証、これで変なコメントがこなくなるかと思って。
ちょっと面倒だけど、お願いしますね♪

お久しぶり

やっとコメントできます。

むむ…タースはシデイラの思念の塊を抱いた子?悲しすぎる。
それにしてもスレイドさん、再び登場!と思ったら、穏やかじゃないじゃないか~
>タースは、その時殺しておくべきだった
そうか、彼の立場ならそう考えるのかな。凄味のある台詞、ぞく~としましたよ。

(コメント認証の…面白いね。さすがFC2)
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