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「想うものの欠片」最終話 ⑨



その日は、レスカリア帝国を揺るがした海底火山の噴火から数日が経過していた。

相変わらず、帝国の北西沖には白い煙を吐き続ける火山があり、水蒸気と思われるその煙が川のように流れる。空は二つに分けられたかのようだ。
水温は上昇し、津波とあわせ沿岸の被害は相当なものだった。
それに対して、帝国政府は教会を通じて各地から物資を送る。それらの仕事は家を失った村の女たちが担当していた。男たちは船や家、畑の復興に励む。

そんな物資を輸送する荷馬車が、日に何度も町の中央の通りを横切る。公園の噴水で馬が水を飲み、操る女たちも休憩していた。


タースたちは荷物の積み下ろしを手伝うことを条件に、その一つが帰りにこの町に寄ったとき、帝都まで乗せてもらうことになった。宿を提供してくれた家の主人が、知り合いの女性に頼んでくれたのだ。

宿を提供してくれたマイリー家は、その街の外れにある農家だった。庭にヤギとウサギ、鶏が飼われている。タースが寝ていた部屋は、離れに作られた作業小屋の一画だった。麦畑の収穫の時期に手伝いの人を頼む。そのための宿泊場所だった。
農家の朝は早い。

鶏が鳴く声で目覚めたミキーが、様子を見にタースの部屋に入ろうとし、鍵が開かないですのと騒いで。タースはそれで目覚めた。

謝礼代わりにタースが薪割りと炊事を手伝い、器用な手先で馬車の車輪の不具合を調整した。ついでに、壊れかけた玄翁やさび付いたナイフを研いだり直したりしたので随分重宝された。
そうなると、ミキーやシーガはただ、見ているだけだ。

水くらいは運べるとシーガが申し出たものの、紅茶色に日焼けした奥さんは彼の腕を見て、笑った。
「あんたみたいな細っこい異国人は初めてだよ。それより、あのお嬢ちゃんの面倒を見てくれればいいよ。あの子がふらふらすると男どもは仕事が手につかなくてねぇ」
そう言って背を何度も叩く。なれなれしい様子は国民性なのか。
普段、人に冗談でも触れられることのないシーガはその度に妙な顔をしていた。

ミキーはその家で飼われているヤギの世話を買って出たが、可愛らしい少女の手が汚れるとか、危ないとか、見ていた家の主人マイリーとその息子が何かと先回りして手伝う。

結局、ミキーがやることは何一つない。それでも少女が面白そうにヤギを眺めるので、今や、マイリー親子はそこに張り付きっぱなしだった。

「申し訳ないです、役に立つか分かりませんが、受け取っていただきたいのですが」
シーガが取り出す銀貨に、奥さんは嬉しそうに受け取った。
「きれいだねぇ、これ、穴を開けて首にかけようかね」
ライトール公国で一月分のパンが買える銀貨は、彼女にとってその程度の価値しかないようだった。

昼前に荷馬車が到着したので、マイリーさんたちに別れを告げ、三人は再び狭い荷台に身を寄せる。
質素なレンガ造りの家々が遠ざかると、はるか向こうまで見通せる丘陵地を荷馬車はゆっくり進んでいく。

昼の日差しに幌の影も透ける。赤土の道路をガラガラと進み、過ぎ去っていく景色をタースはミキーと供に眺めた。
土の赤、木々の暑苦しいほどの緑。空の青は強烈で、日差しがじりじりと三人を蒸す。
極彩色のこってりした油絵のような風景。
タースは膝を抱えて眺めていた。
眠れなかったためか、また、うとうとし。



気づいた時には、景色は違うものになっていた。
馬車が止まる。

「はい、ここが、我が国の中心。帝都、タシキモーニですよ」
声をかけられ、顔を上げる。
シーガはあの変な黒いガラスの眼鏡をかけ、帽子を目深にかぶった。
ミキーも日差しを避けるためなのか、ただ単に、新しい帽子をかぶりたいのか、荷物から引っ張り出した白いレースの帽子をかぶると、はみ出した髪を整える。
「んー、よし!!」
伸びをして。
タースは一番にその街、タシキモーニに降り立った。

この都市はこの国のもっとも高い位置にある。
立つだけで日差しの鋭さに石畳に押し付けられるような圧迫感を受ける。それでいて、気温は低いのだろうか。港の街とは比べ物にならないほど、澄んだ空気。風は強いが、乾燥していて心地よい。
そして何より、タースの降り立った広場から、遠く海までが一望できた。
広場は、都市を囲う城壁の上に設けられている。城壁は街を囲むようにぐるりと渡され、そこは人々が生活に使う通路だ。馬や牛、人や馬車が行き交っていた。城壁の外側に張り出した広場は、石造りの手すりがめぐり、タースはそこにもたれて眺める。
この国を。

想像以上に小さい島国だった。ぐるりと見回せば、海の中の島なのだとわかる。人々は空と海の青に囲まれそれを実感して生きている。
遠く、火山の煙が見える。この風景が絵画なら、片隅のシミのようなそれが、あの港だ。
港町の記憶はタースにはほとんどないが。シーガはそれをじっと、感慨深そうに眺めていた。ミキーもじっと見て、やっぱりないですの、とつぶやいた。
「なにが?」
「のせてくださった船です。大きくて、荷物をたくさん積んでいました」
「ふうん。そうか。船、だよね。そうだ。なんだ、僕、そんなことも気付かなかった。シーガたち、船で着たんだね。いつ来たの?それに、…どうして、来たの」
タースの質問はシーガにむけられている。
青年はふいと向きをかえ、歩き出す。
「ちょっと、あのさ、何で教えてくれないんだよ!」
追いかけるが、ミキーが待ってと引っ張るので、すぐに追いつけない。
「ね、ミキー、知ってる?どうして、レスカリアに来たの?何かあったのか?」
ミキーはタースの腕にしっかりしがみついて、甘えるようにすり寄る。
「タースに会いたかったですの」
「あ、うん」
タースが知りたいのはシーガの理由だったが。
ミキーの言葉も嬉しいから、柔らかい手を握り締めた。

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