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「想うものの欠片」最終話⑪

11

「え?」
そんなこと、初めて聞いた。
「だって、じゃ、旅の人はどうするんだよ」
「教会が無料で寝所を提供するのだそうです。無料、というか。そういう概念もありませんが。タース、気付きませんか。この市場の取引はすべて物々交換です。あとは、マイリーさんがお前にくれた木の札。あれが通貨の変わりに物と交換できるのだそうですよ」
タースは、手に持っていた麻の袋をからりと揺らした。
馬車の車輪を直した時に、マイリーさんがお礼だといって渡してくれた。何の意味があるものか分からなかったけれど、いらないともいえず、とりあえずもらっておいたのだ。
「あ、なるほど。宗教の国らしいね、そういうところ。ラッキーだね、ただなんだ」
「そうともいえないのですよ」
「なんで?」
「この街の教会とは、宮殿のことです。だから。お前は、変装が必要なんですよ」

タースはがっくりとうなだれた。

ふいに、シーガが立ち止まる。
肩にぶつかりそうになって、タースは視界を遮る深紅の羅紗をかき上げた。
「なに突っ立ってるの?」
シーガはどこか遠くを見て、そして不意に二人を振り返る。
「!?」
「来なさい!」叫ぶと同時にミキーを抱き上げた。
「え?」
タースの手を引き、市場の真ん中の噴水に向かって駆け出した。
「シーガ、なに!?」

ぐらりと。地面が揺れる。
「地震!?」
びりびりと空気がゆれ、ピシっと何かが聞こえる。
人々の悲鳴。
シーガに押さえられ、池の縁に寄り添うように身をかがめたタースの目の前で、足元の石畳がひび割れる。
「わ!」
立ち上がりかけてまた頭を押さえつけられた。
「動いてはいけません!」
がしゃん、と陶器の割れる音、みしみしとテントを支える木柱がゆれ、傾いたランプは炎をまとって落ちる。悲鳴。
ドンと。地響きと共に崩れた建物が人々の上に覆いかぶさった。
一瞬にして目の前は黄色い砂煙。
あのレンガが衝撃で粉々になったのだ。
そこにランプの炎が埋もれ、ボスン、と小さな爆発が起こる。


タースは抱えた膝の間から、そっと。

顔を上げた。

うめき声。助けを求め、叫び、すすり泣く。
うわーと火がついたような子供の泣き声。

靄がかかったような中、向こうでテントの屋根に燃え移った炎がぼんやり辺りを照らしていた。

見回すと、シーガが頭を振った脇で、座り込んでいるミキーが恐る恐る顔を覆っていた手を離したところだ。
「大丈夫?」
「ええ、お前こそ、平気ですか」
「うん。ミキー、ほら、おいで」
タースが手を伸ばすと、少女はふわりとしがみつく。
「怖かったの?」
タースの腕の中で大人しく頷く少女に、シーガは目を細めた。
いつの間にか、本当に人間に似てきている。
「よく分かったね、シーガ。シーガのおかげだよ、でなきゃ、僕らはあの下にいた」
タースはミキーを抱きしめたまま立ち上がり、崩れた瓦礫を見つめた。
「海が震源でしょう。また噴火かもしれません。魚たちの悲鳴が、聞こえたのです」
「ふうん。すごいな。シーガも陛下みたいだ。たくさんの生き物の想いが聞こえるんだ。羨ましいな」
シーガは目を丸くしていた。
「あ、なんだよ。変な事言ったかな。だってさ、人の思念だけじゃなくて、すべての生き物の声を聞くんだろ?それ、ものすごいことだよね。一つ一つ想いがこもっているものだからさ、それを受け止めるのは大変だけど、逆にたくさんの想いを救えるって事だよね」
「…ばかですね」
「は?」
「さ、手伝いましょう。お前も応急処置くらい出来るでしょう?ミキー、タースを手伝ってあげなさい」
シーガは、気を失った子供を介抱する母親に近づいていった。
首をかしげながら、タースも見回して、瓦礫に足を挟まれた老人を見つけた。
「ミキー、誰にも触っちゃだめだよ」
「はい」



タースも、シーガも。出来るだけ多くの人を助けようと奔走した。
レスカリアの民は折れた足を棒切れで固定するタースを、目を丸くしてみていた。
深紅の羅紗はちょうどいい包帯に変わった。
あちらで切り傷に酒を吹き、固く布で巻くシーガ。
大半が、骨折や打撲などの怪我だ。大勢が怪我をしたものの、津波に飲まれた街の教会ほど惨憺たる状況ではなかった。
建物も二割程度が崩れただけで、他は問題がないように見えた。
「はい、これでじっとしてるしかないよ」
タースが折れた足を固定して、呆然と見ている父親に笑いかけた。
「外傷はないから、ほら、こうして固定しておけば歩けるようになるよ。お父さんでしょ?教会へ避難させてあげたら?」
「あ、ああ?あんたたち」
「以前勤めていた工場でね、習ったんだ。機械を扱う工場だったから、こういう怪我をする人が多いんだよ」
痛みにぐったりしている小さな男の子を抱き上げて、父親に渡してやる。
「あ、待って、その人、運ぶ前に止血するよ」
タースは次のけが人に駆け寄る。
運ぼうとしていた男は、驚いていたが、タースが処置を始めると感心したように見つめていた。

周囲にいるけが人の大半を手当てし、手当てを終えたものから歩ける男たちが背負って教会へ運ぶ。
「あんたたち、すごいな」
一人の若者がタースに話しかけた。タースより少しだけ年上のようだ。
先ほど若者の妹の骨折にあて木をしたのだった。
「ううん、自己流の応急手当だからね。この子のほうがすごいよ」
タースは横に立つミキーの頭をなでた。
ミキーは一通りの処置を心得ていて、タースが迷うようなけが人も、的確な指示を出してくれたのだ。
「シーガさまのためにお勉強したですの」
「うん、偉いよミキー。ますます大好き」
ぎゅっと抱き寄せられて少女はきゃと小さく声を上げた。
「え?」
「びっくりしたですの」
照れたような表情をするミキー。タースは少女の変化に気付いた。
「あれ?何、恥かしいの?」
「よく、わからないですの!」
つんと顔を背けて、肩に乗るタースの腕をはがそうとする。
柔らかい手でそれは無駄なのに、うんうんとがんばるのがどうにも可愛い。
ひょいと抱き上げると、ミキーはぱたぱたと脚を振って暴れた。
「タース、意地悪ですの!」
「なんで、なんで?いつもしてたのに。いつもそんなに恥かしがらなかっただろ?」
「タースぅ!」
いちゃつく二人に呆然とする若者に、シーガはため息混じりに話しかける。
「あれは放っておいてください。みっともない。私たちがしたことは簡単なことです。君も見て、大抵意味がわかったでしょう?」
「あ、はい」
暗がりでも、青年の肌が白いこと、その髪が銀色に輝き、美しい瞳が優しいことが若者の胸を打っていた。

「君が覚えたことを、他の人にも教えてあげなさい。私たち二人で出来ることは少ないですが、君が大勢に教えれば、その分たくさんの人が助かりますよ」
「は、はい!すごい、あなた、神様みたいだ!」
びくりと、シーガは肩を震わせた。
若者の声に、数人の人々が顔を上げた。
瓦礫の中、あちこちに座り込んでいた人々も、けが人を背負って教会へと運ぶ男たちも。広場の瓦礫の野に立つ黒衣の青年を見つめた。

「銀の髪、それに翡翠の瞳!神王様の血筋のかたなんですね!本当に、神様だ」
若者がその場に片膝をついて、礼をする。
「な、なにを…」
ふわりと風が吹く。
いつの間にか帽子は失っていて、銀の髪がなびいた。
「ありがとうございます」
嬉しそうに満面の笑みの若者。その向こうでも、一人、動けず座り込んでいる女性が頭を垂れた。
「ありがとうございます」
背後の声に振り向くと。
その場にいた大勢が、シーガに向かって祈りを捧げていた。
「ち、違います!私は神ではありません」
「シデイラの民は、神の民。遠い過去、そう呼ばれてきたのですよ。あなたもご存知でしょう」

聞き覚えのある声だった。

「シーガ!」
タースが駆け寄ろうとして、両脇から軍兵に押さえ込まれた。
数人の黒衣の兵に護られるようにして、ティエンザの大司祭、ガネルが立っていた。
「皆のもの!この方は神にも等しきお方!感謝するがよい」
老人の声は、よく通り、人々は再び深く頭を下げる。

「放せってば!」
タースはもがいて暴れるが、両脇を軍兵に抱えられては身動きが取れない。
「やっと捕まえたぜ、賞金首。お前のせいで俺たちは酒を弁償したんだ」
「それは勝手にやったんだろ?知らないよ!」
ごつっと小突かれ、タースは軽く舌をかんで、黙った。
「さ、シーガさま、陛下がお待ちです」
にやりと。白髪の老人は目を細める。
ミキーはいつの間にか軍兵をすり抜け、シーガの脇にしがみついていた。
向こうへと連れられていくタース。
シーガは小さくため息をつき、歩き出した。

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