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「想うものの欠片」最終話⑬

13

「!」
目を閉じて、じっとしていた青年が、不意に顔を上げた。
「きゃ!」
髪を乾かしていた侍従がびくりと頬を染めた。
「あの、引っ張りすぎました?」恐る恐るたずねる侍従を完全に無視して、シーガは立ち上がった。
裾が揺れるたび衣装の重さを感じる。
つかつかと扉に向かう。
「あ、だめです、あの!シーガさま!」
慌てた侍従が駆け寄った。
と、同時に外側から、扉が引かれた。

目の前にガネルが立っていた。
シーガはその驕った表情の胸元を勢いのまま掴みあげた。
「な、なにを」
「タースに、何をしたのです!二人に手を出すなら、許しませんよ」
シーガに押し出され、もがくようによろめくガネルを、背後にいた軍兵が支える。
「大司祭さまを放せ!」怒鳴りつけるが、ガネルが手を上げて制した。
「まあ、待て。シーガさま、落ち着いてください。我らは何もしていませんよ、あんな子供二人に、何をする意味があるんですかな?」
シーガはじろりと睨みつけた。
怒鳴りつけた兵士は背筋に寒いものを感じて身を縮めた。
「シーガさま、皇帝陛下に、会いたくないですかな?」
ガネルの表情は変わらない。
シーガは手を緩めた。
「さ、どうぞ中へ。お話があるんですよ。まさかここであなたに会えるとは、私もついている」
再び先ほどの部屋に戻された。侍従たちが茶の用意をし、シーガとガネルはテーブルを挟んで座る。
「シーガさま、あなたが我らに協力してくだされば、あの二人はお返ししますよ。別に我らにとってなんら価値のない二人ですからな」
「タースを、追っていたのではないですか」
茶の湯気の向こうでガネルが低く笑う。
「ああ、混血の。もういいんですよ、戦争は始まった。ティエンザの王はライトールを征圧するでしょう。そして、我らは」
「レスカリア、ということですか」
「ええ。この国は、疲弊しきっているんですよ。民は飢え、貧しい。蒸気機関もなければ電気もない。未だに物々交換です。しかし、民は知っているんですよ。もっと豊かな国があることを。ですから、私はレスカリアの国民に協力した」
「…どういう、ことですか」
「民は何も知らされずにいる。新しい技術も、素晴らしい富も。美味しいものも知らず、病を治す方法もない。この宮殿に務めるものたち、正式には聖職者でしょうが。彼らは民に豊かさを与えたいと願っていた。しかし、皇帝陛下は認めない。だから、起こるべくして起こった」
「…反政府活動」
タースが巻き込まれたあの事件だ。

「さすが、お耳が早いですな。そうです、クーデターですよ。今や、皇帝陛下は自らの家臣に捕らえられ、幽閉の身。それでもこの国の民は気付きもしない。情けない、存在感のない皇帝だ」
シーガはカップを手に取った。
ゆるりと一口含むと、目の前の老人を見つめる。
どんな職人が手を尽くしても作り出せないほどの、美しすぎる造形の青年。神の民の名称に相応しい。
その表情に何の感情が含まれるのか、ガネルも測りかねた。
「皇帝の家臣が何故新しい技術のことを知ったのか。まあ、そこは問いません。大司祭、あなたはレスカリアの民のために今ここにいると。そうおっしゃりたいのですね」
ガネルは片側の頬をピクリと震わせたが、笑みを浮かべる。
「ええ、我らはレスカリアの民に協力しているのですよ」

目の前に置かれた砂糖菓子に太った手を伸ばし、ガネルはむしゃむしゃと頬張った。
「私に、協力して欲しいこととは、なんですか」
「シーガ殿。ご存知ですかな?神に選ばれたものの運命を」

白い太い眉の下、ガネルはにやりと目を細めた。嘗め回すように見つめられ、シーガは眉をひそめた。
「もちろん、伝説かもしれぬが。神王は神に選ばれたもの。力を得て世界を支配してきた」
「…それが、皇帝陛下だと」
ガネルは頷いた。
「しかし御覧なさい。今やこの世界は災害だらけ、異常気象に我ら人々は悩まされている。多くが命を失い、職を失い路頭に迷っている。明らかに、神王は失敗なされた」
大胆なガネルの言葉に、二杯目の茶を入れようとしていた侍従の手が一瞬震えた。
「失敗した神王は、新たなものにその座を譲るべきです。お分かりかな」
「…神王が変われば、世界は救われるとでも言うのですか」
ガネルは肩をすくめた。
「シーガ殿、ご存知でしょう?我らが神王を神として崇めるのは護ってくれるからじゃ。それが人のためにならねば交代していただく。おかしなことではない」
「異常を作り出すのが、人間だとしてもですか」
「おかしいのは世界のほうじゃ。地震や嵐、冷害。人はそのために多大な被害を被っておる」
シーガはため息をついた。
タースが語っていた、神王のあり方。
自然の想いを人に伝え、世界を護る。それは、人を護るためではない。

人という生き物の可能性にかけるかどうかは、神王が決めるのだろう。このまま何もせずじっとしていれば人は自ら滅びていく。救うなら、何かしら働きかけるか、あるいは自ら死を選ぶか。

働きかけても、神王の思惑など人は理解できないのかもしれない。
ユルギアの存在を悪しきものとし、シデイラ民族を否定している今では。
前皇帝の二百年。シデイラを虐げたあの暗黒の時代の余波は、今もこんな形で世界を蝕んでいる。

このままでは、人は世界を道連れに滅ぶ。
伝説どおりなら。それを止めるためには、神王を亡き者にしなければならない。
シーガにとって、まだ見ぬ父親だ。

目の前のこんなくだらない男のために、それをする必要があるのか。人の文明とは守らなければならないのか。
シーガはこれまで訪れた多くの街を思い出す。
どの街の、どんな人間たちも。
かつて、シーガは嫌いだった。

雑多な思念が渦巻く、人々の騒々しい世界。新しいものを追い求めようとするあまり、人を人とも思わないような領主。自らの利益のためなら人を殺めることも厭わない下町のいかがわしい連中。
ユルギアなど、人の思念など、消えてしまえばいいのにと。何度願ったことか。

「シーガさま、あなたにはぜひ、次の神王となっていただき、我ら人間に多大なる恩恵を賜りたい。ああ、あなたは何もなさらずともいいんですよ。ただ、皇帝陛下を殺してくだされば。後は我らにお任せください。私がこの国をもっと素晴らしい国にして見せます」

「人間など…」
シーガのつぶやきに、何か力がこもるのかガネルは手元の紅茶の水面が奇妙に乱れるのを感じた。
「あの二人を助けたくないのですか?ご協力いただけないのなら、残念ですが」

また、遠く。少年の悲鳴に似た痛みが悪寒となって背を這った。あのナトレオスでタースが泣いていた、あれと似ている。眉をしかめ、シーガは目をつぶった。
人間などどうでもいい。
この世界で、護りたいと願ったものなど。
多くはない。


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史間さん♪

ありがとう~♪
この辺、いっぱい語ってしまっています~。
人のあり方。
ガネルの言うのも、やっぱり、分かる気がするし。それぞれ、思惑や理由があって行動していますから……。

どうなるのか。
後、少しですよ~♪
お楽しみにっ!

ガネルの言うことは、実に人間らしい。
人間の多くがそれを願って頼っていることですね。
でも、世界は人間のものじゃない、人間が世界の一部なんだと。
理解できても飲み込めないのが人間なんですよね~ううん。
シーガに守りたいと想う存在ができてしまっています。
ど、どうする!?
また続きを楽しみにお伺いいたします~♪
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