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「想うものの欠片」最終話 ⑭

14
遠く離れたシモエ教区。

飛行船の後部にある貨物ハッチが開かれていた。

採掘の際に出た土くれが、丸太で組まれた四角い囲いにあふれんばかりに盛られている。それがいくつも並んでいた。
その影に身を隠しながら、スレイドは観察していた。
雪原を大急ぎでならしたのだろう、雪の小山も点在し、ちょうどいい隠れ場所がいくつもある。
シートで囲われた採掘場への入り口には、兵士が立つ。

危険な場所だと認知されているからだろう、採掘場の周辺にはティエンザ軍はいない。
シモエ教区の保護施設に軍は駐留しているようだ。積まれた土嚢が建物周辺の鉄条網を支えるように小山を作っている。
飛行船が降り立つときの騒動に紛れ、スレイドは採掘場の近くに忍び寄っていた。


採掘口へはレールが敷かれ、トロッコが一台、ちょうど出てきた。鉄製の筏状のそれには黒い布で覆われた何かが乗っている。付き添って乗っているのはシデイラだ。やせ細り、ますます白く見える彼らはティエンザ兵の銃に脅されながら、荷物を木製の樽に移し変えた。オトナ四人がかりで持ち上げた荷物。大きさで言えば馬の頭程度だろうが、それは見た目よりずっと重量があるらしい。シデイラの男たちは何度もよろめきながらそれを樽に入れた。男たちが離れると、今度は別のシデイラが樽の中に土を入れ始めた。
どうやら鉛を混ぜたものらしく、黒ずんだそれを樽に詰め終わると厳重にふたをした。

「やだねぇ、あんなに持ってどこに行くつもりなんですかね」
ぼそりと独り言。声になっている意識はスレイドにはない。

グカ。
覚えのある鳴き声と共に、黒い塊が落ちるようにスレイドに突進してきた。
「うわ」
一緒になって地面に倒れこんだ。

「おい、今何か、そこに落ちなかったか?」
見張りの兵が気付く。
「なんだ、ほら、カラスじゃないか」
もう一人が指し示した時には、土くれの山をカラスが尻を振りながら歩いていた。
「なんだ、カラスか」
タンラが山の上で兵士たちにダンスを披露している間に、スレイドはやけに大きな書類を開いていた。
そこには、赤い石をティエンザが何に使おうとしているのか、が書かれていた。
数枚をめくる内にスレイドの口元には緩やかな笑みが乗る。
「ふん。大公。あなたを死に追いやった同じ男が、国を救うのですから……世の中ってのは皮肉に出来ている」
つぶやいてスレイドは書類をしっかりと服の下に巻きつけた。
タンラが兵士に近寄ってはからかう隙を突いて、スレイドはさらに飛行船に近づく。
次にトロッコに運ばれてきた黒い布の包みはずっと小さい。
先ほどの樽詰めの場所にそれをもってくると、シデイラの男たちは何かを待つように立ち尽くした。
「それは一粒ずつ、火薬と一緒に詰めるんじゃ」
そう指示した男は、飛行船の貨物室から怒鳴っていた。自分は安全な位置にいたいのだろう。白衣の上に分厚い毛皮を着込んだ、あのサンルーの大学にいたレクマイヤー教授だ。その後ろにリックの姿もある。
シデイラの男たちは言われるがまま、包みを開いて中から赤い石を取り出した。用意された小さな樽に、そっと一つずつ入れていく。
その後に黒い粉、火薬と思われるものを詰め、導火線をつけると、ふたをする。
「あんな、ものを!」
明らかに武器だ。ダルクの記事はすべて読めていないが、熱を加えて燃焼させると恐ろしい力を広範囲に振りまくとあった。
アレがもし、ライトール公国に落とされでもしたら。
触れるだけで人を殺す石。それが火薬で爆破され、塵のように降り注いだら。街も、都市も全滅するだろう。

タンラに口笛で合図する。
タンラはからかっていた兵士の一人に、襲い掛かった。
「うわ!?」
「なんだそいつ!」
慌てて駆け寄る兵士たちの背後を突いて、銃を三発。
タンラはすでに次の標的にと飛び掛る。
銃の音に向こうからも警備兵が駆けつけるが、スレイドはその前に飛行船の貨物室に飛び込みレクマイヤー教授を人質にとった。
「あ、あんた!」
リックが目を丸くした。

近寄る兵に囲まれながら、スレイドは教授の首に銃を当てる。
「近寄るな!いいか、近寄ったらこいつは殺す」
ざっと見たところ兵士は十五人程度。立ち尽くすのが三人、十二人は駆けつけたところで雪の山の向こうに半分隠れている。
「ほら、シデイラのおっさんたち、兵士から銃を奪ってもって来るんだ。こんな危険な作業をさせられて、うんざりだろう?」
顔を見合わせたシデイラの男たちは、頷きあってそれぞれ近い場所にいた兵士から銃剣を奪い取ると、構えた。
「貴様、こんなことをしてただで済むと思うな」
取ってつけたような台詞のレクマイヤー教授を、スレイドは拳銃で殴りつけた。
「あ、教授!」
リックは一歩近づきかける。
「あんたは、何をしているのか分かっているのかい?シデイラのあんたたちは知っているんだろう?この石のことを」
スレイドの視線にシデイラたちは、黙って頷いた。
「相変わらず、辛気臭いねぇ。つまり、この小さい樽の中身が、一つでも街に落とされれば、ライトールも、ティエンザだってただじゃすまないってことだな。国が壊滅的な被害を被る。大勢が死ぬことになるんだ!」
レクマイヤー教授がごくりとつばを飲み込んだ。
「そうだろ?リックさんよ」
リックはスレイドに睨まれ、びくりと震えた。
シデイラの男たちが、いつの間にかティエンザの兵士を縛り上げていた。
「いいぞ。あんたたち」
気付いてスレイドが笑った時、シデイラたちが持つ銃が、一斉にスレイドを狙った。

「!?ちょっと待て」
視界にいるティエンザ軍は縛られ、今動けるのはシデイラの民七名ほど。彼らが、スレイドに銃を向けたのだ。数名が、先ほどの樽詰め作業を続けた。
「何してるんだ、おい、そいつは危険な代物だって言ってるだろ!そいつを作って、…まさか」
「お前は降りろ」
シデイラの一人が進み出て、スレイドを人質ごと引っ張る。
「な…?」
教授を脅していた銃をもぎ取られ、雪原に転がされる。
素手で反撃できないこともないが、銃剣はあと九つ、スレイドを狙っていた。
「ぐ、はあ。なんじゃ、話が分かるじゃないか、ぐへっ」
レクマイヤー教授が自由になって首を振ったところを、先ほどの男が殴りつけた。
「さっさと乗れ、いいか、どこでもいいが、これを積んで飛び立つんだ。いいな」
シデイラの男がそう教授とリックを脅しつけている間にも、残ったシデイラの男たちがせっせと樽を貨物室に運び込む。
最後に縛り上げた兵士たちを歩かせ、彼らも飛行船に詰め込まれた。
「いいか、飛び立つんだ。どこへでもいい。言うことを聞かなければ、この風船を撃つ」
リックは縮み上がった。
飛行船のバルーンの中身は水素。そんなことをされたら大爆発だ。
「わ、わかった」
「おい、待て!!リック、あんたは本当にそれでいいのか!!ライトールには両親がいるんだろう!?」
スレイドの叫びも空しく飛行船の貨物ハッチが閉じられる。
飛行船を地につなぎとめていたロープを、シデイラたちが解く。動き始めた蒸気エンジンに排気口からは真っ白な煙のような熱された空気が吐き出され始める。
バルーンの浮力に船体はゆらりとかしぐ。
ゆっくりと、船体の左右についていたプロペラが回り始める。
スレイドはシデイラたち二人から銃を突きつけられたまま、雪原に膝をついていた。
ぶん、と排気の空気が視界を塞ぐ。
それに乗じてスレイドは見張っていた左右のシデイラたちを倒していた。
パン!

蒸気エンジンの轟音の中、かすかに銃の音が響いた。
ソチラを見やるが、スレイドは巻き上がる雪と蒸気に邪魔されて何度も頭を振った。
と。
ボン!

上空が一瞬光る。
黒い雲に覆われた薄暗い中、ゆらりと船体を持ち上げていた飛行船のバランスを取る水平翼の一つが、すぐ脇のエンジンと共に吹き飛んだ。

「な…」
生暖かい風がごおとスレイドの体を通り抜け、後には元の雪原が広がる。
視界が一気に冴え渡る。
傍らに、一人のシデイラの男が、立っていた。
彼は構えていた銃をおろす。
「…あんた、何をしたのか分かってるのか!?」

飛行船は煙を巻き上げながら、舵が取れないのか右に旋回し始め、そのまま急速に高度を上げていく。
「アレが、上空で爆発したらどんなことになるか!」
シデイラの男は、座り込んでいる黒尽くめのスレイドを見下ろした。
冷たい翡翠の瞳。
「滅びるなら滅びればよいのだ。そうではないか?ライトール人。我らは、よいか、我らシデイラは今ここにいる数名のみ。残るものはすべて殺された。ティエンザだろうと、ライトールだろうと、人間など滅びればよい。我らが神の民と呼ばれる由縁は、太古から神の石と恐れられた緋石、ラニウムを護る民だからだ。強大な力のある石をなだめ押さえられるのは我らだけ。その我らを迫害し、絶滅させるお前たちが、神の石に滅ぼされるのは必然だろう。我らは黙ってきた。ずっと、この石の存在を隠し通し護ってきた。それを掘り起こしたのはお前たちだ。滅びる。すべてな」

立ち去る男たちの後姿を、スレイドは見ていられなかった。
あれが、あの飛行船が落ちれば、爆発すれば、ライトールは。
足元の雪を握り締め、拳を打ちつけた。
凍りついた地面に、かすかなくぼみが出来た。

グカ。
肩に、タンラが乗る。うなだれる主人の頬に、かさかさと冷え切った頭をすり寄せた。

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