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「想うものの欠片」最終話 ⑮

15

「どうなっているんだ!」
機関室からの応答はなく、先ほどからゆっくりと回転し続ける船体に、よろめきながらレクマイヤー教授は通信装置に向かって叫ぶ。
押しのけられて転んでいた船長が、何とか上半身を起こす。
リックは、必死に戸口にしがみついていた。
「このままでは、バルーンが爆発する!いや、それだけじゃない!積荷が」
レクマイヤー教授は狂ったように頭を振り続け、次にぐらりと傾いたところで転んだ。
「教授!」
何とか助けお起こした時には、額を切ったのだろう、血がふた筋こめかみを流れた。
「ええい、リック!積荷を落とすんじゃ、アレが爆発したら大変なことになる!」
「おと、落とすって、教授、この下は町が…」
「なに、石はまた掘り出せばいいのだ!心配するな!それとも、わしが死んでもいいというのか?」
リックは、分かりました、と低く答え、貨物室へと通路に向かう。
回転にあわせ右に、左にと傾くそこをまるで酔っ払ったようによろよろと進む。

街がある。
途中の窓から、雲の切れ間から。
かすかに蒼白くかすんで見える。
街がある。
見覚えのある地形。
海と、トラムの鉄道。

ライト公領だ。

「…父さん」

不意に、強風にあおられたように揺れた。
どん、と壁に背を打ちつけ、リックはそのまま座り込んだ。
「お父さんが、親方が喜ぶと思うの…」そんなことを、言っていた少年を思い出した。

父親とは、しばらく絶縁していた。
久しぶりに戻ってみれば、ライラは成長し、母親は温かく迎えてくれた。
父も、態度は硬いままだったが、受け入れてくれた。
いくつか酒盃を交わすうちに、つい本音が出た。
「後を継ぐつもりは、ないんだ」
その後の沈黙に、やはり言ってはいけない言葉だったと苦い酒の泡をかんだ。
だが、しばらく黙ってグラスを空にしていた父親は、ふとため息をついて言った。
「いいさ。実はな、有望な跡継ぎがいるんだ、…今はここにいないが」
その視線が、妹のライラに向く。ライラは何度も瞬きし、その目は涙で潤んでいた。
「いつか、なぁ。いつか呼び戻したいんだ、あいつには他に帰る場所なんかないさ」
「あなた、飲みすぎですよ」
母親がたしなめ、珍しく父親は素直に頷いた。頷いたその眉に白いものが混じっていた。父親も歳をとったと、感じた。
父親の思うとおりになんか生きてやらない、そう決心して飛び出してから、何年が過ぎたのだろう。
今も、その跡継ぎとやらを待っているんだろうか。
あれは、もしかして自分のことを言っていたのではないだろうか。
リックは、頭を振った。

耳に響く、機関室の音。
立ち上がりかけて、すがった手すりから、また眼下に広がる街が見える。

そこに、彼らがいる。自分を、もしかしたら待っている。


リックは口を結んだ。
貨物室を振り返り、そして、操縦室へと駆けもどる。
「レクマイヤー教授、海へ向かいましょう!」
揺れのひどさに酔ったのか、教授は座り込んで青い顔をしていた。
「ああ?なにを言っているんだ?」
「あの石を採掘したのは私たちです。抱えて、最後まで責任を取るのが筋というものです」
「お前、おかしくなったのか?」
眉を寄せ睨みつけるが、立ち上がる様子はなかった。
船長が傍らに立ち、リックの肩を叩いた。
「海、ですね」
「ええ、船長、あなた方は今のうちにパラシュートで逃げてください!私が、残ります」
四十代前半の船長は、太い眉をひそめた。
「リックさん、でも、それではあなたが」
「…いいんです、運があれば、海に不時着でもしますよ」
不可能に近い。
「お前、お前はどうしたんだ!研究のためには犠牲はつき物だぞ!」
「教授、確かにとても大切な研究です。ですが、帰る場所を失っては、研究も意味はない」
「リックさん、私と機関士を一人残します。それだけいれば最低限、操作できます」
船長はそう笑って、通信装置から乗組員に避難を命じる。
レクマイヤー教授はゆらりと立ち上がった。
「ふん、ばかものが。わしは避難するぞ、お前などどうにでもなれ」
リックの肩を突き飛ばすように通り抜けると、よたよたしながら後部ハッチへと向かう。その後姿を見ながら、リックは深く礼をした。
「お世話になりました」


程なく、ライトール公国の上空をゆらゆらと流されるように飛んでいた飛行船から、小さなパラシュートの傘がいくつも降りた。


「トエリュ様、今何か、空を横切りました」
気付いたミネアの言葉にも、公太子は視線を動かさない。先ほどから握りしめたミネアの手と同じくらいしっかりと見つめている。
小さく首をかしげミネアが困った表情をしても、トエリュには今丁度、煩いジンジャーが席を外しているのだから、逃す理由はない。
この機会を。

「欲しいものはすべて手に入るのだぞ」
「…トエリュ様」
「このように手を荒らさずともよいのだ。私のそばにいるだけでよい」
真っ直ぐなトエリュの言葉に、ミネアは何度も瞬きする。
そして、ふうと派手に息を吐いた。

「トエリュ様。今、この時も、スレイド様は遠い北の地で戦っていらっしゃいます。この国とご自身の信念のために。あなたは、ご自分がどなたでいらっしゃるかご存知ですか。私は知っております。前大公のご子息。その後を継ぎ、このライトール公国を守り平和をもたらす責任がお在りの大事なお方です。国民も、政府の人間も皆、知っております。あなた様が何をなさってくださるのかを今もじっと待ち構えているのです」
青年の頬に朱が走った。勢いのまま窓辺にミネアを追い詰めた。
「それがなんだという!どうせ、奴らは私を名ばかりの大公に仕立て上げるつもりだ。そうだろう!スレイドも同じこと!その真意など、計り知れぬ」
ミネアは微笑んだ。白い頬にかすかに浮かぶえくぼ。脳裏に浮かぶマシュマロの香りにまかせ、トエリュは抱きすくめようとする。
が、数瞬早くミネアが両腕を突っ張った。その手には丸い銀盆。そこにうつる自身の歪んだ像にトエリュは嫌なものを見た気分になる。
「でしたら。ご自分で、指揮をお取りになるしかないのではないですか。私は、スレイド様を尊敬申し上げております。私は、地位も名誉もありません。自分自身の力で誰かを救ったり、護ったりは出来ません。ですが、だからこそ。一つだけ決めたことは、たとえトエリュ様に刃を向けられようとも、曲げることは出来ないのです。私には、それしかないのです」
「……それ、は」
聞かずとも。
「心よりスレイド様をお慕い申し上げております」

トエリュは憮然としたまま、黙り込んだ。
「どうか、周囲をご覧ください。多くのものが貴方様を慕い、御護り申し上げております。彼らにどうかご慈悲を。それこそ、大公である証。一領主では勤まらないことでございます」
窓からの明かりで輝くミネアの髪に、トエリュは目を細める。

「ふ、まあよい。いずれ。いずれお前の気持ちを変えてみせる」
「エルさま!」
慌てた様子でジンジャーが室内に飛び込んでくる。その背後には、この街に残る公国軍の指揮官。トエリュは表情を引き締めた。

「エルさま、空から人が降ってきました!ティエンザの、飛行船から人が」
窓辺を振り返る。
町並みの向こうに見える小さな船影は煙を吐きながら宙に揺れる。

「!ティエンザの兵士か!ここライト公領に攻めてきたというのか!?」

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史間さん~!!

そこ!そこ、叫んでくれますか!!
親方やライラとの出会い!
けっして意味のない出会いなどない、がテーマでございます♪

例のリレー小説。

なんとか、ええ、風邪と戦いながら書き終えました。…お茶を濁した感じです。
はふ、プレッシャーでした!

様々な想いが交錯

お、親方ー!!!
おおおおおお親方ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
ええ、もうぜひ呼び戻してあげて!大学にも行かせてあげて!←オイ
そんな優しい場面に涙ですっ
トエリュも、言うねぇ♪
そんなセリフ言われてみたいです*><*

ではまた!
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